文字数 909文字

「見てみろよ。これが俺達のやってきた仕事なんだよな」
僕のすぐ横にいた男性が、あらためて満足そうにうなずく。
「うん。最初はどうなるものかと思ったけど、良い感じに仕上げられそうだね」

このプロジェクトを、僕と彼のふたりで同時に進めていくよう決定された時は正直、不安しか無かった。
それぞれの性格、特徴、仕事の進め方などの面で、僕たちふたりはあまりにもタイプが違っていたからである。
「最初は正直いうと不安しか無かったんだ。でも、結果として最高の仕事ができた。ありがとうな」

僕の心情をそのまま代弁してくれたかのような彼の発言に驚きつつも、その気持ちが嬉しくて涙腺が少し緩みそうになる。
「おいおい、泣きそうになってるなよ。大げさだな! にじませるのはお前の仕事だけにしておいてくれよ」
このプロジェクト中、いつ頃からかは忘れたが僕に対して呼び始めた「相棒」という言葉を付け加えながら、彼は笑っていた。

「そうだね。もうひと頑張りだ、がんばろう」
うむ、と力強くうなずく彼のインク残量を見ると、もう空っぽに近い。そういう僕のほうも、もはや残量は底をつきそうだ。
「お互いに、ここからのひと描きでインク交換になりそうだな。……っと、そろそろ始まるみたいか」

ふたり一緒に地面から離れ、数秒間ほど空中を移動したあと再び地面に着地する。いよいよ最後のひと仕事だ。
「それじゃ、先に行くぞ」
そう言い残すと小気味の良い音と共に、すぐ横にいた彼があっという間に遠く離れた地点へと滑り去っていった。

快活な性格をそのまま表したかのような太くて真っ直ぐな線が、彼の去っていった軌跡としてクッキリ残っている。
油性ペンの彼がざっくり描いた線の上から、細かい装飾を施していくのが水性ペンである僕の仕事だ。
細いペン先、水性の特性を活かして時に細かく、時ににじませつつ淡々と模様を描き込んでいく。

両手で同時に描画するという珍しいスタイルのこの絵描きは、作品の完成時にサインを必ず入れるというこだわりがあるらしい。
「今回のサインは僕と彼どっちで書くんだろうか……」
そんなささいな疑問をふと浮かべた僕の目の前で、高らかな笑い声と共に豪快な描線がまた1本。一直線に引かれていった。
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