第10話 ドラゴンの正体

文字数 1,291文字

 洗濯物の山の足元に、綿ぼこりは長々と横たわっています。その体は頭の綿ぼこりの何倍もの長さがありました。どうりで、綿ぼこりを移動させるのに手こずったわけです。
 息をふきかえした綿ぼこりは「助かった」と喜びました。
「僕はミノムーシ。ちょっとの間、涼むつもりでここに来たんだ。扇風機の向きを変えて、初めのうちは快適だった。あまりの心地よさに眠りこんでしまって、気がついたら洗濯物の山に埋もれてしまっていたんだ。頭だけは何とか洗濯物の山から出せたけど、体だけはどうにもならなかったんだ」
「もしかして、僕がみたとげとげした長いものは、山にのぼっていく君だったんじゃないのか?」
 トビーがそう言うので、ちいちゃんはあらためてミノムーシの体をながめまわしてみました。細長い体にはいろいろな色の糸くずがまつわりついていて、とげのようにみえなくもないのです。
「それじゃあ、ドラゴンってのは君だったのかい?」
「ドラゴン? 何だい?」
 バ・サミの問いにミノムーシは頭をかしげてみせました。
 ちいちゃん、トビー、バ・サミは、かわるがわるにドラゴンのせいで世界に異変が起きたことを綿ぼこりに話して聞かせました。話を聞いているうちにミノムーシは申し訳なさそうに体を縮こめていってしまいました。
「僕が涼んでいる間にそんなことになっていたなんて、知らなかったよ。すまなかった……」
「扇風機の位置が戻って僕の世界には雪が降り始めたし。世界は元に戻っていくだろうさ」
 バ・サミは大喜びで仲間の元へと撥ね去って行きました。
「僕の世界にももう雪は降らないから必要なくなったことだし、ちいちゃんの靴下、返すよ。うちに帰って父さんたちにもう大丈夫だって報告しなくっちゃ」
 トビーが家の話をしたので、ちいちゃんは急におうちが恋しくなりました。何かの拍子に洗濯機の世界へもぐりこんでしまったちいちゃんですが、どうやったらおうちに帰れるのかわかりません。お父さんやお母さんに会いたいとおもったら、もう涙が止まりませんでした。
「ちいちゃん、どうしたの?」
「おうちへ帰りたいけど、どうやったら帰れるかわからないの」
「それは困ったなあ。人間の世界へどうやったら行けるのか、僕は知らないんだ」
 ふたりで困っていると、「扇風機の風に乗るといい」とミノムーシが教えてくれました。
「あの扇風機はここにきた洗濯物を人間界へと戻す風を送っているのさ。だから、扇風機の風に乗って人間界へ帰るといい。自分ちの洗濯物をもっていれば、うちに帰れるよ」
 ちいちゃんは両足に、お気に入りのピンクの靴下と、赤と白のしましま模様の靴下をはき、手には返してもらった靴下を持っています。トビーにお別れを言い、ちいちゃんは洗濯物の山の上に向かいました。
 ちいちゃんは洗濯物の山の上に立ちました。
「それじゃ、スイッチを入れるよ」とトビーの声がしました。ちいちゃんが山にのぼっている間、スイッチは切られていました。
 ブィーンと音がしたかと思うと、扇風機の風がちいちゃんの体を持ち上げました。ぐるんと空中で一回転したかとおもうと、ちいちゃんは高い空の上に投げ出されていました。
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