後編・真相解明

文字数 2,165文字

水音が響く密室。
唇が付いたり、離れたりを繰り返して
小さな笑い声も混じる。

「悪い子だね、お仕置きをしないと」
「せんせぇこそ」
「あの子は不運だったな」
「もう忘れましょ、負け犬の事なんて」


「お取り込み中のところすみませーん!」

拡声機で水を差してあげた。
息を呑む音が二人分。

「あなたたちが真犯人である事は分かっています!大人しく出て来なさい」

返事は無い。
それならば聞かせてやるまで。
導き出したボクの推理を。

「一年生男子は不幸にも、ここ三階トイレに来てしまった。水漏れ工事で使えないはずのね。
そして会長の姿を目撃した」

返事は無い。
お構い無しに続ける。

「そして彼を呼び出したにも関わらず、知らないと言い張ったのは榊先生だ」

個室の中からは何の音もしない。
代わりにミリちゃんが、横から補足する。

「会長と先生は、逢い引きなさっていたのです!」

頼れる助手に嬉しくなる。
ヒッと短い悲鳴が上がって、効果を感じる。

「禁断の関係を知られてしまった二人は恐ろしい事を考えた。
窃盗事件を捏造して目撃者を学園から追い出そうとしたんだ!」

ドアが開いて榊先生が現れた。
その顔に観念の様子は見えない。まだ攻撃が足りないみたいだな。

「何の話だか分からないな。俺はただ、生徒の悩み相談に乗っていただけだ」

「どこで聞いているんだか、エロ教師」

「人目に付かない場所を選んだだけだ。それで窃盗の容疑とは笑わせるな」

「証拠ならあります」

「なんだと?」

「許可を得て先生の机の中を見ました。盗まれた財布の中身がありましたよ」

「馬鹿馬鹿しい。金が引き出しにあったから何だと言うんだ。ただの昼飯代だよ」

「そうはいきません。お金以外の物がありましたからね」

「なん・・・だと」

「わたくしのお守りですわ!」

助手のサポートを受けて、先生の顔色がサッと変わる。
よしよし手応えありだ。

「お守りぐらい、俺だって持っている」

「どんな柄の何守りですか?」

「なんだと?」

「当然分かりますよね?」

先生はミリちゃんをジロジロ眺めて
思い出したように手を叩いた。

「リボン柄の恋守りだ」

「はいダウト。財布の柄で判断しないように」

正解は猫柄の健康守り。
窃盗の容疑をかけるだけなら中身を入れておけばいいものを。
会長はブランド物のアクセサリーを身につけていたから、交際にはお金がかかったのだろう。

「私、先生に相談に乗って頂いていたのです。
窃盗事件なんて知りません」

会長がアッサリ裏切った。この悪女が。
汚い女には汚い手を使うに限る。


『やったわ!退学決定よ。
もう何も怖いものなんて無い。私が空の財布を鞄に入れたなんて誰にも分かりっこ無いわ!』


録音しておいた独り言を大音量で流してやれば
顔を真っ赤にしてプルプル震え出す。

「な、な、なな、なんで・・・」

ハッと気付いて胸元を探る。
盗聴器を見つけて悲鳴と共に床に叩きつけた。

「あ、あなた、さっき抱きついてきた時に!?
これは犯罪よ!」

「上に許可は得ています」

「何ですって!?」

「ボクは理事長に直々に命じられた探偵なんだ。
学園内の揉め事を解決するようにね」

「り、理事長・・・」

「ママが天国に行ってからずっと支えてくれてる、恩人であり、唯一の家族なんだ。
彼女の憂いはボクが晴らす。
退学届のやりとりも演技だよ。校長先生にも協力してもらったんだ」

「そんな・・・嘘よ・・・」

「生徒会長になって、世界で一番偉くなったとでも思ったのかな。
上には上がいましたね、女王陛下?」

彼女はフラフラと窓に向かって歩いていき
全開にした。

「もうおしまいだわ・・・」

飛び降りようとした体を、榊先生が抱きとめる。
暴れる彼女をなだめてから

「二人で逃げよう」

そう言って、突進してくる。
ボクはサッと身を引いて、合図を送る。

「教育的指導!!!」

夢山先生の華麗なボディーブローが決まり
榊先生は悶絶して倒れこむ。

「生徒の手本である会長、そして教師ともあろう者が何ですか!
罪を着せられた少年にも私共々、謝って頂きます」

武闘派学年主任に拍手を送り、連行される犯人達を見送った。
事件解決はいつも気持ちいい。

「罪は白日のもとに、罪なき羊は空のもとに」



一年男子がやってきて
床に着くぐらい深々とお辞儀をする。

「先輩には何とお礼を言ったらいいか」

「先輩じゃないよ」

「え?」

「ネクタイの色、一緒だろ?」

「こんなに態度が大きくて一年生・・・」

彼は驚いたような呆れたような顔をして
テーブルの上に目をやる。

「サークル設立の申請書だよ。
一人は寂しいと思っていたんだ。ボクとミリと、君でやろう」

「推理とかした事ないけど」

「とりあえず頭数だけ居るんだよ。ノウハウはボクがじっくり教えてあげる」

「きみは、何者なの?」

笑みがこぼれる。
その質問はとてもいい。一万点あげたい。


「ボクは鬼呂(キロ)。学園を守る名探偵」


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み