第1話 未開の地で足を使って
文字数 1,974文字
「ごめんください」
令和から来ました。インキュベーターのコアラの叡智と申します。聞こえますかと声を張る。
コアラの叡智は出現させたチャイムを押して、インターフォンに向かって話しかけていた。
ポリポリと頭をかいて深呼吸し、もう一度、チャイムを押して繰り返す。
「ごめんくださ~い。あなた様は2年後に魔法が使えるように成ります。今からインキュベーターに成って、マナのストックを持っておきませんか」
「…す、姿ぐらい見せたら、どうだぁ!」
「ありがとうございます。それでは失礼して…」
霊体化して椅子に座った状態で不可視化をやめる。目の前の没落貴族は、目を見開いて驚いているが、告知はしっかりと行わないといけないので、【契約書】を見せながら目を見て話す。
「先ほども伝えた通り、あなた様は2年後に魔法が使えるようになります。その際に魔法で身を滅ぼさない為にも契約をしてインキュベーターに成りませんか」
口をあけたまま、大きく息を吸い込む音と吐き出す音が部屋に響く。没落貴族は、天秤で何かを測ろうとしていたのか分銅を手で持っていた。小刻みに指先は震えている。
「可能な限りのサポートはします。つまり、魔法についてお教えします」
「…け、契約の代償は、た、魂か」
「いえ、そんな不当な契約ではありません。あなたの生み出したマナの一部が世界に還元される事と契約を預かったボクに一部が利益として分配されます」
「ま、マナ…」
「ええ、ボクはマナと呼んでいますが呼ばれ方は世界によっても異なります。魔法の材料の様な物です」
「どうやって、生み出すんだ。死後の代償か」
机を透視したので、人の皮で作られた魔導書の原型を見つける。奪ってしまう事も出来るけれども、それじゃあんまりだからなどと考えながら説明を続ける。
「あ、ええとですね。この世界でも創造主は信仰されていますか」
「ああ、もちろんだとも、その神によって当家も伯爵として認められている…」
「でしたら、話は早いですよ。この世界はどこかのインキュベーターか魔法が使える誰かによって創造されました。受け入れがたいかもしれませんが、あなた様の信じている神様はインキュベーターか魔法使いって事になります」
「ぼ、冒涜だ…」
「ですから、落ち着いて下さい。神様、つまり、創造主はいます。けれども、創造主がお作りになった人間が作った世界に伯爵はお生まれになったのです」
「か、その神は今は…」
「えっと、この世界を作った魔法使いですよね。そうですね。残念ながら失踪しているか亡くなっています」
「…やっぱり、神は死んでしまったのか」
分かってはいたんだ。と繰り返しながら、ボロボロと涙をこぼす伯爵を見つめながら、どうしたものかと思案する。本当に上手な言葉を見つけないといけない。
「それでも世界は続いていますし、創造主は確かにいます。伯爵にとっての創造主は、この世界を作った方だったかもしれませんが、その外にも世界はあって…」
「考えさせてくれ」
「…と申しますと、時間が欲しいという事ですか」
「いや、契約はしておこう。けれども、魔法を使うかどうかだ」
「ありがとうございます。はい、よく考えて魔法はお使いください」
ボールペンを差し出したが、書きなれた物を使うと筆先が器用に契約書の上を走っている。すずりではなく、ボトルに入ったインクに2回ほど筆先が差し込まれた時には、3行にわたって書かれた署名は完了してた。
「筆をお使いなのですね」
「ああ、わたしに魔術を指南した先生は東洋人でな」
「そうでしたか」
何度も魔法についてはこれ以上教えないで良いのかと聞いたが、2年後の自分が考える事だと言われ繰り返すうちに退出を求められた。
「ありがとうございました。残念なことに退出後はコールを使うだけでもマナを消費します。アフターフォローにもいつでもお使い頂きたいですが…」
「くどい。魔法を使うかどうかは、未来に決める事だ」
「分かりました。それでは、失礼します」
時間もちょうどよかったので、その世界を後にした。元の世界に戻ると令和の世界は上位の世界なのか、それとも創造主が作ってくれた一層目の世界なのか、あの貴族の世界よりもゆっくりと時間が流れている。つまり、大げさに言うとコチラで一晩経つとあちらでは1,000年経つ事もある。
―報酬が振り込まれました。また、契約先の世界消失まで…
運営からのメッセージが届いた。公私を分ける為にも回路を組んでメールとして届くようにしている。ダイレクトに頭に届いても良いのだけど、何も考えない時間も大切にしたい。
タッチパネルを操作して詳細を確かめる。小さい世界だったから世界消失までの許容量が気になる。
―契約先の一件が消失しました。利益確定により最終報酬…
手を止めて深呼吸する。そして、ショートカットキーを使ってメッセージを消した。
令和から来ました。インキュベーターのコアラの叡智と申します。聞こえますかと声を張る。
コアラの叡智は出現させたチャイムを押して、インターフォンに向かって話しかけていた。
ポリポリと頭をかいて深呼吸し、もう一度、チャイムを押して繰り返す。
「ごめんくださ~い。あなた様は2年後に魔法が使えるように成ります。今からインキュベーターに成って、マナのストックを持っておきませんか」
「…す、姿ぐらい見せたら、どうだぁ!」
「ありがとうございます。それでは失礼して…」
霊体化して椅子に座った状態で不可視化をやめる。目の前の没落貴族は、目を見開いて驚いているが、告知はしっかりと行わないといけないので、【契約書】を見せながら目を見て話す。
「先ほども伝えた通り、あなた様は2年後に魔法が使えるようになります。その際に魔法で身を滅ぼさない為にも契約をしてインキュベーターに成りませんか」
口をあけたまま、大きく息を吸い込む音と吐き出す音が部屋に響く。没落貴族は、天秤で何かを測ろうとしていたのか分銅を手で持っていた。小刻みに指先は震えている。
「可能な限りのサポートはします。つまり、魔法についてお教えします」
「…け、契約の代償は、た、魂か」
「いえ、そんな不当な契約ではありません。あなたの生み出したマナの一部が世界に還元される事と契約を預かったボクに一部が利益として分配されます」
「ま、マナ…」
「ええ、ボクはマナと呼んでいますが呼ばれ方は世界によっても異なります。魔法の材料の様な物です」
「どうやって、生み出すんだ。死後の代償か」
机を透視したので、人の皮で作られた魔導書の原型を見つける。奪ってしまう事も出来るけれども、それじゃあんまりだからなどと考えながら説明を続ける。
「あ、ええとですね。この世界でも創造主は信仰されていますか」
「ああ、もちろんだとも、その神によって当家も伯爵として認められている…」
「でしたら、話は早いですよ。この世界はどこかのインキュベーターか魔法が使える誰かによって創造されました。受け入れがたいかもしれませんが、あなた様の信じている神様はインキュベーターか魔法使いって事になります」
「ぼ、冒涜だ…」
「ですから、落ち着いて下さい。神様、つまり、創造主はいます。けれども、創造主がお作りになった人間が作った世界に伯爵はお生まれになったのです」
「か、その神は今は…」
「えっと、この世界を作った魔法使いですよね。そうですね。残念ながら失踪しているか亡くなっています」
「…やっぱり、神は死んでしまったのか」
分かってはいたんだ。と繰り返しながら、ボロボロと涙をこぼす伯爵を見つめながら、どうしたものかと思案する。本当に上手な言葉を見つけないといけない。
「それでも世界は続いていますし、創造主は確かにいます。伯爵にとっての創造主は、この世界を作った方だったかもしれませんが、その外にも世界はあって…」
「考えさせてくれ」
「…と申しますと、時間が欲しいという事ですか」
「いや、契約はしておこう。けれども、魔法を使うかどうかだ」
「ありがとうございます。はい、よく考えて魔法はお使いください」
ボールペンを差し出したが、書きなれた物を使うと筆先が器用に契約書の上を走っている。すずりではなく、ボトルに入ったインクに2回ほど筆先が差し込まれた時には、3行にわたって書かれた署名は完了してた。
「筆をお使いなのですね」
「ああ、わたしに魔術を指南した先生は東洋人でな」
「そうでしたか」
何度も魔法についてはこれ以上教えないで良いのかと聞いたが、2年後の自分が考える事だと言われ繰り返すうちに退出を求められた。
「ありがとうございました。残念なことに退出後はコールを使うだけでもマナを消費します。アフターフォローにもいつでもお使い頂きたいですが…」
「くどい。魔法を使うかどうかは、未来に決める事だ」
「分かりました。それでは、失礼します」
時間もちょうどよかったので、その世界を後にした。元の世界に戻ると令和の世界は上位の世界なのか、それとも創造主が作ってくれた一層目の世界なのか、あの貴族の世界よりもゆっくりと時間が流れている。つまり、大げさに言うとコチラで一晩経つとあちらでは1,000年経つ事もある。
―報酬が振り込まれました。また、契約先の世界消失まで…
運営からのメッセージが届いた。公私を分ける為にも回路を組んでメールとして届くようにしている。ダイレクトに頭に届いても良いのだけど、何も考えない時間も大切にしたい。
タッチパネルを操作して詳細を確かめる。小さい世界だったから世界消失までの許容量が気になる。
―契約先の一件が消失しました。利益確定により最終報酬…
手を止めて深呼吸する。そして、ショートカットキーを使ってメッセージを消した。