第20話  女神の一撃

エピソード文字数 2,632文字

 

 ※


 龍子さん達と別れ、大きな国道を渡りきり、家路に向かう。


 そんな時、曲がり角からひょこっと出てきた男がいた。



あっ!
おっ!

 


 おいおい! 長髪ヤンキーじゃねぇか!

 鼻を抑えたまま、俺から視線を逸らせないでいた。



 ふふ、ふふふふっ。



 これはもう……運命だな。

 ここで俺にあったのが運の尽きってやつだ。 




 やっぱりてめーは、俺にボコられる運命だったらしい。




 ※



おい。待てよ。に~ちゃん
ひっ! ひぃ!

素直な長髪野郎だった。


完全にビビってるのか、その場から動けないでいる。

一発殴ったら許してやる

暫く間があったが、こっちの要求を飲む長髪野郎。中々潔いヤツだ。


悪いが、お前には因縁があるんでな。


戦意は無くとも一発は殴らないと気がすまねぇ。


でも鼻は……やめてください

 そう言いながら鼻を隠す長髪野郎。


 確かに一回やられたら、とてつもない恐怖を感じるよな。

 でもこいつだって虎ちゃんのチームのヤツかもしれないし、あんまり激しくやるのもどうかと思った。



 なので俺はちょっとした提案をする。


おい。ちょっと鼻見せろよ

 長髪野郎は素直に見せてくれる。


 こりゃひでぇな。完全に曲がるぞこれ。龍子さんの一撃はマジでやばかった。

お前。すぐに病院行かなきゃ鼻が曲がっちまうぞ……ってかこの時間なら閉まってるか。


しょうがねぇな。逆から殴って治してやるよ

えぇ~~~~! ちょ、ちょっとぉ!

 そんなビビるなよ! 情けない野郎だ


 女みたいな声出すんじゃねぇって。

このままじゃお前マジで右曲りになるぞ。


今から反対側も折ってやるから、その後ちゃんと固定して、明日病院にいけば元通りになるかもしれん


 優しさに付け込んでちゃっかり殴ろうとする偽善者。

 それは俺だ。




 逆から殴れば治るなんて、俺は知らん。

 根拠も何も無いが、なんとなくそんな気がしねぇ? 


覚悟はいいか! いくぞ! 歯を食いしばれっ!
 長髪野郎の鼻に一点集中。

 左フックは鼻だけをかすめると、その瞬間長髪ヤンキーは絶叫と共に崩れ去った。

あぁ~~~~! うがぁ~~~!
……どれどれ。おおっ! ちょっと見せろよ

 怖いもの見たさってヤツだな。

 うぉ~~マジでぐらぐらだぞ。 

いででででっ! や、やめっ! でぇ~~~!

よし。ちゃんと鼻を抑えて帰れよ。


寝る前はちゃんと真っ直ぐに固定すればきっと大丈夫だ。

 とりあえず殴れたので満足だ。


 一応は染谷君や白竹さんの仇も討ったし、最後には善人ぶったりと、好き放題やらせてもらった。

あっ。あざぁ~~~っす!

 そして殴った野郎にも感謝されるといったシチュエーションにも満足だ。


 コイツマジで治るとでも思ってるんだろうか。

 そんな時、俺達の後ろから走ってくる奴らがいた。


 振り返ると、さっき虎ちゃんと一緒に来てたメンバーじゃないか。

あ、どもっすっ! 白峰隊長!
(っつーか。おっぱいでけーな。メロン入ってんじゃねーのか?)
さっきすげー声がしたけど、どうしたんっすか?
いや、実はこいつの……「

 俺がいい訳をしようとすると、長髪野郎がみんなに説明してくれる。


 しかも勝手に……「俺が長髪野郎の鼻を治してくれた」みたいな流れになっちまったが、俺は何も言わなかった。

マジっすか? すげぇ~~白峰隊長! ぱねーっす!

逆から殴って治すって聞いた事あるけど……


それを実戦できるなんて、凄すぎるでしょ。

誰に聞いたんだよ。

しかもさっきまでズキズキしてた痛みが……なくなっちまったんだ。


ぱねぇっすよ! 白峰さんっ!

ははっ。そうか。良かったな

 なんだ。なんなんだこいつら。


 メンバー全員が俺を羨望の眼差しで見てるし……

こんな綺麗で、強くて、可愛い人が特攻隊長だなんて……


俺。めっちゃやる気出てきたぜっ。

(っつーかあの短パン短すぎて、ヒラヒラと中身が見えてるんだけど、あれはパンツなのか?)

虎総長も強ぇ~し。その姉上の龍子総長。そして楓蓮さんがいれば……


全国統一。できるんじゃね?

楽勝だろおいっ! 全国ってか、全世界だろ。


そのままヴァルハラ宮殿にもケンカ売りにいこうぜっ!

 何を喋ってるのか、何が面白いのか、どこで笑えるのかイミフすぎる。


 勝手に盛り上がっているようなので、俺はこの場所から立ち去ろうとすると、

白峰さんっ! ありがとぉございました!


これできっと! 鼻も元通りっすっ!

いいなぁお前……殴ってもらえるなんて。

っつーかなんだか俺……さっきから、やる気が漲ってくるんだけど。


女神の一撃に俺は覚醒しちまったかも

あっそ。 もうわかったから……じゃあな!


虎ちゃんにもよろしくなっ!

 何気なく言ったつもりだったが、俺の返事にヴァルハラメンバー全員が大声で返事するのだった。


 結構遅い時間なのに、その大声は近所迷惑だぞ

 まぁでも……


 こいつらもやけに素直なもんだ。その理由はきっと……




 俺が今、女だからだろ? これが蓮なら、こんな風にはならない。




 うんざりだ。


 蓮と楓蓮との対応のギャップを感じると、胸糞悪くなってくる。



……で? なんで付いてくるんだよ
あ、いや……白峰さんの護衛を……
こんな夜中ですし、何かあっては……
(すげーな。歩くたびにおっぱい揺れすぎだろ。恐らくFカップは確定だ)
そんなのいいから! どっか行けよっ!
(おおっ! 怒った顔もなんだか可愛いし。声もプリチィ!)

 ああもう! 鬱陶しい! 


 お前らみたいなヤツに家がバレるのもイヤだし、ついてくるな!

 怒鳴り散らすとようやく付いてくるのを止めたメンバーだが……


 曲がり角付近で、こちらを伺ってるし。


くんなっつってるだろが!
(おおっ。なんと雄雄しい……)

 ようやく俺の視界から消えたヴァルハラメンバーだった。


 あまりのしつこさに、ボコボコにしてやろうかと思った矢先に消えやがって……

 

 まぁいいか。あんな奴らなんてどうでもいい。


 楓蓮でつるむ気もしないし、友達にもなりたくない部類の人間だからな。



 どうせ……あいつらが愛想が良いのは、今の俺が女だから。それ以外に理由は無い。


 そんなヤツとは俺は一切、気を許すつもりは無いのだ。




 


 そう思いながら階段を上がって家に入ると、ここでようやくある事に気が付いた。




しまった。


飯買うの忘れた……


 くそっ! あいつらのおかげですっかり忘れてた。

 これじゃ何しにコンビニ行ったのか、意味不明じゃねぇか!



 う、うぉ~~~~!


 こんな事なら……あいつら全員殴っておけばよかったぜ。  

 

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次回  兄弟(姉妹)の絆 1
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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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