あなたの幸福の為なら

エピソード文字数 661文字

 雪が降り続き、止む頃。
 両親への手紙に筆を悩ませていた午後のある日、私のいる図書室へ、同じ年のシスターがやってきた。

「シスター・テレサ。院長がお呼びよ」
「院長が…?」

 突然、なんの呼び出しだろう。
 なにか粗相をして、私が気づいていないのだろうか。私はおそるおそる、院長室の扉をノックした。「どうぞ」と返事が聞こえたので、一礼して中に入る。
「お呼びでしょうか」
 院長の机の前に、ひざまずき、両手を組みあわせて、また一礼した。
「シスター・テレサ」
 院長は、厳しい顔つきで、私を見つめた。

「急な話ですが、あなたには、修道会を、退会していただくことになりました」

 頭の中から、文字が一斉に消えて行くようだった。
 唐突になぜ、そう言われたのか、分からない。

 ――まさか、アルバートさんとのことが…。

 密会を、誰かに見られていたのだろうか。
 そのために、修道院を追い出される…?
 ――それなら、それで…。
 私の中に住む、卑しい悪魔が、場違いに、ほくそ笑んだ。
 ――追い出されるなら、本望よ。
 ああ、なんて……私は小賢しいのかしら。自分が少し、恐ろしくなった。

「お義母様から聞きましたよ。良いお相手だそうですね」
「え…?」

 院長の言葉に、耳を疑った。

「あなたの幸福の為なら、仕方のないこと。私は、あなたを気に入っていたのですが…」
 院長は、上ずった声で、涙ぐむ。

「あの。なんのお話でしょう…?」
「あなたの、御婚約の話ですよ」

 ――婚約?

 一体、だれと?
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