第4話 あの日のあなたに、ありがとう
文字数 506文字
赤ちゃんは、空の上からママを選んで産まれてくるという。この子はきっと、死のうとしている私をママに選んでくれることで、私の命をも救ってくれたのだ。なんて優しい子なんだろう……。
私は、胸の上に乗せられた赤ちゃんのぬくもりを感じながら、暖かい涙を流し続けた。
私はその子を「優実」と名付けた。そして優実は名前の通り、とても心の優しい子に育ってくれた。早いもので、あれから二十年。今年は成人式だ。
慣れない着物とメイクで美しく着飾った優実は、ちょっと緊張した面持ちで、写真館のカメラマンに促され笑顔を作っていた。
幼児の内は産まれる前の記憶がある子もいると聞き、私との例のドライブの一件について聞いてみた事もあった。しかしドライブどころか、産まれた時のことさえまるで覚えていないみたい。でも、それでいいのだと私は思う。
ねえ優実。ママの方こそ、あのとき助けてくれてありがとう。一時の感情に駆られて、バカな事をしないで本当に良かった。おかげでママは今、優実とパパの愛に囲まれて、とっても幸せです。
私は夫と二人、目を細めて振袖姿の優実を見守りながら、届けるあてのないメッセージを、自分の心の中だけに書き留めた。
(了)
私は、胸の上に乗せられた赤ちゃんのぬくもりを感じながら、暖かい涙を流し続けた。
私はその子を「優実」と名付けた。そして優実は名前の通り、とても心の優しい子に育ってくれた。早いもので、あれから二十年。今年は成人式だ。
慣れない着物とメイクで美しく着飾った優実は、ちょっと緊張した面持ちで、写真館のカメラマンに促され笑顔を作っていた。
幼児の内は産まれる前の記憶がある子もいると聞き、私との例のドライブの一件について聞いてみた事もあった。しかしドライブどころか、産まれた時のことさえまるで覚えていないみたい。でも、それでいいのだと私は思う。
ねえ優実。ママの方こそ、あのとき助けてくれてありがとう。一時の感情に駆られて、バカな事をしないで本当に良かった。おかげでママは今、優実とパパの愛に囲まれて、とっても幸せです。
私は夫と二人、目を細めて振袖姿の優実を見守りながら、届けるあてのないメッセージを、自分の心の中だけに書き留めた。
(了)