本編

文字数 2,000文字

 前世の私は、それはしがない下っ端OL。上司の発言は絶対でした。


 長い物には巻かれろ、秩序よフォーエバー。そう言い聞かされたものです。


 そんな私が今世では……。

や、やっぱりウチを辞めてしまわれるのですか……
すいやせん。やっぱ、強奪しない山賊って味気ねぇっつうか……
自分ももう限界っす! どうしたんすか、山賊姫ともあろうおかたが!! まるで人が変わったかのようっす?! いや前々から小動物系のおひとではありましたが!!

(ぴぇえ、前世の記憶を取り戻して、簒奪(さんだつ)におののいたなんて言えないです……!)


わっ、私は改心したのです! せっかく亡くなったお父様がつけさせてくださった教養、よきことに活かさねば宝の持ち腐れと――
まーまー、みんな、お姫を責めんなよ。野郎は辞めてくれたほーがオレとしては都合いいし。


ねぇ、お姫。オレはどんなお姫でもついてゆきますよ?

エっ、エリオットさんんん〜っ!
 このかたはエリオットさん。

 ちょっと変わっているけれど私を『お姫』と呼んでよくしてくださっているのです!

てなわけでお姫、金持ってそーな子どもを拾ってきましたぜ!
たっ、助けてぇー!

そういうところですよエリオットさん!?!


だれよりもわかっていないです!?

もー。ちっがいますよ。オレはこの坊主を『保護』してきたんですぅ〜
はぅえ??
 私は誠心誠意、真心を込めてハーブティーを淹れさせていただきました。


 前世ではお茶くみのエキスパートとして給湯室とお友だちだった日々、これくらい朝ごはん前です!! それに今は、お茶の素となる葉っぱさんも味方(・・・・・・・・・・・・・・・)ですし。


 エリオットさんが保護した男の子の前へ音を立てないよう気をつけながら置くと、男の子は恐る恐るではありましたが口をつけてくださいました。

あっ、すごく美味しい……。


……名乗るのが遅れた。僕の名前は、リチャード=ルディナベルグ。僭越ながら、この国の第二王子をさせていただいている者だ

 刹那、私はズシャアア! とその場にくずおれます。
なにしてるんですかー、お姫? そんな地面に頭をこすりつけたら、覗きたくても少年の下着は見えませんよ?


てゆーか見たいならオレのでいいじゃないですかー?

どんな痴女ですかー!! これは土下座といいまして古代より伝わるジャパニーズ平伏なんですうぅう!!

じゃ、じゃぱにー……??
ふ、ふふふー、やんごとなきおかたには生涯必要なきことですのでお気になさらずですっっ
んー、不思議ちゃんなお姫、カワイイ♡


まー、とりま、話を進めようか。この王子、兄王子に狙われていたらしくて()られかけてたんですよね。


そこを通りがかったオレが助けたの。褒めてくれますよね、お姫♡

 私は途端に、ぎゅむっと王子様を抱きしめました。
!!?
ええ〜、お姫。オレの手柄〜……
うぅぅー、うえぇえ、つらかったですねぇ! お兄さんに、そんな……!


エリオットさん!

ん?
本当に本当に、リチャード王子を救ってくれてありがとうございます〜!


これもご縁、私も彼のお役に立てるなにかがしたいです!


……手伝って……くれますか……?

オレがお姫の頼み、断るワケないでしょー!
き、気持ちは大変ありがたいが……兄上には専属の精鋭部隊がいる。あなたがたを危険にさらすわけには……!
『精鋭』部隊! いいことを聞きました♪
は……?
私の『お庭』に誘いだせれば、こちらのものです! ね、エリオットさん♪
極上の表情(カオ)でこれだもんなぁ。


オレ、お姫だけは敵にまわしたくないです、ホント

???
 ここは森の中。

 そして、私の『お庭』でもあります。


 その中で、兵士三人が、リチャード王子を追いかけています。


 正確には、リチャード王子を模した葉っぱ人形さん(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を。

第二王子はこちらだ!
追えー!
 木の上からことの成り行きを見守っているエリオットさんと私。


 彼らを眺めながらエリオットさんが、いつものどこか楽しそうな調子でささやいてきます。

思ったより(やっこ)さん、少ないんですねぇ
小さな子相手ですから、控えめな配置なのでしょう。


いいですか、エリオットさん。なるべく低〜い声でですよ!

 そう言って私はさっと指揮を執るように片手を上げます。


 すると……。



 ずももももっ!!



 大きな大きな枯葉の怪物さんができあがりました。


 さらに上げた手を前へ構えると、その子は最大限怪しげな動きで兵士たちへ歩みよります。

だいにお〜じにちかづくな〜
わっ、わあああ!
ののの、呪われる〜!!
やっ……やりました〜! ふふふ、皆さんすたこらさっさです♪これであとは裏ルートから兄王子さんを懲らしめて〜……
お姫、えぐっ……
ずっと、私に『力』があったら。『権力』より『ご縁』を優先したいと思っていました。


ついてきてくださるなら、一蓮托生(いちれんたくしょう)ですよ?

…………喜んで!
【終】
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