第3話 解答編

文字数 1,172文字

――九月二十日(月) 午後一時 警察署内

警部、茂部が自供しました。

ギャンブルで相当な借金を抱えていたらしく、友人と共謀して狂言誘拐を企てたようですね。

やっぱりねー。

どことなく素人っぽい感じがしたのよ。

素人っぽい?

そうね。

最初に気になったのは、家のポストに写真が投げ入れられてたってことかしら。

……自分にはよくわかりませんが。

んもう、修行が足りないわよ。犯人の立場になって考えてごらんなさい。

犯人はどうして『わざわざ被害者の家に近付くなんてリスクを冒した』のかしら。
警察が張り込んでいるかもしれない家に行くなんて、かなり危険だと思わない?
……確かに!
事件を時系列で追ってみると、違和感に気付くわ。

まず、九月十日に茂部が家を出て以降、帰ってこなくなる。

そして十四日まで、失踪状態になっていたのよ。

しかも、茂部は資産家の息子。

警察に通報されている可能性は、考慮すべきだわ。

なのに犯人は、堂々と被害者宅へ立ち寄って、犯罪を行っているという証拠を置きに行ったのよ。

その場を取り押さえられたら、言い逃れようのないくらい決定的な証拠を。

そうですね。

写真のデータなんて、他にいくらでも送りようがありますし。

でも犯人が茂部自身なら、二、三日家を空けても、両親が通報なんてしないということがわかっている。

だから、きっと下見も兼ねて、家の近くまで行ったのね。

さすがに自分が行くわけにもいかないだろうから、仲間にやらせたとは思うけど。

じゃあ、警部はかなり始めの方から茂部を疑っていたんですか?

まあね。

でも、一番決定的なのは……どこかわかる? 黒鵜ちゃん。

決定的……ですか。
……そういえば茂部の様子、少し違和感があったんです。
なんだか、やけに家に帰りたがっているような……誘拐されたあとだから、おかしくはないんですが。
いいトコいってるわよ、黒鵜ちゃん!

ねえ、黒鵜ちゃん。

あなたが被害者だったら、家に帰って何がしたいかしら?

……そうですね。

まずは家族に会って、それからゆっくり休みたいですね。

それからは、シャワーでも浴びたいですね。
なにせ、一週間もまともに――あ!
ふふ、わかったみたいね。

そうだ、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ……!

答えは茂部のヒゲ、そうですね。
はあい、正解よ!

写真には茂部の無精ヒゲが写っていたのに、解放された直後のヒゲは剃られていた。

食事とトイレの時以外、拘束されていたにもかかわらず、ね。

それで、茂部の証言は嘘だと気付いたわけですね。

服さえ着替えさせてくれない犯人が、わざわざヒゲをそってくれたとは思えないからね。

そして、茂部が無実だとしたら、そんな嘘をつく必要はない。

なるほど。

……警部、案外まともに仕事をしていたんですね。

ひどい! ちゃんと事件を解決してこの言われよう!

尾根、泣いちゃう!

どうぞ、存分に。
……本当に泣いてやろうかしら。
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登場人物紹介

尾根警部。

通称オネエ刑事。体は男だが、心は乙女。


黒鵜警部補。

尾根の部下。優秀だがドSで口が悪い。

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