花畑(3)
文字数 4,009文字
そこは素晴らしい世界だった。なぜか外の音はまったく聞こえなかった。シンとした中で微かに葉と葉のふれあう音や花びらが少しずつ開いていく音、蝶が舞う羽音が聞こえてくるようだった。少女はまるで蜜を集める蜂のように忙しく咲き乱れる花の香りをかいで周った。美緋絽はその後を追いながら花畑の中へ深く深く入って行った。
まさに夢の世界。そしてむせ返るような花の香りに酔って頭がぼぅーとした。ふと見るとチューリップに 似た白い花が一面に咲いていた。でもよく見ると、花びらはとがっていて葉はチューリップよりもかなり細く花に詳しくない美緋絽でもチューリップとは別種と気がついた。群れて咲くその花は繊細な雰囲気を醸しだし、可憐で美しかった。
そんな花々の中に細い水をやさしく吹き上げる手作りの小さな噴水があった。美緋絽は思わず近寄ってそのへりに腰をおろし、光る水の玉に手をのばした。
(冷たい・・・)
指先に感じる水の感触が美緋絽の体中に染み込んでいくようだった。その様子をじっと見ていた少女がゆっくりと近づいて美緋絽のすぐそばに座るとその瞳をのぞきこむようにみつめた。
「あなたは妖精なのよね?」
あまりに突然な言葉に美緋絽は驚いた。
(ようせい…妖精?て私のこと?)
「妖精なんでしょ?おばさん言ってたわ。」
あまりのことにまだ言葉が出ない美緋絽に構わず少女は続けた。
「花がたくさん咲く森には妖精がいる、て。愛情を持って花を育て続けるとその花園に妖精が住むようになるんだって。花の妖精は幸せを運んでくれるって。」
少女は大きな期待を持って願いをかけるように美緋絽を見つめた。
(ちがう、て言わなくちゃ。)
美緋絽はゴクリと唾を飲み込む音が少女に聞こえたのではないか、と思うほど自分の体中に響いた。
耐えられず思わず視線をはずすと、奥まったところで黙々と作業をする一人の男性が目に入った。それは先ほど食事の席に遅れて着いたあの若い男性だった。その視線に気づいた少女は小声で言った。
「桂太 おじさんよ。おばさんのだんなさん。この花畑のお世話をしてるの。」
そういうと少女はいきなり桂太の方に駆け出し手を振りながら大声で叫んだ。
「おじさーん。」
美緋絽はとっさに身を縮込ませたがその心配にはおよばなかった。やはり桂太には美緋絽が見えていないようだった。
桂太は顔を上げると少女に向かって手を挙げた。少女は振り返って美緋絽に手招きをした。あまり桂太の近くには行きたくないと思ったが、美緋絽はしぶしぶ少女の後に続いた。近くまで行くと桂太が熱心に花がら摘みをしていることがわかった。咲き終わった花を取り去ることでさらにたくさんの美しい花を咲かせるのだとマユミから聞いたことを思い出した。
「椿子 、お前あさって帰るのか?」
「うん・・お母さんがそう言ってた。」
椿子とよばれた少女は口ごもりながら答えた。
「カラスウリ、もうじき咲きそうやけどな。」
花がら摘みの手を休めることなく桂太が言った。
「お前だけもう少し残ったらどうや?ずっと見たい、て言うてたやろう。」
「見たいよ。・・・結局いつも見られないんだもん。」
椿子が不満そうに言った。
「じゃあお母さんに言え。カラスウリの花見てから帰るから残る、て。」
下を向いたまま作業を続ける桂太の顔から汗が落ち、乾いた土に染み込んでいった。
「・・おじさん言ってよ。」
「なんでやぁ。」
椿子の言葉に桂太が顔を上げた。
「おまえなぁ、自分のことなんやから自分で言え。自分の思うとることちゃんと言えんとだめや。」
桂太はじっと椿子を見据えたが下を向いたまま言葉を発しない椿子の様子を見て、再び花がら摘みの作業にもどった。
黙々と作業をする桂太をしばらく見ていたが、やがて椿子はその場を離れて歩きはじめた。美緋絽も後からついていくと奥まったところにある古びた小屋にやってきて、椿子は黙ってその壁面を指さした。そこには壁一面に植物が絡みついていた。ツタのように見える大きなハート形の葉の間に薄緑色の小さな蕾が点々とついていた。
「カラスウリ。」
椿子は怒ったように言った。
「この花が咲くところが見たいの。白くてレースの飾りみたいなきれいな花でね、真夜中に咲くの。その話をおばさんに聞いてからずっと見たいと思っているんだけど、見たことがないの。・・・いつも私がここにいる間に咲いたことがないのよ。」
悔しさを滲ませながら椿子は言った。
美緋絽は桂太の言っていた言葉を思い出していた。残りたい、と言うことが簡単に言える人もいれば、そうでない人もいる。美緋絽にはそれがよくわかった。そして椿子が母親に言えない何かがあるのだと察し、桂太と同じことを言う気にはなれなかった。
「レース飾りの花、見てみたいね。」
美緋絽は素直な気持ちを口にした。
「じゃあさ、今晩咲かしてよ。」
いたずらっぽい笑みを浮かべて椿子が言った。
「そう・・できたらいいのに。ごめんね。私、できないの。できたらいいな。」
美緋絽の言葉に椿子はゆっくりとうなずいた。
どのくらいの広さがあるのだろうか。そこはまさに花畑と言うのにふさわしい場所だった。花の種類別に植えられているところもあれば、野原のように様々な花が混じって咲いているところも、柵に絡まって咲いているものもあった。マユミさんが毎日庭に出て花の手入れをしている様子を見ていた美緋絽には、これだけの花を咲かすのがどれほどすごいことか想像がついた。
「おばさん、てこの花畑をどうやって作ったのかしら。」
独り言のように言った美緋絽の言葉に椿子は
「おじさんと2人で使わなくなった酒造用の田んぼに土を入れて花苗を植えていったのよ。最初はほら、あの入口のバラの柵のあたりからよ。」
さっき美緋絽が通った畑の横の細いあぜ道から続くあたりを指さした。
「
「おじいちゃんの家はずっとお酒を造っていたのよ。今はもうやめちゃったけどね。」
あのたくさん並んでいた樽は酒を造っていたものなのか、と美緋絽は納得した。
「お酒を造らなくなったからもうお米を作る必要もなくなって、最初はその田んぼを人に貸すことになっていたみたい。でもね、お花を作りたいから田んぼを使わせてほしい、てお願いしたの。おじさんとおばさんはね、大学で植物の勉強をしていたんですって。」
植物の勉強をする大学があるのだ、と美緋絽は思った。
「おばさんたちはただ花を咲かせているだけじゃなくて研究もしているのよ。」
「研究?」
「そう、品種改良とかね。それはものすごく時間がかかることで、子供が大人になるくらいだって。いいえ、それよりもっとかかることもあるんだって。
たくさん花を咲かせるとその中にちょっと普通のとは違う花が咲く時があるんですって。」
「普通のとは違うもの・・?」
「それが大事なんだ、ておばさんは言っていたわ。他のとちがう、ていうのは素敵なことだって。」
(他と違うことが素敵なこと?)
「もちろん普通のはいいけど、おばさんは違うのも大好きだって。」
その言葉の意味を美緋絽は頭の中で考えながら思わずつぶやいた。
「私は普通じゃないのかな・・」
「そうね、ちょっと普通とは違うわね。少なくとも私が思い描いていた姿とはだいぶ違うわ。」
最初、椿子が何のことを言っているのかと思ったが、まだ自分のことを妖精だと思っているのだと気付いた。
「私のこと、なんで妖精だと思うの?」
「なんで、てわかるの!直観かな。」
椿子の顔は自信で満ちた表情になった。そして急に真剣な顔になって言った。
「私が妖精に会いたかったのは、願いをかなえてくれると聞いたから。私、たくさん願いがあるの。でも妖精は気まぐれだしちょっぴりいたずらっ子で、時々人を困らせたりする。だから欲張ったりしない。1つだけ、1番お願いしたいことをかなえてもらいたいの。」
「それは・・何?」
「私、今の自分から変わりたいの。変われるかしら?」
まっすぐに美緋絽を見つめる目に強い力を感じた。
「・・・きっと・・変われると思う。」
「本当?ホントにホント?」
美緋絽はしっかりとうなずいた。理由はわからなかったが、なぜか強くそう感じた。美緋絽自身、そんな自分に驚いていた。
お使いに行く用事を頼まれているという椿子と分かれて美緋絽は再び花畑の中の小さな噴水のわきに腰を下ろした。ちょろちょろと音をたてて細く噴き出す水がきらきらと光って水面に落ちていく様子を眺めながら、今朝からのことを思い返していた。
最初、夢だ夢のはずだと自分に言い聞かせていたことがなんだか遠い昔のようで、今はもう夢かどうかということなどどうでもよくなっていた。そして花の妖精に間違えられたことがとてもおかしかった。
(妖精に会いたいのは私だな。)
思わずククッと声をたてて笑って美緋絽は仰向けに寝転んだ。地面を覆うやわらかな草がそっと美緋絽を包みその感触が心地よかった。青い夏の空にはぽつんと浮かぶ雲がひとつふたつ、みっつ・・・空気を胸いっぱいに吸い込んでゆっくりと吐き出すと体中の力が抜けていった。
かすかなモーター音がして美緋絽が目を開けると目の前に真っ白な画面のパソコンがあった。そこはいつもの美緋絽の部屋だった。首をいそがしく左右に動かし部屋を探ったが、特に変わったことはなかった。改めてパソコンに向かいマウスを動かしてみたが反応はなく、どうやらフリーズしているようだった。
強制終了をしてパソコンを閉じると美緋絽は大きく息をついた。時計を見ると2時を少し回ったところだった。ということはパソコンでマユミさんのものと思われるホームページに入ったときから約1時間、自分は寝ていたことになる。
(そんなに速攻で寝たのかな、私。)
不思議に思いながらも、軽い倦怠感があり再度パソコンを立ち上げてあのホームページにいこうという気にはならなかった。美緋絽はリビングにパソコンをもどし、ベッドに潜り込むとすぐに眠りについた。
まさに夢の世界。そしてむせ返るような花の香りに酔って頭がぼぅーとした。ふと見るとチューリップに 似た白い花が一面に咲いていた。でもよく見ると、花びらはとがっていて葉はチューリップよりもかなり細く花に詳しくない美緋絽でもチューリップとは別種と気がついた。群れて咲くその花は繊細な雰囲気を醸しだし、可憐で美しかった。
そんな花々の中に細い水をやさしく吹き上げる手作りの小さな噴水があった。美緋絽は思わず近寄ってそのへりに腰をおろし、光る水の玉に手をのばした。
(冷たい・・・)
指先に感じる水の感触が美緋絽の体中に染み込んでいくようだった。その様子をじっと見ていた少女がゆっくりと近づいて美緋絽のすぐそばに座るとその瞳をのぞきこむようにみつめた。
「あなたは妖精なのよね?」
あまりに突然な言葉に美緋絽は驚いた。
(ようせい…妖精?て私のこと?)
「妖精なんでしょ?おばさん言ってたわ。」
あまりのことにまだ言葉が出ない美緋絽に構わず少女は続けた。
「花がたくさん咲く森には妖精がいる、て。愛情を持って花を育て続けるとその花園に妖精が住むようになるんだって。花の妖精は幸せを運んでくれるって。」
少女は大きな期待を持って願いをかけるように美緋絽を見つめた。
(ちがう、て言わなくちゃ。)
美緋絽はゴクリと唾を飲み込む音が少女に聞こえたのではないか、と思うほど自分の体中に響いた。
耐えられず思わず視線をはずすと、奥まったところで黙々と作業をする一人の男性が目に入った。それは先ほど食事の席に遅れて着いたあの若い男性だった。その視線に気づいた少女は小声で言った。
「
そういうと少女はいきなり桂太の方に駆け出し手を振りながら大声で叫んだ。
「おじさーん。」
美緋絽はとっさに身を縮込ませたがその心配にはおよばなかった。やはり桂太には美緋絽が見えていないようだった。
桂太は顔を上げると少女に向かって手を挙げた。少女は振り返って美緋絽に手招きをした。あまり桂太の近くには行きたくないと思ったが、美緋絽はしぶしぶ少女の後に続いた。近くまで行くと桂太が熱心に花がら摘みをしていることがわかった。咲き終わった花を取り去ることでさらにたくさんの美しい花を咲かせるのだとマユミから聞いたことを思い出した。
「
「うん・・お母さんがそう言ってた。」
椿子とよばれた少女は口ごもりながら答えた。
「カラスウリ、もうじき咲きそうやけどな。」
花がら摘みの手を休めることなく桂太が言った。
「お前だけもう少し残ったらどうや?ずっと見たい、て言うてたやろう。」
「見たいよ。・・・結局いつも見られないんだもん。」
椿子が不満そうに言った。
「じゃあお母さんに言え。カラスウリの花見てから帰るから残る、て。」
下を向いたまま作業を続ける桂太の顔から汗が落ち、乾いた土に染み込んでいった。
「・・おじさん言ってよ。」
「なんでやぁ。」
椿子の言葉に桂太が顔を上げた。
「おまえなぁ、自分のことなんやから自分で言え。自分の思うとることちゃんと言えんとだめや。」
桂太はじっと椿子を見据えたが下を向いたまま言葉を発しない椿子の様子を見て、再び花がら摘みの作業にもどった。
黙々と作業をする桂太をしばらく見ていたが、やがて椿子はその場を離れて歩きはじめた。美緋絽も後からついていくと奥まったところにある古びた小屋にやってきて、椿子は黙ってその壁面を指さした。そこには壁一面に植物が絡みついていた。ツタのように見える大きなハート形の葉の間に薄緑色の小さな蕾が点々とついていた。
「カラスウリ。」
椿子は怒ったように言った。
「この花が咲くところが見たいの。白くてレースの飾りみたいなきれいな花でね、真夜中に咲くの。その話をおばさんに聞いてからずっと見たいと思っているんだけど、見たことがないの。・・・いつも私がここにいる間に咲いたことがないのよ。」
悔しさを滲ませながら椿子は言った。
美緋絽は桂太の言っていた言葉を思い出していた。残りたい、と言うことが簡単に言える人もいれば、そうでない人もいる。美緋絽にはそれがよくわかった。そして椿子が母親に言えない何かがあるのだと察し、桂太と同じことを言う気にはなれなかった。
「レース飾りの花、見てみたいね。」
美緋絽は素直な気持ちを口にした。
「じゃあさ、今晩咲かしてよ。」
いたずらっぽい笑みを浮かべて椿子が言った。
「そう・・できたらいいのに。ごめんね。私、できないの。できたらいいな。」
美緋絽の言葉に椿子はゆっくりとうなずいた。
どのくらいの広さがあるのだろうか。そこはまさに花畑と言うのにふさわしい場所だった。花の種類別に植えられているところもあれば、野原のように様々な花が混じって咲いているところも、柵に絡まって咲いているものもあった。マユミさんが毎日庭に出て花の手入れをしている様子を見ていた美緋絽には、これだけの花を咲かすのがどれほどすごいことか想像がついた。
「おばさん、てこの花畑をどうやって作ったのかしら。」
独り言のように言った美緋絽の言葉に椿子は
「おじさんと2人で使わなくなった酒造用の田んぼに土を入れて花苗を植えていったのよ。最初はほら、あの入口のバラの柵のあたりからよ。」
さっき美緋絽が通った畑の横の細いあぜ道から続くあたりを指さした。
「
シュゾウヨウ
?」「おじいちゃんの家はずっとお酒を造っていたのよ。今はもうやめちゃったけどね。」
あのたくさん並んでいた樽は酒を造っていたものなのか、と美緋絽は納得した。
「お酒を造らなくなったからもうお米を作る必要もなくなって、最初はその田んぼを人に貸すことになっていたみたい。でもね、お花を作りたいから田んぼを使わせてほしい、てお願いしたの。おじさんとおばさんはね、大学で植物の勉強をしていたんですって。」
植物の勉強をする大学があるのだ、と美緋絽は思った。
「おばさんたちはただ花を咲かせているだけじゃなくて研究もしているのよ。」
「研究?」
「そう、品種改良とかね。それはものすごく時間がかかることで、子供が大人になるくらいだって。いいえ、それよりもっとかかることもあるんだって。
たくさん花を咲かせるとその中にちょっと普通のとは違う花が咲く時があるんですって。」
「普通のとは違うもの・・?」
「それが大事なんだ、ておばさんは言っていたわ。他のとちがう、ていうのは素敵なことだって。」
(他と違うことが素敵なこと?)
「もちろん普通のはいいけど、おばさんは違うのも大好きだって。」
その言葉の意味を美緋絽は頭の中で考えながら思わずつぶやいた。
「私は普通じゃないのかな・・」
「そうね、ちょっと普通とは違うわね。少なくとも私が思い描いていた姿とはだいぶ違うわ。」
最初、椿子が何のことを言っているのかと思ったが、まだ自分のことを妖精だと思っているのだと気付いた。
「私のこと、なんで妖精だと思うの?」
「なんで、てわかるの!直観かな。」
椿子の顔は自信で満ちた表情になった。そして急に真剣な顔になって言った。
「私が妖精に会いたかったのは、願いをかなえてくれると聞いたから。私、たくさん願いがあるの。でも妖精は気まぐれだしちょっぴりいたずらっ子で、時々人を困らせたりする。だから欲張ったりしない。1つだけ、1番お願いしたいことをかなえてもらいたいの。」
「それは・・何?」
「私、今の自分から変わりたいの。変われるかしら?」
まっすぐに美緋絽を見つめる目に強い力を感じた。
「・・・きっと・・変われると思う。」
「本当?ホントにホント?」
美緋絽はしっかりとうなずいた。理由はわからなかったが、なぜか強くそう感じた。美緋絽自身、そんな自分に驚いていた。
お使いに行く用事を頼まれているという椿子と分かれて美緋絽は再び花畑の中の小さな噴水のわきに腰を下ろした。ちょろちょろと音をたてて細く噴き出す水がきらきらと光って水面に落ちていく様子を眺めながら、今朝からのことを思い返していた。
最初、夢だ夢のはずだと自分に言い聞かせていたことがなんだか遠い昔のようで、今はもう夢かどうかということなどどうでもよくなっていた。そして花の妖精に間違えられたことがとてもおかしかった。
(妖精に会いたいのは私だな。)
思わずククッと声をたてて笑って美緋絽は仰向けに寝転んだ。地面を覆うやわらかな草がそっと美緋絽を包みその感触が心地よかった。青い夏の空にはぽつんと浮かぶ雲がひとつふたつ、みっつ・・・空気を胸いっぱいに吸い込んでゆっくりと吐き出すと体中の力が抜けていった。
かすかなモーター音がして美緋絽が目を開けると目の前に真っ白な画面のパソコンがあった。そこはいつもの美緋絽の部屋だった。首をいそがしく左右に動かし部屋を探ったが、特に変わったことはなかった。改めてパソコンに向かいマウスを動かしてみたが反応はなく、どうやらフリーズしているようだった。
強制終了をしてパソコンを閉じると美緋絽は大きく息をついた。時計を見ると2時を少し回ったところだった。ということはパソコンでマユミさんのものと思われるホームページに入ったときから約1時間、自分は寝ていたことになる。
(そんなに速攻で寝たのかな、私。)
不思議に思いながらも、軽い倦怠感があり再度パソコンを立ち上げてあのホームページにいこうという気にはならなかった。美緋絽はリビングにパソコンをもどし、ベッドに潜り込むとすぐに眠りについた。
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