秋川怜(16)
文字数 1,998文字
「上手くいかない事なんていっぱいあるじゃない。」
と、人は言う。
私が上手くいかないと感じたのは、いつだったっけ。そう、確か12歳。
私の周りにいつも人はいなかった。
話の輪に入らずいつもボーっと頭の中で『もしも』の世界を作ってた。
「もしも空からお菓子が降ってきたら。」
そんな感じだからクラスではキモイって嫌われていた。
でも、もしもの世界に入り浸っていた私にはどうでも良かった。
私は成績優秀だった。
両親からは褒められ、妹も凄いって私を誇りに思ってくれた。
だから、家の中で怒号が毎日とび交っていても幸せだったの。
12歳の時、お母さんとお父さんはさよならした。私はその意味を知っていたけど、妹はよく分からなかったみたい。
「お父さんは、いつ帰るの?」
と妹。
次の日にテストがあった。
私は初めて酷い点を取った。
お母さんが溜息をついた。
新しいお父さんが出来た。私達は新しい家に引っ越した。知らない土地。
「もしもこの土地で生まれ変われたら。」
と想像してみる。
私は今までとは違う自分になろうと思ったの。
みんなから好かれている女子がしていた行動を必死で真似ようとした。
確か声が小さくて高くて。字も小さくて丸い。優しくて笑顔が多くて。
嫌われる事に慣れていたけど、どうせなら好かれたい。
「もしも私を誰か好いてくれるなら。」
そのかすかな希望もうち砕かれた。
何がダメだったんだろう。
「ブス。」
と言われた。
あぁ、そっか。
顔がダメだったんだ。
「ただいま。」
家に帰ると、妹の楽しそうな笑い声が聞こえる。お母さんに学校での事を話しているのかな。
上手くいったみたい。良かった。
……うん、良かった。
お義父さんが帰ってきて夕食。目の前に座ったお義父さんの顔をチラっと見た。顔がシュッとして整っている。お母さんは綺麗だし。妹はお母さん似だな。羨ましい。
私は……。
中学生になった。嫌われ度合いは変わらなかったけど、友達は出来た。
「今日、用事あるから当番変わってくれる?」
うん、いいよ。
「この前、行った店、また行こうよ~。」
私、誘われてない。
「あの服、ダサくない? マジ無理。」
……それ私が好きって言ったのに。
「私達みんなずっと友達だよ~!」
そうだね友達だよね。
だったら、どうして私へのいじめを見ないフリするの?
私は大丈夫、私は大丈夫。目の前で悪口を言われても大丈夫。友達が侮辱しても大丈夫。
先生に訴えて、先生がいじめっ子の肩を持って逆に謝らされても大丈夫。
お母さんが、私の顔を見て
「何であの男に似てんのよ!」
って怒って私を叩いても大丈夫。お義父さんが、
「お前がいなくなれば良かったのに!」
って私を殴っても大丈夫。
私が悪いんだもん。私の存在が悪いんだもん。
大丈夫大丈夫大丈夫。
事故で死ぬのは私だったら良かったね。
頭は悪い、運動は出来ない。誰からも嫌われている。
私の生きる意味って何?
私は想像してみた。
「もしも私がこの世界から消えたら。」
みんな幸せなのだろうか。
高校生になった。同じ中学の子がいなそうな場所を選択した。
登下校には電車を使う。毎朝ギュウギュウに人が詰められた閉鎖的な箱の中で揺られながら学校に通う。誰も面識のないクラスメート。誰かに好かれようとせず、静かに過ごそうと誓った。
「ただいま。」
帰宅すると、母の啜り泣きが耳に入ってきた。きっと、また妹の写真の前にいるのだろう。
あの子は帰ってこないのに。
イラっとした。
今日も電車に揺られている。二駅目で、同じ制服を着た女子二人が入って来た。
静かな電車の中で二人のヒソヒソ話が聞こえる。
私は心臓の音が速くなった気がした。
二人は話しながら、プッと吹き出す。
呼吸が段々と荒くなる。
「もしも私の悪口を言っていたら。」
という想像が私の脳裏によぎった。
笑われているのは私かな。
きっと考え過ぎだ。
そう思っても悪い想像がその後も離れる事は無かった。
帰りの電車で男性にぶつかった。私はとっさに謝ろうとしたが、それよりも先に舌打ちが聞こえた。
悪いのは私じゃないのに。
ぶつかってきたのはそっち。
苛立つ事が多くなった。
帰ると義父と母は外食していた。
私はとりあえずカップ麺でも食べようと湯を沸かす。キッチンで三分待つ。
その間、変な想像をしてしまった。
キッチンの引き出しに手をかける。
でも……とやっぱりやめた。
それは、良くない事だもの。
家庭科の時間が中断されて、先生が私の家に電話を入れた。
別にそんな事くらいで電話入れなくて良いじゃない。
あの子が笑ってたから、苛ついただけなのに。
ねぇ、お母さんお義父さん。どうして私をそんな目で見るの? どうして? どうして?
あの時、私は想像したの。
「もしもこの世界が私から消えたら。」
私は幸せになれるんだろうか。
知らない人達が家を訪ねてきた。
ごめんなさい、お母さんとお義父さんは眠っちゃったの。
上手くいかないなら、もう、何もいらない。
……これが私のした事です。他に聞きたい事ってあります?
と、人は言う。
私が上手くいかないと感じたのは、いつだったっけ。そう、確か12歳。
私の周りにいつも人はいなかった。
話の輪に入らずいつもボーっと頭の中で『もしも』の世界を作ってた。
「もしも空からお菓子が降ってきたら。」
そんな感じだからクラスではキモイって嫌われていた。
でも、もしもの世界に入り浸っていた私にはどうでも良かった。
私は成績優秀だった。
両親からは褒められ、妹も凄いって私を誇りに思ってくれた。
だから、家の中で怒号が毎日とび交っていても幸せだったの。
12歳の時、お母さんとお父さんはさよならした。私はその意味を知っていたけど、妹はよく分からなかったみたい。
「お父さんは、いつ帰るの?」
と妹。
次の日にテストがあった。
私は初めて酷い点を取った。
お母さんが溜息をついた。
新しいお父さんが出来た。私達は新しい家に引っ越した。知らない土地。
「もしもこの土地で生まれ変われたら。」
と想像してみる。
私は今までとは違う自分になろうと思ったの。
みんなから好かれている女子がしていた行動を必死で真似ようとした。
確か声が小さくて高くて。字も小さくて丸い。優しくて笑顔が多くて。
嫌われる事に慣れていたけど、どうせなら好かれたい。
「もしも私を誰か好いてくれるなら。」
そのかすかな希望もうち砕かれた。
何がダメだったんだろう。
「ブス。」
と言われた。
あぁ、そっか。
顔がダメだったんだ。
「ただいま。」
家に帰ると、妹の楽しそうな笑い声が聞こえる。お母さんに学校での事を話しているのかな。
上手くいったみたい。良かった。
……うん、良かった。
お義父さんが帰ってきて夕食。目の前に座ったお義父さんの顔をチラっと見た。顔がシュッとして整っている。お母さんは綺麗だし。妹はお母さん似だな。羨ましい。
私は……。
中学生になった。嫌われ度合いは変わらなかったけど、友達は出来た。
「今日、用事あるから当番変わってくれる?」
うん、いいよ。
「この前、行った店、また行こうよ~。」
私、誘われてない。
「あの服、ダサくない? マジ無理。」
……それ私が好きって言ったのに。
「私達みんなずっと友達だよ~!」
そうだね友達だよね。
だったら、どうして私へのいじめを見ないフリするの?
私は大丈夫、私は大丈夫。目の前で悪口を言われても大丈夫。友達が侮辱しても大丈夫。
先生に訴えて、先生がいじめっ子の肩を持って逆に謝らされても大丈夫。
お母さんが、私の顔を見て
「何であの男に似てんのよ!」
って怒って私を叩いても大丈夫。お義父さんが、
「お前がいなくなれば良かったのに!」
って私を殴っても大丈夫。
私が悪いんだもん。私の存在が悪いんだもん。
大丈夫大丈夫大丈夫。
事故で死ぬのは私だったら良かったね。
頭は悪い、運動は出来ない。誰からも嫌われている。
私の生きる意味って何?
私は想像してみた。
「もしも私がこの世界から消えたら。」
みんな幸せなのだろうか。
高校生になった。同じ中学の子がいなそうな場所を選択した。
登下校には電車を使う。毎朝ギュウギュウに人が詰められた閉鎖的な箱の中で揺られながら学校に通う。誰も面識のないクラスメート。誰かに好かれようとせず、静かに過ごそうと誓った。
「ただいま。」
帰宅すると、母の啜り泣きが耳に入ってきた。きっと、また妹の写真の前にいるのだろう。
あの子は帰ってこないのに。
イラっとした。
今日も電車に揺られている。二駅目で、同じ制服を着た女子二人が入って来た。
静かな電車の中で二人のヒソヒソ話が聞こえる。
私は心臓の音が速くなった気がした。
二人は話しながら、プッと吹き出す。
呼吸が段々と荒くなる。
「もしも私の悪口を言っていたら。」
という想像が私の脳裏によぎった。
笑われているのは私かな。
きっと考え過ぎだ。
そう思っても悪い想像がその後も離れる事は無かった。
帰りの電車で男性にぶつかった。私はとっさに謝ろうとしたが、それよりも先に舌打ちが聞こえた。
悪いのは私じゃないのに。
ぶつかってきたのはそっち。
苛立つ事が多くなった。
帰ると義父と母は外食していた。
私はとりあえずカップ麺でも食べようと湯を沸かす。キッチンで三分待つ。
その間、変な想像をしてしまった。
キッチンの引き出しに手をかける。
でも……とやっぱりやめた。
それは、良くない事だもの。
家庭科の時間が中断されて、先生が私の家に電話を入れた。
別にそんな事くらいで電話入れなくて良いじゃない。
あの子が笑ってたから、苛ついただけなのに。
ねぇ、お母さんお義父さん。どうして私をそんな目で見るの? どうして? どうして?
あの時、私は想像したの。
「もしもこの世界が私から消えたら。」
私は幸せになれるんだろうか。
知らない人達が家を訪ねてきた。
ごめんなさい、お母さんとお義父さんは眠っちゃったの。
上手くいかないなら、もう、何もいらない。
……これが私のした事です。他に聞きたい事ってあります?