第51話(おまけ1)三浦部長とチキンカレータイム
文字数 1,875文字
本作は「彼女は溺愛されていることを知らない」の後日譚となります。
***
三浦部長と付き合い始めてから一週間後。
私と部長は会社帰りに千鳥(焼き鳥屋)の近くにあるチキンカレーの美味しいお店に来ていた。
ネズミおじさん(ヨツビシ工業の福西元部長)と遭遇したちょい微妙な気持ちになる思い出しかないんだけどまあ部長と一緒ならプラマイゼロになるよね。
いや、プラスになるのかな?
うん、プラスになるはず。大丈夫大丈夫。
……とか思っていると。
「大野」
テーブルの向かいの三浦部長がむすっとしていた。注文したチキンカレーと飲み物はすでに並んでいる。
はい、初めてのお店じゃなかったので注文には迷いませんでした。
むむむっって感じで部長の口角がどんどん下がっていく。
おや、これは何かな?
私、また怒られるようなことしちゃった?
「僕との食事は退屈か?」
「……」
わぁ部長。
何でそんな彼氏に構ってもらえない彼女みたいな反応しているんですか。
そういうのは私にやらせてくださいよ。
じゃなくて!
私は小さく息をついてから応えた。
「部長と一緒にいて楽しくない訳ないじゃないですか。馬鹿なこと言ってないで食事しましょ? ここのチキンカレー美味しいんですよ」
「それもそうだな。いただくとしよう」
割とあっさりと機嫌を直したらしき三浦部長がライスの上にカレーをかける。
ふむふむ、部長はご飯に少しずつカレーをかけながら食べるタイプなんだ。
北沢先輩とは違うんだなぁ。
ついつい前回来店したときのことを思い出してしまう私がいて、良くないとわかっていながらも三浦部長と北沢先輩と比べてしまう。
いや、別に浮気とかじゃないよ。
前回北沢さんと食べたから、ね?
私が無言で誰にでもなく言い訳していると三浦部長が眉をひそめた。
「食べないのか?」
「あ、いえ。食べます食べますいただきます」
私はカレーを三分の一くらいご飯にかけてから食べ始める。
口の中で広がる辛さと旨みに自然と笑みが零れた。ネズミおじさんのせいでイメージ悪くなってるけどやっぱりここのチキンカレーは美味しい。
「くっ、可愛い。こんな可愛い人が僕の彼女だなんて幸せすぎる。もうこのままカレーで窒息死してもいいや」
部長が早口で何か言ってるけど小さ過ぎて私には聞こえない。
「えっと、部長、今何て」
「いや、そこはスルーしていい」
耳まで赤くしながら部長が返す。
うーん、この悪癖はどうにかしたいなぁ。
どうせ私のこと可愛いとか好きとか愛してるとかお持ち帰りしたいとか今夜は眠らせないとか結婚したいとかなんだろうからはっきりいってくれればいいのに。
お、私ってもしかしなくても浮かれてる?
幸せ過ぎて調子に乗ってる?
まあいいや、別に誰かに迷惑かけてる訳でもないし。
「部長、私への好意なら隠さなくてもいいんですよ。二人っきりなんですし」
「……」
わぁ、さらに赤くなってる。
人間ってこんなに赤くなれるんだ。
部長の気持ちがわかっている私は相当に油断していた。
だから、顔を真っ赤にしつつも訊いてきた三浦部長の低い声に私はドキリとしてしまった。
「ところで、この店に来たことあるのか?」
「えっ」
「さっき食べてもいなかったのにここのチキンカレーが美味しいとか言ってたよな? 注文も迷いがなかったし……ひょっとして以前にも来たことがあるのか?」
「……」
ば、ばれてる?
いやいやいやいや、仮にばれていても慌てるな私。北沢さんと来たってことを知られなければこの場は切り抜けられるはず。
私は中空に目を走らせた。そこにカンペでもあればどんなに良かったことか。
しかし、そんなものはない。どうしてないのか神様に問い質したいのだがその余裕もなさそうだ。
やむなく私は頭をフル回転させる。
三浦部長の表情が秒刻みで険しくなっているけど気にしない気にしない。
「えっとですね。そう、実は一人で来たことがあるんです」
「……」
「ほ、ほら、ここって部長も目をつけるくらい良さげなお店でしょ? 結構知られざる名店なんですよ」
「……」
「か、会社でもここの話をしてた人もいましたし」
「……」
あのー部長、沈黙が怖いです。
何か言ってくださいよ。
私が嫌な汗を背中にかいていると部長が口を開いた。
「で、誰と来た? 優子か? それとも新村くんか? まさか北沢くんとだなんて言わないよな?」
「……」
今度は私が黙る番だった。
三浦部長、ごめんなさい。
この後、北沢さんと来ていたのにごまかそうとしたのがばれた私はたっぷりとお説教マシンガンを食らうのであった。
***
三浦部長と付き合い始めてから一週間後。
私と部長は会社帰りに千鳥(焼き鳥屋)の近くにあるチキンカレーの美味しいお店に来ていた。
ネズミおじさん(ヨツビシ工業の福西元部長)と遭遇したちょい微妙な気持ちになる思い出しかないんだけどまあ部長と一緒ならプラマイゼロになるよね。
いや、プラスになるのかな?
うん、プラスになるはず。大丈夫大丈夫。
……とか思っていると。
「大野」
テーブルの向かいの三浦部長がむすっとしていた。注文したチキンカレーと飲み物はすでに並んでいる。
はい、初めてのお店じゃなかったので注文には迷いませんでした。
むむむっって感じで部長の口角がどんどん下がっていく。
おや、これは何かな?
私、また怒られるようなことしちゃった?
「僕との食事は退屈か?」
「……」
わぁ部長。
何でそんな彼氏に構ってもらえない彼女みたいな反応しているんですか。
そういうのは私にやらせてくださいよ。
じゃなくて!
私は小さく息をついてから応えた。
「部長と一緒にいて楽しくない訳ないじゃないですか。馬鹿なこと言ってないで食事しましょ? ここのチキンカレー美味しいんですよ」
「それもそうだな。いただくとしよう」
割とあっさりと機嫌を直したらしき三浦部長がライスの上にカレーをかける。
ふむふむ、部長はご飯に少しずつカレーをかけながら食べるタイプなんだ。
北沢先輩とは違うんだなぁ。
ついつい前回来店したときのことを思い出してしまう私がいて、良くないとわかっていながらも三浦部長と北沢先輩と比べてしまう。
いや、別に浮気とかじゃないよ。
前回北沢さんと食べたから、ね?
私が無言で誰にでもなく言い訳していると三浦部長が眉をひそめた。
「食べないのか?」
「あ、いえ。食べます食べますいただきます」
私はカレーを三分の一くらいご飯にかけてから食べ始める。
口の中で広がる辛さと旨みに自然と笑みが零れた。ネズミおじさんのせいでイメージ悪くなってるけどやっぱりここのチキンカレーは美味しい。
「くっ、可愛い。こんな可愛い人が僕の彼女だなんて幸せすぎる。もうこのままカレーで窒息死してもいいや」
部長が早口で何か言ってるけど小さ過ぎて私には聞こえない。
「えっと、部長、今何て」
「いや、そこはスルーしていい」
耳まで赤くしながら部長が返す。
うーん、この悪癖はどうにかしたいなぁ。
どうせ私のこと可愛いとか好きとか愛してるとかお持ち帰りしたいとか今夜は眠らせないとか結婚したいとかなんだろうからはっきりいってくれればいいのに。
お、私ってもしかしなくても浮かれてる?
幸せ過ぎて調子に乗ってる?
まあいいや、別に誰かに迷惑かけてる訳でもないし。
「部長、私への好意なら隠さなくてもいいんですよ。二人っきりなんですし」
「……」
わぁ、さらに赤くなってる。
人間ってこんなに赤くなれるんだ。
部長の気持ちがわかっている私は相当に油断していた。
だから、顔を真っ赤にしつつも訊いてきた三浦部長の低い声に私はドキリとしてしまった。
「ところで、この店に来たことあるのか?」
「えっ」
「さっき食べてもいなかったのにここのチキンカレーが美味しいとか言ってたよな? 注文も迷いがなかったし……ひょっとして以前にも来たことがあるのか?」
「……」
ば、ばれてる?
いやいやいやいや、仮にばれていても慌てるな私。北沢さんと来たってことを知られなければこの場は切り抜けられるはず。
私は中空に目を走らせた。そこにカンペでもあればどんなに良かったことか。
しかし、そんなものはない。どうしてないのか神様に問い質したいのだがその余裕もなさそうだ。
やむなく私は頭をフル回転させる。
三浦部長の表情が秒刻みで険しくなっているけど気にしない気にしない。
「えっとですね。そう、実は一人で来たことがあるんです」
「……」
「ほ、ほら、ここって部長も目をつけるくらい良さげなお店でしょ? 結構知られざる名店なんですよ」
「……」
「か、会社でもここの話をしてた人もいましたし」
「……」
あのー部長、沈黙が怖いです。
何か言ってくださいよ。
私が嫌な汗を背中にかいていると部長が口を開いた。
「で、誰と来た? 優子か? それとも新村くんか? まさか北沢くんとだなんて言わないよな?」
「……」
今度は私が黙る番だった。
三浦部長、ごめんなさい。
この後、北沢さんと来ていたのにごまかそうとしたのがばれた私はたっぷりとお説教マシンガンを食らうのであった。