第1話(6)

エピソード文字数 3,650文字

「あたしのコレには、飛行能力(ひこーのーりょく)の他にも力があるんだよー。みてみてっ」

 彼女が自分の背中を指差すと、ボンッ。金色の翼が生えてきた。

「この翼には聖なるパワーさんが宿ってて、羽ばたいた時に出る輝きにはねっ、周りの人を正気(しょーき)にさせる能力(のーりょく)が備わってるの。だからママさんが戻ってきたら、時々羽ばたいとけばセーフなんだよーっ」
「さ、さすが魔王……。チート染みてるな――って待てやゴラァ!」

 巻き舌で怒鳴ってやった。

「にゅむん? なーに?」
「なんで魔王様が聖なる力を操ってるんだよ!! アンタどうなってるの!?

 魔王といえば、属性は闇。聖なる光属性は、宿敵の専売特許だろ。

「あっ、そーだねー。このご説明(せつめー)を、しなきゃだよね」

 レミアはゴールドの翼をぽんぽんと叩き、パタパタと動かした。

「ゆーせー君。あたしは――あたしたちは頂点(ちょーてん)さんになったって、お話ししたよね?」
「うん。今方聞いた」

 全員、圧勝で優勝。皆が皆、最強なんですよね。

「そしたらお友達の1人がその職業(しょくぎょー)に飽きちゃって、他の職業を極めたいなって言い始めたの。あたしたちの力はその気になれば譲れて、他の人に宿せちゃうんだよー」
「ほ~。そんな仕様になってんだ」
「でそーゆーお話を聞ーてるうちに、みんなも他の職業に興味(きょーみ)を持っちゃってねっ。クジさんを作って、引いた紙に書いてたのと交換(こーかん)をするよーにしたの」
「へー」

 先代が耳にしたら、椅子から転げ落ちそうだな。その場にいなくてよかったですわ。

「でも制限(せーげん)があって、力を全部なくすのはブブー。だからあたしたちは、力の9割くらいを交換っこするコトにしたんだっ」
「あーね。それでアナタは魔王を名乗ってるけど、そういう力があるワケだ」
「ピンポンだよーっ。あたしは魔王(まおー)の能力(のーりょく)を出して勇者(ゆーしゃ)さんの能力を入れて、『魔王勇者(まおうゆうしゃ)』になったの」

 レミアはニコニコと語り、右手を横に伸ばす。

「いでよっ。我に力を貸したまえーっ!」

 そう発すると、彼女の手の周りの空間が湾曲。グニャリと渦巻き状に歪み、右の手に刃も柄も金色の剣が現れた。

「これは勇者さんの愛器、聖剣・『黄金浄化(おうごんじょうか)』。特に悪意のある存在や、魔王に大ダメージを与える名剣だよー」
「は、はぁ。さいですか」

 おかしな点が多すぎて、もう追及できない。これって、ドラキュラが銀の十字架を握ってるようなもんだぞ。

「あたしは魔王だから、握ってるとビリビリしちゃうんだー。うっかり刃の部分に触っちゃうと、命が危ないかもだよー」
「は、はぁ……。さいですか……」
「そだっ、折角だから威力を披露(ひろー)するね。『戦場空間(せんじょうくうかん)』、展開っ」

 ポッカーンとしていたら魔王陛下が御声を御上げになられ、それを合図に御空気が異様に御冷たくなった。

「ここは『力』のある人なら誰でも作れる、戦闘の際周りに被害を出さないよーにするタメの空間(くーかん)なのっ。景色は一緒であるモノもおんなじだけど、この世界で壊れてもあっちでは壊れてないんだよー」
「バトルもので、よくある設定だね。もう一捻りほしかったです」
「にゅむ? 捻り?」
「ああなんでもない。どうぞ続けてくださいな」

 この子に、捻りようはないんだ。こういう文句はやめておこう。

「でーは、『黄金浄化』の破壊力をお見せするねっ。いっくよー、てやー!」

 小さな子が大きな棒を振るように、両手で持って可愛くブンッと得物を振り下ろす。したらば金色の衝撃波が飛び出し、マイホームの壁を破壊。だがそれでも衝撃波さんの邁進は止まらず、その先にある民家を全て貫きましたです。はい。

「……やっぱ、全次元最強は違うな……。手加減して撃たないと、近くにいる仲間まで殺しそうだ……」
「ゆーせー君、これはすっごく手加減してるよー。今のは『金刃放出(きんはほうしゅつ)』とゆー技で、威力は1番強い技の1000000000000分の1だね」
「本気になったら、これの一兆倍のを出せるのかよ! 強いってレベルじゃないぞコレは!!

 もう化け物。もしもコイツ――いやコイツらが好戦的だったら、今頃どの次元も荒野と化してる。

「どーかなどーかなっ? ビックリ仰天してくれたかなー?」
「度肝を抜かれましたよ。すさまじいパワーでした」

 描写していませんでしたが、『金刃放出』の余波で室内はグチャグチャ。6段になったバースデーケーキなんて、上の5段が潰れちゃってるよ(注 これは別世界のケーキ。本物はあとで、スタッフが美味しく頂きます)。

「そーだよね、すっごいでしょーっ? こっ、これならさっ、ぼ、ボディーガードだって務まるんじゃないっかなー?」

 自然な流れにしようとしているが、目が泳いでる。どうも彼女はこうやって、自分の魅力をアピっているようだ。

「ねっ、ね? 契約(けーやく)、したままにしよーよ」
「むぅ……。懸念していた問題はなくなったし、キミがいれば泥棒強盗の心配はないんだよなぁ」

 この世はなにかと物騒で、傍にいてくれたら安心っちゃ安心。これは、契約したままでもいいかもなぁ。

「そーそーだよっ。あたしがいれば、身の安全は保証(ほしょー)されますーっ」
「だよねぇ。これほど頼もしい人物は、他にいませんもん」
「にゅむむっ、褒めてくれてありがとー。あたし幸せな気分になったから、勇者(ゆーしゃ)さんの技をも一つお見せするねっ」

 レミアは上機嫌で俺から距離を取り、剣の柄を再び両手で握る。

「今回お見せする技のお名前は、『周囲金滅(しゅういきんめつ)』。その場でくるんと回転斬りをして、360度に輪っか型の金色の衝撃波(しょーげきは)を発射するんだよー」
「は~、こっちも強烈だね。んじゃ見せて頂きましょうか――んんん?」

 周囲、金滅? 360度に、輪っか型の金色の衝撃波を発射する?
 これって…………。

「にゅむんっ、かしこまりましたーっ。いっくぞぉー!」

 魔王様は駒のように高速で回転し、言葉通り彼女を中心として○の衝撃波が発生する。そしてそれは波紋のように広がってゆき、『周囲』にいる俺にも襲い掛かってくる。

「思った通りだっっっっ! そこで使ったらこっちにも当たるじゃないか!!

 俺は慌ててしゃがみ、すんでの所で『周囲金滅』を回避。事前に怪しんでいなければ、今頃天国でした。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。血の気が、引いた……」

 顔面蒼白になり、独りでに膝が折れて尻もちをつく。
 あ、あとからドッと、寒気や震えが押し寄せてくる……。これが、死の恐怖か……。

「ご、ゴメンねゆーせー君! ワザとじゃないのっ」
「…………それは、分ってるよ。夢中になってて、周りが見えてなかったんでしょ?」
「そ、なの。おケガはなーい?」

 俺の前で正座をし、ウルウルになったツリ目で覗き込んでくる。
 ひ、秘密だ。少しチビッてトランクスが湿っているのは、僕と貴方様だけの秘密だ。

「どうにか避けたんで、大きなケガはないよ。座り込んだ時に肘を打ったくらいかな」
「にゅむぅ。よかった…………けど、痛い思いはしちゃってる。なにかお詫びをしなきゃだよ」
「ああ、そこはお気になさらずに。こんなの、日常生活を送っていてもよくあるよ」

 ついこないだも、体育で転んで両膝と左肘を擦り剥いた。この程度は日常茶飯事なのです。

「にゅむむん、だからって何もしないのはブブーだよっ。えっと、えっと、なにかなにか……」

 レミアは両手で自分の側頭部を押さえ、思案する。
 その可愛らしい仕草と冷たく尊大系の容姿が相まって、ギャップ萌えにというヤツに目覚めそうになった。というのも、僕と貴方様だけの秘密です。

「にゅむー……。にゅむむ……。にゅむぅー………………そだっ!」

 お。なにか思い付いたみたいだ。

「ゆーせー君、これを差し上げます。どーぞ受け取ってくださいっ」

 彼女は、漆黒の飴玉が載った右手をこちらに差し出す。
 ??? この人、どこから飴を出したんだ……?

「にゅむっ。どぞどぞだよー」
「う、うん。どもです」

 色がとてつもなく不気味だが、この子は害を与えるモノを渡しはしないからな。飴ちゃんを受け取り、口の中に放り込んだ。


 スゥ
 口内に入ると、まるで砂糖のように溶けた。


 パァ
 砂糖みたいに溶けると右手の甲に黒い六芒星が浮かび上がり、やがてそれは消えた。


「おいこら。なんなんだこれは」

 嫌な予感しかしない。だから聞きたくないけど、聞かないと永遠に不安だから教えなさい!
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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