第15話 クローブの誕生日

文字数 670文字

超高層タワーマンションに住むクローブ。高校1年生。

父は弁護士、母は裁判所勤務。


重婚と事実婚、同性婚が認められている州国。

父と母はそれぞれ別にメインの家庭を持っており、ほとんど家に帰ってこない。


事故死した兄の月命日だけ、3人で会食をすることになっていたが、最近では両親とも仕事が多忙という理由で、キャンセルが続いている。

今日、10月7日はクローブの誕生日。


テーブルの上にはハウスキーパーが用意した、オードブル、焼き菓子、ミニブーケが置かれている。

メールを開くと、父と母それぞれから「これで好きな本でも買いなさい」とギフトカードが送られていた。


クローブはミネストローネを温め直し、窓の外を見下ろしながらサーモンのマリネサラダとアスパラガスのキッシュをつまむ。

世の中には両親がいない子や、虐待されていたり、貧乏だったり、もっともっと可哀相な子はいっぱいいるんだから。

私なんてとても恵まれいる。


……1人にも慣れたし。

お互い関心ない家族が集まって、変に気を遣われるより、かえってせいせいするわ。

クローブは1か月前から、窓の外、眼下に広がる幻覚に悩まされていた。


見渡す限りの流氷……月光が冷ややかに反射している。

この幻覚だって、じきに治まるはず。


全国的に幻覚を見る子は増えているっていうし。

クローブは我慢していたけど、ある日、とうとう幻覚が夢に出てきた。
ハァハァ……まだドキドキしている。


私、流氷の上に立っていた。氷にヒビが入ってもう少しで冷たい海に落ちそうだった。


……怖かった!

その日を境に、夜ごとクローブの夢に、流氷が浸食するようになったのだった。
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