第1話 とある田舎の大家族

文字数 872文字

 ここにひとつの家族がある。
 田舎の一軒家に住み、農業その他を営んでいる普通の家族だ。両親と祖母、数年前までは曾祖母も一緒だった。あと、私を含めた子どもたちが七人いる。
 とはいえ、今はもう上から四人は結婚して家を出ているし、元気な認知症の祖母は介護施設にお世話になっている。
 令和の日々は穏やかなものだ。

 両親が結婚したのは昭和の終わり近く、父が22歳、母が27歳の時だった。
 翌年に第一子が生まれ、そこから母は三十路の間に五人の子どもを出産して、最後に末っ子が生まれたときには42歳になっていた。産科医からは「あなたなら45歳までにもう一人産めますよ」と笑顔で言われたらしいが、その縁は我が家にはなかったようだ。
 私が若いころ、「42歳で出産した母はすごい」と思っていたのだが、自分が三十路に足を踏み入れた折、ある衝撃の事実に気が付いた。
 「母が42歳で末っ子を産んだ」時、「父は37歳」なのである。
 父は三十路で七人の子持ちになっていた。

 加えて、父の実母である祖母と、その姑に当たる曾祖母も一緒に住んでいた。平成の時点で既に少数派になっていた、多世代家族である。我が家の人数は約20年の間、いろいろありながら10人を超えていた。
 その「いろいろ」には、複数の同居人も含まれる。下宿先を探していた友人、家庭の事情で我が家に来た義理のきょうだい、就職難にぶつかった若者等々、多種多様な人が我が家で時を過ごした。
 一時期は結婚した子どもの一人が家族で同居しており、その時には曾祖母から玄孫に至る五世代家族が実現していた。曾祖母と玄孫の一人の年齢差は99歳、誕生日の関係で数週間だけ100歳違いになったので、記念に撮った写真もある。二人ともとても良い笑顔で納まっている。

 今、家にいるのは両親と下の子どもたち三人。家は随分静かになった。
 それでも、父は変わらず仕事をし、母はせっせと料理を作っている。母自身は、最近ようやく自分のために時間を使うことも始めたようだ。

 これから綴るのは、「結婚して家を出た娘」の一人による、愉快な大家族の記憶である。


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