第9話 焔の力
文字数 3,659文字
レッドアイの放った一撃は空を切る。
焔は体を右に傾け、レッドアイの攻撃をかわす。
(さすがは俺に啖呵を切っただけのことはあるな……だが、お前に時間をかけるわけにはいかないんだよ!!)
レッドアイはナイフを90度回転させ、刃を焔の方に向ける。
(悪いがこれで終わりだ……焔!!)
そのまま間髪入れず、焔にかわされたナイフを顔の横、つまり死角から焔の顔に切りつけた。
だが、またしてもレッドアイの攻撃は空を切る。
焔は刃が顔に届く瞬間、素早く体を屈めることでレッドアイの攻撃をかわした。
(馬鹿な!! 完全に死角からの攻撃だった。考える隙は与えなかった。なのになぜこいつは反応できた!?)
レッドアイはこのひと振りで終わると思っており、次の攻撃のことなど全く考えてなかった。
そのため、一旦焔から距離をとった。
「おい焔、お前いったいどう……」
レッドアイはここまで言いかけてその先は言わなかった。
(なるほど。今は全神経集中して俺の動きだけを見ている。そういう目だ……フッ、少し相手を下に見すぎていたか……)
「次からはお前を実力者と認めて相手をする……行くぞ!!焔!!」
そう言うとレッドアイは素早く焔を間合いに捉えると、尋常じゃない速さで何度も焔に向かって切りかかる。
顔、胴体、足、そのすべての攻撃を焔はさばいていく。
キーン!! キーン!!
ナイフとはさみがぶつかり合う音が廊下中に響く。
そして次第に教室の中がざわめきだしだ。
「おい、まじであれ焔かよ……」
「焔ってあんな強かったか……」
「……あれ焔君なの」
みんな焔の見たことのない姿を目の当たりにして驚き、唖然としていた。
そんな中、二人だけは違う目で焔を見ていた。
「龍二……やっぱり焔はすごいね」
まっすぐ焔を見ながら綾香は言った。
「ああ」
それから一分が経過した。
そこでレッドアイはある違和感に気づく。
(なんなんだこの違和感は……こいつが俺の攻撃をかわせるのはすさまじい反射神経があるからだと思ったが何か違う。俺の攻撃を見透かしているかのような……そんな感じがする……それになぜいとも簡単に俺の攻撃をはじけるんだ……とてもそれだけの筋力はもっているようには見えないが……)
———「彼リミッターが外れちゃってるね」
向かいの棟の屋上で焔たちを眺めている男が言った。
「ああ……というか助けなくてもいいのかよ、おい。レッドアイを捕まえるのが俺たちの任務だろ」
隣でヤンキー座りをしていた男が少しキレ気味で言う。
「んー俺も助けたいのは山々なんだけど、どうも気になってね、彼が」
「まあ、確かに素人にしてはよくしのいでるほうだが、それはリミッターが外れてるのと反射神経が人よりも優れてるからだろ。とても戦力になるとは思わない。見るだけ無駄だろ」
男はニヤッと笑った。
「確かに反射神経は良いけど、おそらくただ反射神経が良いだけじゃないんだよなー」
「あ? じゃあどういうことだよ?」
「それは……予測するのが尋常じゃなく速く、そして予測してから動くまでの時間が極端に短い……っていうことだと思うんだよね」
「は? どういうことだ?」
ヤンキー座りをしている筋肉質の男のレオが猫目の男のシンに問いかける。
シンは焔の方を見つめながら、そのまま話始める。
「レオってさ、もしパンチとかキックとか何でもいいんだけどさ、何かしら攻撃を加えられようとしているとき、いつ動き出す?」
レオはあまりの唐突な質問に一瞬固まってしまったが、すぐに目を閉じてうなり声を上げながら、考え込むしぐさを見せる。
「うーん……まーだいたい相手の攻撃の軌道が分かったときとかじゃないか? あんまし考えたことないからわかんねーけど」
レオはやや困惑したような表情でシンを見上げた。こんなこと聞いて何になるんだと言わんばかりに。
「そうだよね。相手の動きを見て、反応するためには、どこに攻撃をしてくるのか分からないと動きようがないからね。そして、この相手の動きに対して、反応する速さのことを俺たちは『反応速度』と言う。でも、『反応速度』には限界がある。だから、体を鍛えることで、より速く動けるようにしたり、経験を積むことで、相手の動きを予測したりするよね」
「おいシン。お前何が言いたいんだ?」
訳も分からないことを語り始めるシンに対して、レオは我慢できずに口を出す。
その言葉を聞いて、シンは待っていたかのように不敵な笑みを浮かべる。
「簡単に言うと、彼は俺たちが思う『反応速度』の限界を超えてるってことさ」
「は?」
レオはますますシンのいっていることの意味がわからなくなった、そんな顔でシンのことを見上げる。
そんなレオの顔を見て、フッと少し笑ってしまう。それから、シンは丁寧に語りだした。
「さっき言ったように攻撃に反応するためには、ある程度相手の攻撃の軌道が分からないと反応のしようがない。だが、彼はその反応のしようがない段階からすでに動き始めているんだ」
「何だと!」
そう言って、レオは焔の方にすぐさま目を向けた。ぱっと見では分からなかったが、目を凝らし続けると、ようやく焔がレッドアイが動き出したのとほぼ同時に動き出していることに気が付いた。
「一体どうなってんだ……」
あっけにとられているレオをしり目に、シンは話を続けた。
「俺も最初に気づいたときは驚いたよ。彼の動きには少し違和感があったからね。でも、まさかこの違和感の正体がこれだったとはね。レッドアイの動きは速く、いかにも押しているようにみえるから、全然気づかなかったけどね」
「おいシン。ありゃ一体どういう原理なんだ? レッドアイの動きを事前に予測してんのか? それとも……」
レオは敢えてその先の言葉を口にしなかった。いや、できなかった。そんなことが実際にできる人間がいるとは思えなかったからだ。だが、レオも内心では分かっていた。
「おそらく後者だろうね。もし前者なら彼はレッドアイの心を読めるということになる。こんなことは人間にはできない。だとすると、彼はレッドアイが攻撃する瞬間の初期動作、その動きから攻撃ポイントを瞬間的に予測して、攻撃を交わすなり弾くなりしているんだ」
レオは納得せざるを得なかった。今、目の前で起きていることを表すには、シンの説明が最も的を得ていたからだ。
「どうだ? 彼のあの力に本物の戦闘スキルが身に付けば、なかなか面白いと思わないか?」
シンはレオに問いかける。レオはその光景を想像したのか顔は少しにやけていた。
その後、レオはおもむろに立ち上がった。
「確かに、あいつが戦い方を学べば、強くなるだろうよ。だが、その戦い方っていうのはいったい誰が教えるんだよ」
「俺が教えるよ」
レオがまだ、口を開いている最中だったが、シンはすぐさま答えた。この言葉を聞いて、シンの顔を見ながら、レオは一瞬固まったかと思いきや、急に顔を空に向け、大声で笑いだした。
「アーハッハッハ!! まさかお前から教えるなんて単語が出るなんてな。驚いたぜ」
「そんなに驚くことかな……」
顔をポリポリと掻きながら、苦笑いを浮かべた。
「だってお前、教官になってから一度も隊員たちにアドバイスとか何もしたことないだろ」
「教官って言っても、俺がいなくても全然問題ないだろ。そもそもレオみたいにもう専門の教官がいるし、隊員には、世界でもトップクラスの若い武術家、格闘家や、剣術家とか集めるだろ。だから、教えることなんてあんまりないからね」
「はあ……ま、そういうことにしといてやるよ。でも、お前本当にあいつに教えたいと思った理由は、あの能力があるからってだけなのか?」
そう言い、レオはシンの顔をジーっと見つめる。それに耐えかねたのか、シンはお手上げだと言わんばかりに、両手を挙げる。
「いやー。やっぱり気づいてた?」
「お前は才能だけで人を見るような奴じゃないからな。で、何が一番の要因だ?」
シンはまっすぐ焔のことを見つめなおした。
「似ていると思わないか。あの目。相手が確実に自分より格上で、ほぼ100%勝つことなんてできない、そんな奴を前にしても、必ず大切な人を、仲間を守ろうとしている。彼の目にはそんな信念がこもっている。まるであの人見たいだろ、レオ」
レオも焔のことを見ていると、ある人のことが自然と頭に浮かんできた。レオも本当は気付いていた。シンがなぜ焔のことを気にかけているのか。
「ちゃんと使い物になるんだろうな、シン」
「もちろんだ」
そうシンが告げると、レオは鼻でフッと笑い、再び焔とレッドアイの戦いに二人は目を向けた。
焔は体を右に傾け、レッドアイの攻撃をかわす。
(さすがは俺に啖呵を切っただけのことはあるな……だが、お前に時間をかけるわけにはいかないんだよ!!)
レッドアイはナイフを90度回転させ、刃を焔の方に向ける。
(悪いがこれで終わりだ……焔!!)
そのまま間髪入れず、焔にかわされたナイフを顔の横、つまり死角から焔の顔に切りつけた。
だが、またしてもレッドアイの攻撃は空を切る。
焔は刃が顔に届く瞬間、素早く体を屈めることでレッドアイの攻撃をかわした。
(馬鹿な!! 完全に死角からの攻撃だった。考える隙は与えなかった。なのになぜこいつは反応できた!?)
レッドアイはこのひと振りで終わると思っており、次の攻撃のことなど全く考えてなかった。
そのため、一旦焔から距離をとった。
「おい焔、お前いったいどう……」
レッドアイはここまで言いかけてその先は言わなかった。
(なるほど。今は全神経集中して俺の動きだけを見ている。そういう目だ……フッ、少し相手を下に見すぎていたか……)
「次からはお前を実力者と認めて相手をする……行くぞ!!焔!!」
そう言うとレッドアイは素早く焔を間合いに捉えると、尋常じゃない速さで何度も焔に向かって切りかかる。
顔、胴体、足、そのすべての攻撃を焔はさばいていく。
キーン!! キーン!!
ナイフとはさみがぶつかり合う音が廊下中に響く。
そして次第に教室の中がざわめきだしだ。
「おい、まじであれ焔かよ……」
「焔ってあんな強かったか……」
「……あれ焔君なの」
みんな焔の見たことのない姿を目の当たりにして驚き、唖然としていた。
そんな中、二人だけは違う目で焔を見ていた。
「龍二……やっぱり焔はすごいね」
まっすぐ焔を見ながら綾香は言った。
「ああ」
それから一分が経過した。
そこでレッドアイはある違和感に気づく。
(なんなんだこの違和感は……こいつが俺の攻撃をかわせるのはすさまじい反射神経があるからだと思ったが何か違う。俺の攻撃を見透かしているかのような……そんな感じがする……それになぜいとも簡単に俺の攻撃をはじけるんだ……とてもそれだけの筋力はもっているようには見えないが……)
———「彼リミッターが外れちゃってるね」
向かいの棟の屋上で焔たちを眺めている男が言った。
「ああ……というか助けなくてもいいのかよ、おい。レッドアイを捕まえるのが俺たちの任務だろ」
隣でヤンキー座りをしていた男が少しキレ気味で言う。
「んー俺も助けたいのは山々なんだけど、どうも気になってね、彼が」
「まあ、確かに素人にしてはよくしのいでるほうだが、それはリミッターが外れてるのと反射神経が人よりも優れてるからだろ。とても戦力になるとは思わない。見るだけ無駄だろ」
男はニヤッと笑った。
「確かに反射神経は良いけど、おそらくただ反射神経が良いだけじゃないんだよなー」
「あ? じゃあどういうことだよ?」
「それは……予測するのが尋常じゃなく速く、そして予測してから動くまでの時間が極端に短い……っていうことだと思うんだよね」
「は? どういうことだ?」
ヤンキー座りをしている筋肉質の男のレオが猫目の男のシンに問いかける。
シンは焔の方を見つめながら、そのまま話始める。
「レオってさ、もしパンチとかキックとか何でもいいんだけどさ、何かしら攻撃を加えられようとしているとき、いつ動き出す?」
レオはあまりの唐突な質問に一瞬固まってしまったが、すぐに目を閉じてうなり声を上げながら、考え込むしぐさを見せる。
「うーん……まーだいたい相手の攻撃の軌道が分かったときとかじゃないか? あんまし考えたことないからわかんねーけど」
レオはやや困惑したような表情でシンを見上げた。こんなこと聞いて何になるんだと言わんばかりに。
「そうだよね。相手の動きを見て、反応するためには、どこに攻撃をしてくるのか分からないと動きようがないからね。そして、この相手の動きに対して、反応する速さのことを俺たちは『反応速度』と言う。でも、『反応速度』には限界がある。だから、体を鍛えることで、より速く動けるようにしたり、経験を積むことで、相手の動きを予測したりするよね」
「おいシン。お前何が言いたいんだ?」
訳も分からないことを語り始めるシンに対して、レオは我慢できずに口を出す。
その言葉を聞いて、シンは待っていたかのように不敵な笑みを浮かべる。
「簡単に言うと、彼は俺たちが思う『反応速度』の限界を超えてるってことさ」
「は?」
レオはますますシンのいっていることの意味がわからなくなった、そんな顔でシンのことを見上げる。
そんなレオの顔を見て、フッと少し笑ってしまう。それから、シンは丁寧に語りだした。
「さっき言ったように攻撃に反応するためには、ある程度相手の攻撃の軌道が分からないと反応のしようがない。だが、彼はその反応のしようがない段階からすでに動き始めているんだ」
「何だと!」
そう言って、レオは焔の方にすぐさま目を向けた。ぱっと見では分からなかったが、目を凝らし続けると、ようやく焔がレッドアイが動き出したのとほぼ同時に動き出していることに気が付いた。
「一体どうなってんだ……」
あっけにとられているレオをしり目に、シンは話を続けた。
「俺も最初に気づいたときは驚いたよ。彼の動きには少し違和感があったからね。でも、まさかこの違和感の正体がこれだったとはね。レッドアイの動きは速く、いかにも押しているようにみえるから、全然気づかなかったけどね」
「おいシン。ありゃ一体どういう原理なんだ? レッドアイの動きを事前に予測してんのか? それとも……」
レオは敢えてその先の言葉を口にしなかった。いや、できなかった。そんなことが実際にできる人間がいるとは思えなかったからだ。だが、レオも内心では分かっていた。
「おそらく後者だろうね。もし前者なら彼はレッドアイの心を読めるということになる。こんなことは人間にはできない。だとすると、彼はレッドアイが攻撃する瞬間の初期動作、その動きから攻撃ポイントを瞬間的に予測して、攻撃を交わすなり弾くなりしているんだ」
レオは納得せざるを得なかった。今、目の前で起きていることを表すには、シンの説明が最も的を得ていたからだ。
「どうだ? 彼のあの力に本物の戦闘スキルが身に付けば、なかなか面白いと思わないか?」
シンはレオに問いかける。レオはその光景を想像したのか顔は少しにやけていた。
その後、レオはおもむろに立ち上がった。
「確かに、あいつが戦い方を学べば、強くなるだろうよ。だが、その戦い方っていうのはいったい誰が教えるんだよ」
「俺が教えるよ」
レオがまだ、口を開いている最中だったが、シンはすぐさま答えた。この言葉を聞いて、シンの顔を見ながら、レオは一瞬固まったかと思いきや、急に顔を空に向け、大声で笑いだした。
「アーハッハッハ!! まさかお前から教えるなんて単語が出るなんてな。驚いたぜ」
「そんなに驚くことかな……」
顔をポリポリと掻きながら、苦笑いを浮かべた。
「だってお前、教官になってから一度も隊員たちにアドバイスとか何もしたことないだろ」
「教官って言っても、俺がいなくても全然問題ないだろ。そもそもレオみたいにもう専門の教官がいるし、隊員には、世界でもトップクラスの若い武術家、格闘家や、剣術家とか集めるだろ。だから、教えることなんてあんまりないからね」
「はあ……ま、そういうことにしといてやるよ。でも、お前本当にあいつに教えたいと思った理由は、あの能力があるからってだけなのか?」
そう言い、レオはシンの顔をジーっと見つめる。それに耐えかねたのか、シンはお手上げだと言わんばかりに、両手を挙げる。
「いやー。やっぱり気づいてた?」
「お前は才能だけで人を見るような奴じゃないからな。で、何が一番の要因だ?」
シンはまっすぐ焔のことを見つめなおした。
「似ていると思わないか。あの目。相手が確実に自分より格上で、ほぼ100%勝つことなんてできない、そんな奴を前にしても、必ず大切な人を、仲間を守ろうとしている。彼の目にはそんな信念がこもっている。まるであの人見たいだろ、レオ」
レオも焔のことを見ていると、ある人のことが自然と頭に浮かんできた。レオも本当は気付いていた。シンがなぜ焔のことを気にかけているのか。
「ちゃんと使い物になるんだろうな、シン」
「もちろんだ」
そうシンが告げると、レオは鼻でフッと笑い、再び焔とレッドアイの戦いに二人は目を向けた。