第7話 職場にて

文字数 1,192文字

 世界のリーディング企業たる、某自動車工場でも、こういうことがあった ── 多数の人が「こうして作業して下さい」と言っているのに、そのやり方で作業をせず、いわば自分勝手に作業をする、という人の存在が。そして、そこから起こる様々な事象が。
 エンジンの組み付けで、人の命に直結する大事な仕事場であったのに、これでいいのかと私は相当に悩んでしまった。その人は、裏番(交代制勤務だったので、例えばこちらが早出の時、遅出の出勤になる人達を「裏番」と呼んでいた)の上司であった。

 そのときの私の持ち場の作業は、チョッとでもホコリが付くとエンジンに支障を来たす、精密機械の部分だった。最悪、車両火災を起こす、と、親しくなった多くの先輩から教わっていた。そのような責任ある仕事を任されたことに、私は相応の責任感とやり甲斐を感じていたのだったが…
 いつ・誰がその作業をしたかというのは、製造番号等で分かるようになっているから、べつにこちらが不良品を出さなければいいのだ、と気楽に考えることができなかった。
 工場で誰が作業したかなんて、お客さんには関係ないことで、あくまでも「不良品を出さない」ことが、従業員の一致する、仕事への取り組み方だと信じていた。
 結局、裏番は裏番、こちらはこちらのやり方でやっていたのだが、どうにもギスギスして、何のために働いているんだろうと思った。
 不良品を出さず、車を買うお客さんに喜ばれることでなく、裏の上司の言うことを聞いて、上司を喜ばせることが、肝心な仕事であるかのようだった…

 これと同じような現象が、現在の私の勤めである介護の現場にもある。
 職種は違うけれど、自動車工場のギスギスさも、介護の現場のギスギスさも、根元をたどれば「人はひとりひとり違う」に行き着く。おむつ交換、移乗(車椅子からベッドなどにに移すこと)の仕方ひとつ取っても、皆、やり方が違う。まして、前回自分が勤めた施設とも違う。でも、人様に喜んで頂けるよう、仕事をする、この点で、まったく同じだ。きれいごとかもしれないが、仕事は、みんな、人様に喜んで頂くことだと思う。

 話が、遠回りしてしまった。
 私にとって2つめの、この介護施設。働き出してからのことを、書きます。
 前施設では、入居者さんとのコミュニケーションが重んじられていたけれど、今回の施設では、スタッフのほとんどが入居者さんに話し掛けなかった。むしろ、スタッフどうしのコミュニケーションを重んじているかのようだった。
 覚えることは沢山ある。午前と午後のおやつの時間、入居者さんのコーヒーや紅茶の好み、入浴後の皮膚に塗る薬、おむつのサイズ、食事の時の、箸の違い、ご飯の量の違い。
 一緒に働く職員に合わせつつ、自分が自分として、実務はもちろん最大に重きを置き、入居者さんに喜んで頂けるよう(言葉にするとワザトラシイが)、やっていこうとしていた。
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