第1話 発端

文字数 692文字

 昨日も退屈だった。ずっと退屈だった。毎日が退屈で堪らない。
だから、つい、魔が差したとしか言い様のないことをし始めたのだ。

 
 「真央は一人でクラブには行けないよ、行く度胸なんかないよ。」
元カレに言われた言葉が頭から離れていなかったのだ。
そして新聞に掲載されていた記事を見つけた。どんな内容だったかは忘れたが、そこには日系ブラジル人オーナーのクラブが紹介されていた。店の名はMaxだ。所在他も新聞社に問い合わせて調べあげた。私の度胸さえ決まれば行けるはず。それは今夜決行する。

 私はこの地方都市に戻ってから、何をするわけでもなくフラれた勢いのまま毎日をブラブラしていた。数年前に親から離れたくて家から出たくて会社を辞め、長期海外旅行という名目で生温い日々から抜け出したはずなのに、また舞い戻ってきてしまっていた。結局元カレの言う通り、度胸がないと言うことなのだろう。元カレとは旅行先で知り合いそして別れた。どう破錠したのかなんて今は未だ説明するのもわからない。
 ただ、もうメソメソとした気分で退屈な時間をもて余すのは嫌になったのだ。そして新聞記事を見つけた。


 Maxは週末のみの営業で、オープンは21時からだ。歓楽街の入口にあるビルの二階、大音量のせいか音がドアから漏れている。いいのかな私、と思いつつドキドキを抑え、少し心の中で怯えながらドアを開ける。時間が早いのかまだ人はそんなに居なかった。仕方がないのでドア近くのカウンター席に座りジントニックを注文し中を見渡す。
 「暫くしたら、人が増えるよ」
 ジントニックを渡しながら、カウンターの中の人が言った。
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