第54話 エピローグ

文字数 4,051文字

 ピンポ〜ン♪
「 いらっしゃいませ 」
「 ようツク 」
「 なぁんだ サヤさんか 」
「 何だとは何だ せっかく様子を見に来てやったのに サボってないでちゃんと働け 」
「 サボってないです 」
「 ちぃぃぃス 相変わらずお客居ないんスね 」
「 海さん たまたま今お客さんが途切れただけです さっきまで結構忙しかったんですからね 」
 ここは東京都の西の外れに位置するとあるコンビニエンスストアの店内である。
「 そう言うあなたたちこそちゃんと働きなさいよ 毎日毎日見飽きたわ 」
「 仕方ないだろ 本社ビルが倒壊したんだから しかしこのビルに地下があったとはな 引っ越しも終わったしこれで百目奇譚編集部が再開できるぞ 次の特集は真相 瀬戸内妖怪大戦争 サムライVS妖怪VSロボVS美少女 奇跡の四重奏 だ それよりユキ君 セーラー服はいい加減ヤメたまえ もう20歳だろう 」
「 ツナギしか着ない人達に言われたくないわ 」
 店の名前をセブンスマートという。

 旧日本政府と旧自衛隊の一部の人間により引き起こされた前代未聞のこの国のクーデターは民間により結成された反乱組織と旧政府及び旧自衛隊の離反組による連合軍の勝利という形で国連介入前に幕を下ろす。
「 しかし間宮のヤツ 最後の最後で美味しいとこ持っていきやがって 」
「 班長も間宮新総理知ってるんスか 車田のおっさんのトリオイの同僚だったんでしょ 」
「 ああよく知ってるぞ海乃 ヤツをスキャンダル塗れにして総理の座から引きずり下ろすのなんてお茶の子さいさいだ 」
「 サヤさん せっかく新政府が発足したのにダメですよ 」
「 トリオイの傀儡にしてやる 」

 だが、このクーデターがこの国にもたらしたものはマイナスばかりでは無い、自国で解決し自ら新政府を樹立させたことにより新大日本帝国として反故にされた国際条約等の再締結は行わずに新しい国家として新たに取り交すという強気の態度を表明したのだ。もちろん国際社会での反発はあるがまだ混沌期から抜けきれない世界情勢にこれ以上トラブルは避けたいという各国の思惑もあり渋々受諾するしか無い流れにある。この国が再び真の独立国家として国際社会で対等の場に立てるかは間宮新内閣の腕の見せ所である。これを見越してか旧自衛隊は再編されずに仮設国内治安軍が新たに編成された。

「 七星さんの消息はわからないままなんですか 」
「 みたいっスよ 紅音古さんと蒼さんも困ってました 政府機関の重要ポストへの着任要請が来てるみたいっスからね 」
「 ロボはそんなの受けないわよ 」
「 ユキ君に同感だな 彼女は欲しい物を手に入れた途端に興味を無くすタイプなんだろう もうこの国より科学に気持ちは戻ってるんじゃないのか 」
「 完全にホーネット医薬研に先を行かれたトリオイとしては岬さんは驚異っスもんね しばらくこのまま雲隠れしててくんないかなぁ 」
「 ロボと言えば小夜さん 鎌チョおじさん行かせてよかったの 」
「 はぁぁぁ ユキ君 何で鎌チョが出て来る あんなヤツ知らん 」
「 そうですよサヤさん 何で行かないでって言わなかったんです 」
「 なっ 何言ってんだツク まあヤツも男だ やり遂げねばならんことがあるのだろう サクラ君の足手まといにしかならん気もするが 今度はトーマ君も一緒だ 心配いらんだろう 」
「 トーマの国が絡むとろくなことないわよ ピンクロボの技術 絶対狙ってるし でもありさが居ないとゴミトーマなんか思考力0だから明らかな人選ミスね 」
「 ありささんは今どうしてるんですか 」
「 国の審問会の招集があってから音沙汰なしだな 優秀な人間だ 国がほっとかないのだろう もう戻って来て新しい任務に着いているのかもな それよりツク たまには屋敷に顔を出せ 鳥図切の4人が車田にシゴかれて死にかけてるぞ 」
「 げっ いやですよ 私も一緒にシゴかれちゃうじゃないですか スナ丸君たちには人柱となってもらいます 」
「 ツクさん 祠には次はいつ行くの 」
「 来月の15日よ まひるちゃんが付いて行ってくれるわ 鼠仔猫で鳥の鎮魂祭もやるんですって 」
「 ズルい 私も行く 」
「 何だ それなら私も行くぞ 」
「 あっ 俺も行くっスよ 」
「 えぇぇっ まあいっか 」

 何も変わらぬ日常、変わった事といえば、私の姓が鳥迫(とりさこ)から鳥追(とりおい)になった事と右利きから左利きになった事、胸と背中に大きな傷が残った事、主人の居なくなったセブンスマートとそのビルの3階にある雨倭頭巳(うわずみ)神社を私が守っていく事くらいだ。それは、ほんの些細な事である。
 桜の春を予感させる澄んだ空のありふれた一日だった。
 




「 お客様ちゃうねんぞ 働かんなら出ていきぃや 」
「 そやそや とっとといね 」
「 なんや つれないのう 閉じ込められて出ていけへんのやろう しゃあないやん 」
「 やからっちダラダラされとったら目障りなんや やらなあかん事 山ほどあんねんぞ 」
「 そやそや おまえの社ちゃうねんぞ 国神 」
「 なんや もとはウチが建てた社やんか 」
「 失脚しとうてよう言うわ 」
「 そやそや はよいね 」
「 それより零ちゃんまだご機嫌ななめなんか 」
「 当たり前や 愛しの隊長はんやのうて おまえの顔なんか見とうないわ 」
「 そやそや そもそも右と左はどないしたんや おまえの神守りやろ 」
「 さあなどないしたんやろ ほんま どないしとるんやろ 」





「 ツクヨは鼠仔猫であの後昏睡状態になって10日後に目覚めたわ その時は元のツクヨに戻ってた ただ別人格の時の記憶もあるみたい それから人格が入れ替わる事は今のところ無いようよ 」
「 精密検査は私も担当したけど 月夜ちゃん自身の心臓は自力では動け無いほど弱ったままよ もう一つの心臓にサポートしてもらっている状態 健康な心臓に戻るまで2〜3年はかかるでしょうね 例の金属体は月夜ちゃんの遺伝子に組み込まれたみたい 遺伝子的にはもうヒトでは無いわ 」
「 それよりナナセ なんであんた人間なのよ 」
「 何を言ってるのありさ 私はもともと人間よ 」
「 いやいや あんた要らなくなったカラダは捨てたって言ったわよねえ 」
「 私もそのつもりだったんだけどアカとアオが隠してたのよ それで目的も果たしたし日常生活を送るには生身の方が楽ちんだから戻したの 別に並列化して同時に存在する事も出来るけど それだといずれは自分が邪魔になって殺し合いなんか始めたら洒落になんないし 実際に2体同時に自我をもたせると途端に不安定になるの まだまだ解決しないといけない問題は山ほどあるのよ あの機体の長期実用段階にはあと100年はかかるでしょうね それに性的快感は肉体がないと得られないでしょ 」
「 でしょ じゃないわよ てかあんた何黙ってんのよ 」
「 だって 」
「 だってじゃなくって ちゃんと話してよユウリ 何で生きてるの しかもナナセと一緒だし どれだけ心配したと思ってんのよ 」
「 あぁぁぁ 泣くなよ 悪かったありさ 僕自身あれで終わったと思ってたんだ なのに僕の旧い友が身代わりになってくれた バカな山犬だ 僕なんかの為に それで このまま消えるのがベストだと思ったんだ 結局僕は誰も守れない 守ってもらうばかりだ 」
「 バカ それなのにナナセとは離れないんだ 」
「 当たり前よ ありさ 私の超能力はどんなに離れていても悠吏君だけを見つけだす能力なんだから 決っして逃がさないわよ 」
「 はぁぁぁっ 何よ その超限定的な私欲に塗れた超能力は 単なるストーカーじゃない 」
「 そう言うありさだって死んだ人間を探し出すんだからドン引きよ スパイ技能を濫用してるじゃない 国にチクるわよ 」
「 この前の功績が認められて長期休暇中よ 」
「 えっとぉ 」
「 まあいいわ 私は大人の女性だから物分かりはいいのよ 半分こにしましょ ありさ 」
「 わかったわ それで手を打ちましょう ナナセ 」
「 あのぉぅ 」
「 何よユウリ ユキにバラすわよ 」
「 いや それだけは勘弁して下さい 」
「 でも悠吏君 あの2人は本当にいいの 」
「 そうよユウリ ツクヨの中には逢いたかったお姉さんがいるんでしょ 」
「 ツクとユキなら大丈夫さ 何かあったら姉貴もいるしな 僕の役目はもう終わったんだよ 」
「 なんか薄っぺらいわねぇ 」
「 その薄っぺらな悠吏君が可愛いわ 」
「 まあ確かに 滲み出るペラペラ感がある意味ユウリらしいわね 」
「 褒めてないよね 」
「 それより腕は義手なの 」
「 うん 七星が造ってくれたんだ 」
「 生体ロボットアームよ 違和感は無いかしら 」
「 無いと言えば嘘になるが義手って感じは一切無いよ 慣れれば以前より使い勝手良くなるかもだ 」
「 心臓吐き出しちゃったけどそれは大丈夫なの 」
「 今は山犬の心臓が脈打ってるよ 」
「 結局呪われたままなのね 」
「 で これからどうするの悠吏君 月面でもどこでも付き合うわよ 」
「 北へ向かう 彼女の屍を見つけて供養しなくちゃ 」
「 やっぱそこは女の子なんだ もちろん私もたまたま暇だし 一緒に行ってあげる 」
「 それじゃあ 参りますか 始まりの地 星堕としの杜へ 」


               完。
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