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文字数 1,800文字
初めての高校、初めての登校でざわつく教室内。
ひより、自分の席でのんびりしている。
そのせいか、ワタルが有名人であることや、“出水タマキ”と芸名を名乗っていること、町中に彼がすまし顔で映っているポスターが貼られていることが、違和感でしかなかった。
自分の名前である“東ひより”から始まり、石井、上田、遠藤、塩谷と続いて、“大和泉環”とある。
出席番号順通りに行くならば、となりの席は今噂になっているご本人が座るのだろう。
今では、有名人の友人ということで女子から嫉妬されやしないか。嫉妬の結果いじめられやしないか。
そういった不安が、もやのように浮かんでくる。
3月霊園で一緒にいたあの人は誰なのか。その人について詳しい話を聞けるのではないか。
そういった期待も、またふくれるばかり。
友人と話すだけでいじめてくるような人に興味などないけれど、
だからといって楽しみにしていた高校生活を台無しにされても平気というわけじゃない。
複雑であるのに、変わりはない。
――渦中の人物、ワタルがやってきた。
熱心な人はひよりと同じようにクラス名簿を取り出して、“出水タマキ”の名を探し始める。
当然のことながら、そんな名前はどこにもない。
「なんで?」「どうして?」といった、興奮と疑問を隠しきれない声が飛び交う。
自分の名前を見つけたらしいワタルは、ひよりの隣にカバンをおいた。
周囲の視線を一身に集めているのにも、慣れた様子だ。
ワタルのファンからむけられる刺々しい視線が、ひよりに刺さっている。
気づいたワタルは小さく「ああ」と声をもらした。
ひよりはそれに「うん、うん」と相槌をうちながら、話を聞く。
数が増えることはあれど、減ることはない。
気にするだけばからしい。
ワタルがわざわざ激励してくれた。
友達になるかどうかわからないクラスメイトより、中学から一緒のワタルの言葉のほうが、ずっと大事だ。
会話が坂道を転がるように続いて、気づけば予鈴が鳴る時刻。