2 真実はどこに

文字数 1,570文字

「男子生徒から誂われたのがきっかけで男が苦手?」
「そうらしいな」
 他に気になる点は? と問われ、
「彼女、内部生なのね」
と愛美。 
「あの大川のご令嬢だ」
「あの、というと資産家で有名な」
 彼女の祖父がたまに雑誌に出てるなと海斗。
 
 大川結菜は内部生であることも、資産家の娘なことも隠して大学部に通っているようだ。
 奏斗は彼女の素生について知っているのだろうか。
「婚姻については両者の意思で認められてはいるが、そう簡単な話じゃないだろうな」
 婚姻については気が早すぎると感じたが、つまりは身分違いの恋というやつだ。いくら自由にさせて貰えると言っても恋愛と結婚では別ものだろう。

「美月も大して変わらないだろ? 白石家は一般家庭だぞ。裕福ではあるだろうが」
「わたしは大丈夫。お父様には話してあるから」
 海斗は深いため息をつくと、
「何がそんなに良いのかねえ」
と感想を零す。
「奏斗だから好きなの」
 他の人だったらこんなに執着しないだろう。分からなくていいのだ、他人には。

 与えられる快楽に否定的な奏斗。
 それでも愛美を拒まない。
 だから彼の熱を解放する度に悦楽に支配される。”なんでこんなことするの”と言うように、涙目でこちらを見る彼に欲情した。
 彼は本能に従わない。だから愛美に手を出さない。そう思ってた。

「本当に知りたいのか?」

 再会した日、彼の心は自分に向かっていたと思う。少なくとも今よりは。
 だがそれが段々離れていったとすると、大川結菜に惹かれているというよりは『愛美のところに戻れない原因』があるように感じてしまう。
 付き合っていたころの彼は愛美との未来を夢見ていたのだ。喧嘩別れは互いが嫌いになった原因でなく、今でも自分を好いてくれているというのなら彼の中に『戻れない理由』があるに違いない。
 それを知らなければ前には進めない。

「後悔するかもしれないが、それでも?」
「いいわ。奏斗が何故わたしのところへ戻ろうとしないのか、その本質を知りたいの」
 見える良い部分だけ見て好きだというのは本当の好きではないと思う。
 何を知っても変わらない、それが好きと言うことだと思うから。
 海斗が胸ポケットから封筒を取り出し愛美へ向ける。
 愛美はそれを受け取った。

 封筒の中身を取り出しながら思う。
 奏斗には結菜以前に交際をしていた相手がいたといっていた。きっとそれが愁いの原因。まだその人が好きだというのだろうか? 
 そうならそうと言っただろう。気になるのはあの時の会話だ。

『だって、好きだからつき合うんでしょう?』
『そう……なのかな』
 少なくとも自分は”好意”を持ってつき合ったわけではないと聞こえた。

「奏斗、男性とおつきあいしてたの」
「そうみたいだな」
 自分と別れて”もう、女はいい”と思った。とも考え辛い。現に今、彼がおつきあいをしている相手は女性だ。
「わたしにそれを知られるのが嫌で?」
「どうかな」
 誰が誰とつき合おうが自由だと思う。
 愛は誰かに縛られるものではない。互い好きなら他人がとやかく言うべきではないと思っている。愛美から偏見を受けると思っているなら心外だ。

「え……」
 偏見程度のことなら誤解を解けばいいと思っていた愛美はその先で言葉を失う。
「なんでそうなったのか。そこはたぶん当事者しか知らないだろうな」
 奏斗はどうやらその男子学生の義理の姉とも交際していたようだ。
 問題はそこではなく、高校卒業と同時に別れたとある。
 交際期間は数か月。どうやって調べたのかも謎だが、時期に何か意図的なものを感じる。

「肉体関係あり、というのは?」
「何度も一緒にホテルに入るのを目撃されているようだ」
 だが場所は愛の営み専門のところではない。食事だけの可能性もある。
「もっとも、”あり”というのは憶測に過ぎないが」
 
 ──奏斗は遊ばれてたってことなの?
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