3 七時十五分

文字数 715文字

翌朝。起きてそのまま階段を降りる。啓大さんちの風呂は広いしベッドもふかふか。ついでにパジャマ代わりのジャージまで貸してもらい、快適な一夜を過ごせた。
居間の場所は聞いていないけれど、香ばしいパンの香りに導かれ、辿り着くのは簡単だった。暖簾をくぐると、そこはまるでおしゃれなカフェ。木の温もりと自然な色合いが優しく包み込んでくる。窓際の一席に、彼岸花が一輪、飾られていた。

「おはよう、蒼伊くん」

蒼色ワンプレートに飾られたボリューミィなサンドイッチが目の前を通りすぎていく。カウンター席に舞い降り、オニオンスープが添えられた。

「足りそう?」
「デザートがあると尚良し」
「ハハハッ。はいはい」
彼はカウンター内に戻り、梨を剥きつつ質問は続く。
「当店自慢のパストラミサンドはいかがかな?」
「あ、やっぱりここってカフェなんだ」
「まあね」
「啓大さん店長?」
「まあね」
「可愛いスタッフさんいないの?」
「めでたく就職が決まって先月で辞めたよ。今は私ひとり」
「え、嘘。大変じゃない?」
「どうかな。ありがたいことに程よい忙しさだし、祖父母も二人でやってたし」
「ふうん。祖父母さんってもしや、もう、天国に住んでる?」
「まあね」
「そっか」
そしてカウンター越しに追加されるデザート。
「ところで、君の大学って市役所の近くだったりする?」
「何で知ってるの?」
「試しに聞いただけだよ。ちょうどその近くにデリバリー行くから、乗って行くかなと思って」
「……うん」
「まあ、お届けまでは、まだ時間あるから。ゆっくり食べてって。ちょっと裏の畑でハーブ摘んでくる」

俺は同年代の友達より、年上の人と話す方が気楽でいられる。その理由が、いま分かった。自分の嘘を、見抜いてくれるからだ。
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