第38話

文字数 1,112文字

 そうやって少し気を紛らわせ、手紙を取り出した。同じ系統の水色で、見慣れないペンギンのようなキャラクターが下の方にプリントされている。三年生の頃からだろうか、女子の間ではこういう便箋を回しあったり、「サイン帳」と呼ばれるプロフィールカードのようなものを書き合う風習が出来上がっていた。一部のモテる男子にもその紙は回ってきているようだったが、龍太は一枚しか書いたことがなかった。それは山田さんからでは勿論なく、今は三組にいる子からのものだった。

 そして気持ちを落ち着かせ、本文を読んだ。


「黒木君、こんにちは。読む時間が夜だったら、こんばんは?
 まあ、どっちでもいいよネ。

 今、クラスでやすし君がいじめられていることに、ちゃんと気付いてくれる人がいてよかったです。それが黒木君だったのは、さすがだなあ、と思いました。だって一学期のことがあっても気にしてあげるなんて、すごいよ。

 やすし君はいままでいろいろヒドイこともあったけど、いじめられる姿はやっぱりかわいそうだと思います。酒井君や松本君がやすし君と直接ケンカしてくれる方が、すっきりするんだけど、なんだかむつかしい感じですね(あ、暴力反対!)。私からみて、酒井君がやすし君を強くきらっているように思うけど、黒木君はどう思いますか?

 で、黒木君が聞きたいのは真由美ちゃんのことだよね。
 あの子は、夏休みに野球の試合を見に行って、酒井君が大かつやくしたのを見たようです。それで、松本君の家が甲子園を狙っているのは有名だから、あの二人が自分を甲子園に連れて行ってくれる、という夢をみているみたい。私はその実力とか、分からないけど、まあ、楽しそうにしている。そうすると、やすし君じゃなくて四年生とかでうまくなりそうな子を、もっと練習させようと思っているみたい。それに真由美も協力する、とか言っているんだけど、その手段があれみたいです。ちょっとおかしいのは、みんな気付いているんだけど、絶対黒木君は内緒にしてくれると思うから書きますが、悠子ちゃん(井崎さんのことです。隣だから分かるかな?)が真由美ちゃんの言うことをいちいちあおるのよ。絶対内緒ですが、悠子ちゃんは松本君が好きみたいで、自分も同じヒロインのつもりなのね。マッタクなあ。

 そういうことで、私や何人かの女の子はあきれていますが、あの二人はああいう子なので、こっちが仲間はずれになるのもこわいです。だから今はだれもなにもしていません。

 もし黒木君が何かやってくれるのなら、私も手伝いたいです。その時は、教えてください。でも、目立たないようにね!
                                  山田 陽子」
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