1

文字数 1,800文字

4月。新学期。

初めての高校、初めての登校でざわつく教室内。

ひより、自分の席でのんびりしている。

ねえちょっと聞いた?

この学校に出水タマキがいるって話!

出水タマキって、モデルの?

確かに彼って私たちと同い年って聞くけど……デマじゃない?

ほら、3月に入学説明会があったじゃない。

あのときタマキくんを見たって子がいるんだよ、きっとデマじゃないよ!

へえ……。

それが本当なら、有名人と同じ学校にいるんだねえ。

本当だよ、もうやばいよ!

サインとかもらえるかなあ、あわよくばお友達とかになれちゃったりとか、とか!

はいはい、そうだね。

イケメンの顔が拝めるなら確かに得だもんなあ。

出水、タマキ……?
そういえば……ワタルって有名人なんだっけ。

なんだか、変な気分だなあ。

ひよりは、それこそ小学生の頃からワタルと友達だった。

そのせいか、ワタルが有名人であることや、“出水タマキ”と芸名を名乗っていること、町中に彼がすまし顔で映っているポスターが貼られていることが、違和感でしかなかった。

机から、クラス名簿を取り出す。

自分の名前である“東ひより”から始まり、石井、上田、遠藤、塩谷と続いて、“大和泉環”とある。

出席番号順通りに行くならば、となりの席は今噂になっているご本人が座るのだろう。

中学からの友達が隣だ! ――とはしゃいでいた気持ちはどこへやら。

今では、有名人の友人ということで女子から嫉妬されやしないか。嫉妬の結果いじめられやしないか。

そういった不安が、もやのように浮かんでくる。

同時に。

3月霊園で一緒にいたあの人は誰なのか。その人について詳しい話を聞けるのではないか。

そういった期待も、またふくれるばかり。

不安と期待の大きさは、半分ずつといったところか。

友人と話すだけでいじめてくるような人に興味などないけれど、

だからといって楽しみにしていた高校生活を台無しにされても平気というわけじゃない。

複雑であるのに、変わりはない。

がらりと戸が開く。

――渦中の人物、ワタルがやってきた。

教室内の女子と一部の男子が色めきだつ。

熱心な人はひよりと同じようにクラス名簿を取り出して、“出水タマキ”の名を探し始める。

当然のことながら、そんな名前はどこにもない。

「なんで?」「どうして?」といった、興奮と疑問を隠しきれない声が飛び交う。

ワタル本人は気にした様子もなく、黒板を見て座席を確認している。

自分の名前を見つけたらしいワタルは、ひよりの隣にカバンをおいた。

あれ。ひよりじゃん。今気づいた。
黒板にも、クラス名簿にも名前あるのに。

ひどいなあ、もう。

自分の名前しか見てなかったんだよ。

そんな都合よく知り合いがいるとか思わないじゃん。

ワタルが椅子を引いて、席についた。

周囲の視線を一身に集めているのにも、慣れた様子だ。

ま、アンタがいてよかったよ。

初日は色々面倒だと思ってたんだけど、ひよりといればある程度は楽そうだ。

あ、はは……。

便利道具みたいに言うなあ。

親しげに話す様子を見てだろう。

ワタルのファンからむけられる刺々しい視線が、ひよりに刺さっている。

居心地が悪い、と、ひよりがうつむく。

気づいたワタルは小さく「ああ」と声をもらした。

視線なんか気にしなければ……とも言えないか。

いやならもう話しかけないけど?

そんなのいやっ。

なんで友達と話すのにいちいちビクビクしなきゃいけないの。

だよね。

ならうつむくなよ、弱く見えるだろ。

よ、弱く見える……。
ボクの友達が弱そうだと、ボクまで弱く見えるじゃん。

しゃんとしな。

「でさ」と、会話を続けるワタル。

ひよりはそれに「うん、うん」と相槌をうちながら、話を聞く。

以前、視線はささったまま。

数が増えることはあれど、減ることはない。

それでも、ひよりの視線が下がることはなかった。

気にするだけばからしい。

ワタルがわざわざ激励してくれた。

友達になるかどうかわからないクラスメイトより、中学から一緒のワタルの言葉のほうが、ずっと大事だ。

ワタルの言葉にひよりが返し、それをワタルが受け取ってまた転がる。

会話が坂道を転がるように続いて、気づけば予鈴が鳴る時刻。

あっ。聞きたいことがあったんだ。
なに? もう先生くると思うけど。
うん。

だから放課後ゆっくり、いっぱい話そう。

いろいろ聞きたいんだ。

……早くしてね。今日はゆっくりしたいし。
ふふ、はーい。

お仕事のおやすみ邪魔しないよ。

──いつの間にか、視線など気にならなくなっていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

東ひより(あずま――) 女 15歳・高校一年

「私、だからって諦める気はないの」


本作主人公。

ふわふわとした柔らかな雰囲気と裏腹な、アクティブな思考の持ち主。

とにかく、行動してから考えるタイプ。

ワタルとは、中学のときから良い友達。

カケルに片思い中だが、とっても不利なよう。

大和泉環(おおいずみワタル) 男 15歳・高校一年

「ボクも大概バカだけど、あんたもドのつくアホだよ」


幼い頃からモデルとして芸能界で活動しているためか、プライドが高い。

きつい言葉使いとは裏腹に、細やかな気遣いができ礼儀に厳しい一面も。

ひよりの相談相手であり、友人。

カケルの弟。ひよりに片思い中。

大和泉架(おおいずみカケル) 男 17歳・高校三年

「僕と話してて面白い? ……それなら、いいんだけど」


落ち着き柔らかな雰囲気を持つが、時折頑固な一面が覗く。

“人付き合いは苦手”だと公言しており、ひとり気ままに過ごしていることが多い。

ひよりのアタックにたじたじ。

ワタルの兄。

シンプルエディタ用。モブの子。

シンプルエディタ用。モブの子。

シンプルエディタ用。モブの子

シンプルエディタ用。モブの子

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色