第20話 女神の一撃
エピソード文字数 2,632文字

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龍子さん達と別れ、大きな国道を渡りきり、家路に向かう。
そんな時、曲がり角からひょこっと出てきた男がいた。
おいおい! 長髪ヤンキーじゃねぇか!
鼻を抑えたまま、俺から視線を逸らせないでいた。
ふふ、ふふふふっ。
これはもう……運命だな。
ここで俺にあったのが運の尽きってやつだ。
やっぱりてめーは、俺にボコられる運命だったらしい。
※
素直な長髪野郎だった。
完全にビビってるのか、その場から動けないでいる。
暫く間があったが、こっちの要求を飲む長髪野郎。中々潔いヤツだ。
悪いが、お前には因縁があるんでな。
戦意は無くとも一発は殴らないと気がすまねぇ。
そう言いながら鼻を隠す長髪野郎。
確かに一回やられたら、とてつもない恐怖を感じるよな。
でもこいつだって虎ちゃんのチームのヤツかもしれないし、あんまり激しくやるのもどうかと思った。
なので俺はちょっとした提案をする。
長髪野郎は素直に見せてくれる。
こりゃひでぇな。完全に曲がるぞこれ。龍子さんの一撃はマジでやばかった。
そんなビビるなよ! 情けない野郎だ
女みたいな声出すんじゃねぇって。
優しさに付け込んでちゃっかり殴ろうとする偽善者。
それは俺だ。
逆から殴れば治るなんて、俺は知らん。
根拠も何も無いが、なんとなくそんな気がしねぇ?
左フックは鼻だけをかすめると、その瞬間長髪ヤンキーは絶叫と共に崩れ去った。
怖いもの見たさってヤツだな。
うぉ~~マジでぐらぐらだぞ。
とりあえず殴れたので満足だ。
一応は染谷君や白竹さんの仇も討ったし、最後には善人ぶったりと、好き放題やらせてもらった。
そして殴った野郎にも感謝されるといったシチュエーションにも満足だ。
コイツマジで治るとでも思ってるんだろうか。
そんな時、俺達の後ろから走ってくる奴らがいた。
振り返ると、さっき虎ちゃんと一緒に来てたメンバーじゃないか。
俺がいい訳をしようとすると、長髪野郎がみんなに説明してくれる。
しかも勝手に……「俺が長髪野郎の鼻を治してくれた」みたいな流れになっちまったが、俺は何も言わなかった。
なんだ。なんなんだこいつら。
メンバー全員が俺を羨望の眼差しで見てるし……
何を喋ってるのか、何が面白いのか、どこで笑えるのかイミフすぎる。
勝手に盛り上がっているようなので、俺はこの場所から立ち去ろうとすると、
何気なく言ったつもりだったが、俺の返事にヴァルハラメンバー全員が大声で返事するのだった。
結構遅い時間なのに、その大声は近所迷惑だぞ
まぁでも……
こいつらもやけに素直なもんだ。その理由はきっと……
俺が今、女だからだろ? これが蓮なら、こんな風にはならない。
うんざりだ。
蓮と楓蓮との対応のギャップを感じると、胸糞悪くなってくる。
ああもう! 鬱陶しい!
お前らみたいなヤツに家がバレるのもイヤだし、ついてくるな!
怒鳴り散らすとようやく付いてくるのを止めたメンバーだが……
曲がり角付近で、こちらを伺ってるし。
ようやく俺の視界から消えたヴァルハラメンバーだった。
あまりのしつこさに、ボコボコにしてやろうかと思った矢先に消えやがって……
まぁいいか。あんな奴らなんてどうでもいい。
楓蓮でつるむ気もしないし、友達にもなりたくない部類の人間だからな。
どうせ……あいつらが愛想が良いのは、今の俺が女だから。それ以外に理由は無い。
そんなヤツとは俺は一切、気を許すつもりは無いのだ。
そう思いながら階段を上がって家に入ると、ここでようやくある事に気が付いた。
くそっ! あいつらのおかげですっかり忘れてた。
これじゃ何しにコンビニ行ったのか、意味不明じゃねぇか!
う、うぉ~~~~!
こんな事なら……あいつら全員殴っておけばよかったぜ。