ヒツジが第6章の練習問題をやってみるページ

文字数 2,593文字

〈練習問題6〉おばあさん

 この課題は1ページくらいで仕上げてください。あまりがんばりすぎず、なるべく短くしておいてくださいね。というのは、同じお話を2回書いていただくからです。
 内容はこういう感じ。
 おばあさんがひとり、せっせと何かをしています。お皿を洗ったり、お庭の手入れをしたり、はたまた数学の博士論文を推敲したり。何をしていてもいいです。そして、それをしながら、若かった頃の出来事を思い出しています。

 2つの時間のあいだを、行ったり来たりしてください。
 そして、おばあさんが今していることは「いま now」として、
 おばあさんの記憶の中で起こることは「あの頃 then」として表してください。

 少なくとも2回は、現在と過去のあいだでタイム・ジャンプを行なってください。

バージョン1:
人称:一人称(私)か三人称(彼女)のどちらかを選んでください。
時制:一貫して過去形か、一貫して現在形かのどちらかを選んでください。
時制を変えずに、どこからどこまでがリアルタイムで、どこからどこまでが回想か、読者にわかるように書いてください。それも、できるだけさりげなく。

バージョン2:
人称:バージョン1で選ばなかったほうを用いてください。

時制:パターンAかパターンBのどちらかから選んでください。
 パターンA:「いま」は現在形で、「あの頃」は過去形で書く。
 パターンB:「いま」は過去形で、「あの頃」は現在形で書く。

 バージョン1とバージョン2が語句的に合致していなくていいです。パソコンで「私」を「彼女」に、「する」を「した」に一括変換してすまそうなんてだめですからね。ちゃんと書き直してくださいね!
 人称と時制を変えると、他の言葉も変わってくるはずです。そこがこの課題のねらいなんです。

オプション:さらに他の人称と時制で遊んでみたくなったら、ぜひそうしてね。

mimura_akira

じゃあ、私、やってみますね。うんとシンプルに3パターンやってみます。(できるかな??)
1.バージョン1
2.バージョン2/パターンA
3.バージョン2/パターンB
サンプルにしてみてください。(ってできるかなー???)
まず、基本設定を決めましょう。えーと……
・プロット:おばあさんがお皿を洗っていて、だんなさまのことを思い出す。
・おばあさんの名前:佳代
・だんなさんの名前:辰雄
名前にとくに意味はありません。なんとなーく、浮かびました。
ル=グウィンさんが「名前は向こうからやってくる」って仰るの、ほんとですね。
(アースシー年代記の「ドラゴンフライ」がたしかそんな話。)
【バージョン1】
(人称:三人称 時制:一貫して過去形)

「あ」
 皿というものはなぜ、気に入った物から割れるのだろう、と佳代はため息をついた。水道の湯をいったん止めた。流しに散らばったかけらを拾ってゴミ袋におさめたら、もう一度ため息が出た。
(まあ、いいか。怪我はしなかったし)

「いいじゃないか。怪我がなかったんだから」
 ふと、辰雄の声が耳によみがえった。
「自分で割っといてそういうこと言うの」若かった佳代はくってかかったものだ。
 夫は、ははは、と笑ってとりあわなかった。そういう人だった。

「いいですよね。怪我、なかったんですから」
 佳代は微笑んで、仏壇をふり返った。
 遺影の中から、若いままの辰雄が、微笑み返していた。

(275字)

mimura_akira

【バージョン2/パターンA】
(人称:一人称 時制:「いま」は現在形、「あの頃」は過去形)

「あ」
 お皿ってどうして、気に入った物から割れちゃうんだろう。はあ……。私は水道の湯をいったん止める。流しに散らばったかけらを拾ってゴミ袋におさめたら、思わずまた、ため息。ふう。
(まあ、いいか。怪我はしなかったし)

「いいじゃないか。怪我がなかったんだから」
 ふと、あの人の声が耳によみがえる。
「自分で割っといてそういうこと言うの? もう!」
「ははは」
 いつだってとりあってくれなかった。そういう人だった。

 ごめんなさい、辰雄さん。私も若かったのよ。

「いいですよね。怪我、なかったんですから」
 微笑んで仏壇をふり返ると、写真の中からあなたも微笑み返してくれている。
 若いまま。

(279字)

mimura_akira

【バージョン2/パターンB】
(人称:一人称 時制:「いま」は過去形、「あの頃」は現在形)

「あ」
 お皿ってどうして、気に入った物から割れちゃうんだろう。
 ため息をつきつつ私は、水道の湯をいったん止めた。流しに散らばったかけらを拾ってゴミ袋におさめたら、もう一度ため息が出た。
(まあ、いいか。怪我はしなかったし)

「いいじゃないか。怪我がなかったんだから」
 あ……辰雄さんの声だ。
「自分で割っといてそういうこと言うの? もう!」
「ははは」

 あなたって人は。いつだってそうやって笑うだけ、私をからかって……

 ふっ、と、私の唇からも、笑いがもれた。

「いいですよね。怪我、なかったんですから」
 仏壇をふり返ると、写真の中からあの人も微笑み返してくれていた。
 若いまま。

(276字)

mimura_akira

ほんとだ、ル=グウィンさんの言うとおり!
こうして「人称」と「時制」を変えると、「佳代さん」の性格と年齢(同じおばあちゃんでも60代か70代かとか)がどうしても微妙に変わってきますね。面白い!
でも、ル=グウィンさんに逆らうようですけど、
日本語の場合、過去形だけで通すより、さりげなく現在形を混ぜたほうが、むしろ自然なんですよね。
ちょっとやってみますね。
【バージョン1+(プラス)】
(人称:三人称 時制:基本的に過去形、たまに現在形)
※現在形に変えた箇所を赤字にしておきます。

「あ」
 皿というものはなぜ、気に入った物から割れるのだろう、と佳代はため息をついた。水道の湯をいったん止め。流しに散らばったかけらを拾ってゴミ袋におさめたら、もう一度ため息が出た。
(まあ、いいか。怪我はしなかったし)

「いいじゃないか。怪我がなかったんだから」
 ふと、辰雄の声が耳によみがえ
「自分で割っといてそういうこと言うの」若かった佳代はくってかかったものだ。
 夫は、ははは、と笑ってとりあわなかった。そういう人だった。

「いいですよね。怪我、なかったんですから」
 佳代は微笑んで、仏壇をふり返

 遺影の中から、若いままの辰雄が、微笑み返していた。

(273字)

mimura_akira

でも練習するときは、ぜひ一度、混ぜ混ぜしないでやってみてくださいね!

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登場人物紹介

ミミュラ


このコラボノベルの管理人。ときどきアマビエに変身する。

アーシュラ・K・ル=グウィンをこよなく慕い、勝手に師と仰いでいる。

ヒツジのくせに眠るのが下手。へんな時間に起きてしまったり寝てしまったりする。

犬派か猫派かでいったら、犬派。(←ヒツジだけにお犬さま方にはつねづねお世話になってます(^^ゞ)

たい焼きは頭から、チョココロネは太いほうから食べる派。

ミニャノ

管理人に「眠り下手仲間」のよしみで誘われ、このコラボに参加することになった紀州犬。と言っても紀州には何のゆかりもなく、出身は相州鎌倉。現在、台湾台北に生息中。

「鳩サブレー」は頭からでも尾からでもなく、袋の状態のまま、指でぶちぶち潰してから食べる派。

日本語と中国語の間をふらふら往き来する人生ボケ担当大臣(自称)。ときどき別形態になるんだって。

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