第22話 ある男の回想2

文字数 1,802文字

「さあ! 泣くのをやめてマクイ。来たわ」

 新しい乳母の一人が、優しい声でそう声をかけているのを扉の外側で聞きながら、兵士が扉を盛大に開けた。

 国の大臣率いる総勢二十数名の大の大人がずかずかと部屋に踏み入る。

 バイロンは参列しているだけだ。黙って様子を見守る。

「今日より、王から厳命が下った。ルカナビア王家第6王女マクイ・ルカナビアを国の混乱を煽った罪により無期限の軟禁の刑とす。王の取り計らいにより大変緩い刑となる。お父上に深く感謝なさい。では連れていけ」

 国の大臣が、兵に指示すると、ベッドごと移動する運びとなった。

「あの、私はどうなるのでしょうか?」

 大臣が分かっているとでも言わんばかりに乳母の顔を見ずに言った。

「ぬしは引き続き任に当たれ。他に適任がいないのでな。前任者は確かに4日で息を引き取ったが、ぬしはもうその任を数えきれない日々とともにこなしてきた。これほどの適任はいまい。続けよとのお達しだ」

 ああ、ああっと天に祈りながら、ありがとうございますと、嘆いていた。

 赤子も一緒に泣いていた。大層悲しそうに、まるで世を儚いでそうするように、おぎゃあおぎゃあと。

 庭に特注した檻つきの納屋で納屋の扉を閉め、しばらくしてもずっと聞こえていた。

 それから、バイロンは事の全容をようやく知ることになった。

 そもそもが、彼女の噂はある程度聞き及んでいたし、実体もある程度は知っていた。

 オークリーによると、彼女に近づくと、ある音声を復唱されるという噂である。

『自分の思考を?』

『左様。私があの子供の生まれる瞬間を目にした。あの場にいた全員が見聞きした全てじゃ。おそらく全員がそれを認知した瞬間であろう。あの赤子は他者の心と境界線がないのだ。聞こえ、そして聞かれている。ただし、波があり、むらがある。いついかなる時でもそうであるわけではない。それが起こるのは、わしが察したところによれば』

 不安。

 かつて、災いの発端となった遠く西の国での噂があった。マクイが生まれるより前である。

 魔法という伝承にのみ伝わる技をとある旅人の男に聞かされそれを聞いた民の一人が本当に魔法を使えるようになったと。しかし、数日を待たずして、彼は全身の毛穴から血を吹き出してこと切れていた。

 これが一部で噂になり、数日間にわたってその土地では奇怪な病が頻発した。

 後に国では人同士の交流が禁止された。なるべく最小限に留めた交流。

 それから年月が経つと嘘のように、その災いは引いていったそうな。

 そんな風聞がどこからともなくライノーツに流れ込み、国ではそれらの病と似た症状を起こす患者が医者に集まったとのこと。これを機に国に呼ばれたというオークリーは、まず真っ先にその災いの呼称と同じ名前が付けられたというマクイという赤子に目を剥いた。

 彼は遠い異国の地で聞いた斯様な逸話を王に話し、話している最中に王室に呼ばれ、御対面したとのことである。

『そう、あの現場を目にし耳にしたのだ。真っ先に皆が思ったであろう。あれが噂の異国の災い、魔喰いと関係がないわけがない、と』

 彼女を牢に入れて程なく、また市井で災いが始まったと噂が広まった。

 実際に色々と現地で見聞きしてバイロンはその噂が本当であることを知った。

 とくにここ最近では異常気象が多く、地震も多く、人為災害までも彼女の影響であると、皆が口々に毒を漏らす。

 そうして、さらに月日が経った。なんとか国は維持されてはいたものの、ついに王はある決定を下す。

 マクイを地下に幽閉するという。その決定はもう翌朝には実行され、その前日に死んだという乳母の事も手伝って、彼女の世話をする人間は死ぬ覚悟の老人のみとなった。

 数年が経った。災いは止まなかった。

 彼女は既に物心ついていたが、牢の中で暴れる様子はなかったとのことで、それがより一層、悪魔らしいという噂の引き立て役になっていった。

 さらに年月が経った。

 彼女が逃げ出した。殺せば呪われるという風聞に従い、生かされ続けてきた彼女が逃げて、しかし、逃げるも虚しく山中で殺されるという憂き目にあった。10年が過ぎた。平和だった10年。しかし、また彼女を街でみたと誰かが言った。

 そして、地獄が始まった。

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登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

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