五章 7

文字数 729文字

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 グローリアは竜犬にまたがり、飛び去った。
 彼女を追い、シリウスは街を走る。

 ウラボロスは燃えていた。家々が炎に包まれ、街路を人たちが逃げまどう。ふみにじられた祭の花。ころがる死体。黒煙が空を覆う。

 地獄だ。
 これらは、たった一人の女によってもたらされた。

 グローリアを乗せた竜犬は大きく羽ばたきながら、低空飛行を続けている。まるで、シリウスをどこかへ導いているみたいだ。

 やがて、竜犬がおりたのは、あの場所だ。
 アリア湖を見おろす崖。
 シリウスとグローリアの出会いの地。

 あの朝焼けのなかで見た彼女は、なんと美しかっただろうか。厳かで、あでやかだった。可憐で透明だった。
 彼女の心は朝焼けの色にとけて、つかみようがなかった。
 あたりまえだ。グローリアの心はカラッポなのだから。

「グローリア」

 追いついたシリウスを、グローリアは崖の先端からながめる。

「わたし、幸せよ。今なら、わたしを愛してくれた男たちといっしょに逝ける。一人で逝くのは、さみしすぎるもの」
「何をするつもりだ」

 彼女は笑った。これまで彼女が見せたどの笑みより、優しく、満ちたりていた。

「わたし、今度は人間に生まれてくるわ。だから、約束」
「グローリア」

 近づこうとすると、あとずさる。彼女の足元で、小石が一つ、崖下にころがりおちる。

「グローリア。そこは危険だ。こっちへ来い」

 グローリアは首をふる。

「約束して。今度は幸せになりましょう。わたしたち」

 シリウスの目の前で、グローリアは絶壁から身をなげた。落下する彼女の手が、こちらへむかって伸び、シリウスを呼んでいるかのように見える。

「グローリアーッ!」

 シリウスは追った。
 彼女を一人で死なせはしない。
 無我夢中で、崖のむこうへ飛びおりた。
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