第43話 若草物語の四姉妹 オークスは乙女と指揮者の薫り(3)

文字数 1,473文字

2020年5月23日土曜午後、雨が止み曇りから晴れ間が覗くようになる。
シェアハウスのリビングで、85インチ8K液晶テレビに向かう住民たち。
L字ソファーには窓側短辺にはピンクの果凛にネイビーの冴。
テレビが正面の長辺には白色の惠。
その隣には何時ものエプロン姿の鞍さん。
ソファーの右、オットマンにはグレーの優が座る。
鞍さん除く女性全員が上下ジャージだ。
果凛曰く、レース後には『ビクトリアスタイル』姿になるので、着替えが楽にしたいからという。
優は普段そのままの姿だが。
観戦するレースは京都のメイン、ダート1900mのG3である平安ステークスだ。

「オメガパフュームの単勝が5.3倍、ゴールドドリームが4.3倍って、何なのよ?」
冴が3番人気と2番人気の馬名とオッズへ驚きの声を出す。
「冴姉ぇ、六連勝中のロードレガリスが3.0倍で1番人気。世の中は新星を求めているのかねぇ」
果凛がニューフェースに期待を寄せる。
「でも、スワーヴアラミスが5.4倍の4番人気、ヴェンジェンスも8.6倍の5番人気で人気は割れていますよね」
惠が『だからじゃないですか?有力馬のオッズがついているように思えるのは』と解説する。
「でもねぇ…」
呆れて口ごもる冴に優が言いたいことを代弁する。
「…ゴールドドリームがG1を五勝、オメガパフュームがG1を三勝、このメンバーでは実績は抜けてますね」
「そう、海外遠征帰りと斤量59kgが嫌われたのかねぇ」
冴が眉間に皺を寄せて悔しがる。
「なら、買っちゃいますか。ゴールドドリームとオメガパフューム」
笑みを浮かべる鞍さんがそう宣言した。
ただ、口元は真一文字で反発心を隠すような笑顔に見える。
「でも、鞍さん、冴姉ぇ。スワーヴアラミスやヴェンジェンス、ハヤヤッコとか重賞勝ち馬もいるし一筋縄ではいかないんじゃ…」
「G1馬二頭ともレース間隔が空いていますし、果凛さんの言う通り紛れはあるかもです」
「だから、オッズが割れているのよね」
果凛、優、惠の若手三人がリスクを展開した。
『確かに…』
鞍さんも冴も悩みを吐露する。
腕組みをして首を傾げ合う妙齢の女性二人。
「鞍さん、二頭の調教に注目だよ」
冴が沈黙を破る。
「一週前にCWをゴールドドリームは80.9-65.4-50.8-36.8-12.1を一杯で5月5日から合計三本」
「同じく、オメガパフュームは82.0-65.8-50.6-37.1-12.2を馬なりで4月22日から合計七本だよ」
冴が調教内容を披露し『今週も両馬時計出しているし、特にオメガパフュームは日曜にも意欲的に坂路に入り、水曜日にも一杯に追われて絶好の動き』だという。
「冴ちゃん、ゴールドドリームとオメガパフュームの単勝とワイドを買って」
鞍さんは冴の肩を両手で揺らした。
『私は複勝と馬連を買うわ』という。
『鞍さん…』と名前を呼び、その瞳の中の自身に宣言する『腹は決まった』と。
ゴールドドリームとオメガパフュームの単勝、ワイドの馬券を各5,000円が冴。
ゴールドドリームとオメガパフュームの複勝、馬連の馬券を各5,000円が鞍さん。
『1万円の予算はオーバーだけどいっちゃいましょう』と鞍さんが気合いを入れる。
若手三人は『なるほど』と理解しつつも『子どもみたいな大人』だと微笑ましく思える。
意地を張り、シェアハウスの様々な騒動からすると納得だが。
「さぁ、実力のある馬の強い競馬をみせてもらいましょう」
鞍さんがスッキリとした表情で、期待をテレビに向け両手を広げた。
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