第3話

文字数 2,804文字

 アパートの駐車場で車から荷物を下ろそうとしていたら、一階に住む住人に来客が。どうやら役所の人間のようだ。
「働けないですかね? 」や「病院を変えてみたらどうです? 」なんて話している。
 はて? と話を聞いていて分かったのだが。どうも生活保護を受けている家庭のようだ。夫人の年齢は五〇前だろうか? 小学生くらいの小さな子供もいる。見た目健康そうなオバサンなのだが、鬱病持ちという理由から生活保護支給を受けているらしかった。
 確かに怪しい。駐車場からすぐ見える位置の部屋である為、たまに見えるのだが明らかに健康そうだ。
 
 生活保護者だらけだな、この街は…… 。
 
 以前、入院した整形外科にも四〇位で生活保護を受けている男がいた。一〇年以上前にバイクで走っていたら、車にぶつけられ大怪我をしたようだ。その後、保険会社の保証が終わってからは、生活保護で生きている。いつも杖をついて不自由そうなのだが、病院の男看護師に聞くと「あの人は普通に動ける」という。
 そして男に聞いた所、毎月一〇万ちょっと貰って毎日オバサンヘルパーが食事を作りに来るとの事。
「働かないの? 」
 と素朴な疑問をぶつけてみた。
「働く気はあるよ」
 ウソつけ。そんな気ねえだろ。
 勿論、彼は独身である。
 
 
 ある知り合いの男は元ヤクザなのだが、覚醒剤で捕まり、この街の刑務所で懲役を受けたのを機会に住み着いてしまった。この男に限らず、暴対法が出来て一般市民に紛れて生活している元ヤクザは多い。法が出来て、ヤクザって事で銀行の口座さえ作れないのだろうから廃業するしかないようだ。
 この男、歳はもう六〇半ば。愛想は良いのだが、何しろ朝から酒ばかり呑んでいた。ヤクザのくせに量は呑めないのだが、チビチビと一日中呑んでいるのだ。「身体壊すぞ」と言っていたのだが、案の定、ある日血を吐きドクターヘリで国立病院に運ばれた。
 シャブ経験者は、ほぼ全員注射器の影響でB型肝炎らしいのだが、それに加え酒の影響で腹水が貯まるといった末期的な病状であった。
 大丈夫かな? 貯金もないだろうし、生命保険に入っている様子もないし。
 
 ところが今、彼は生活保護を受け生きている。よく国民保険も地方税も払っていない人間が生活保護を受けられたな? と聞くと。
 最初、一〇数万は払ったらしいのだが、医者の診断書などを提出したところ、月間一二万五〇〇〇円の支給、と入院治療費免除を手に入れたらしい。そんな事もあるんだな、真面目に払っている人間は馬鹿らしくなる。まあ、永くは生きないだろうってお墨付きかもしれないが。
 
 

 知り合いの夫婦はいつも一緒にいる。だが、正式な結婚はしていない、もう二〇年近く内縁状態だ。子供は嫁さんの連れ子の女の子が一人。この子が小学生の頃から夫婦を知っているのだが、知り合った頃から夜八時以前に帰宅する事はなかった。子供はいつも飯も食わずに家にいた。育児放棄かな? なんて思うのだが「あの子は家でテレビをみたり部屋で遊んでいるから大丈夫」と言う。夜、彼らは何をしていたかというと、パチンコである。ずっと不思議であったのだが、彼女のある一言でピンときた。
「生活保護者ほど贅沢な生活をしてるのよ! 」
 なるほど、定期的に役所に行っていたり、病院に行っていた。女は嘘はうまいが、秘密はいつか喋らないと気がおさまらない。恐らく母子家庭とはいえ、健康であれば働くよう提言があるはずだが、鬱病持ちって事が支給対象の前提にあるんだろう。今の時代、簡単には生活保護の認定は得られないはずだ。勿論であるが、精神的病の様子は彼女には全く無いどころか、普通の女よりずっと雄弁である。まあ、人の精神状態までは見えないし、医者はお客さん歓迎だろうしな。
 
 もう一つには地方特有の賃金の低さもあるだろう。ハローワークなんかでも月給一五万なんてのが平気で掲載されている。いい歳の男が家族を養うには働く前から無理な額である。女性情報誌を見ると旦那の給料が三〇数万の手取りで妻がパートに出て、倹約生活特集に明け暮れているのだが、他所の国の事のようだ。地方創生する前に破綻してるだろ?
 

 実際、かなりの生活保護者がいるようだ。そして彼らの労働意欲を削いでいるのは安易に入る収入である事は間違いない。貰えるものは貰っておいた方がいいっていう気持ちと、働いても大して金にならないという思惑。うまくいけば将来数千万収入のパスポートである。
 しかし、はっきり言って羨ましいと思う人間は同類である。
 生涯、民生員や発覚を恐れ、ビクビクして生きねばならない。結婚すら出来ない。不正受給は三倍返しって話もあるが、彼らは今もそれを恐れて生きている。
 金の重みが無い為、パチンコなどのチープなスリルにはまり込む。ドブに捨てるに等しい。民生員も自宅に行ってもいないのだから、パチンコ屋にでも張っていた方が捕まりやすいと思うのだが。結局、色んなものを犠牲にして生きているつまらない輩なのだ。子供も普通の子には育ちにくいようだ。実際、メンヘラっぽいちょっと変な子だ。子供は親の鏡。厳しく育て過ぎれば臆病な子になり、放任主義が過ぎれば優柔不断な子になる。

  昔から「乞食と坊主は三日やったらやめられない」ってのがある。要は意外と儲かるって事だろうが、坊主と乞食の共通点は人の施しで生きている人たちであって、乞食はお礼を言うが、坊主は威張っているって皮肉も含んでいる。只、もっと深読みすれば、人は人に施す事により良い事をしたという幸福感やお礼を言われると何か嬉しくなるって感情を持つって事。だから理にかなった商売だって事もある。
 頭の良い人と悪い人の決定的な差はケチか否かでもある。頭の良い人は恩を受ければ必ず返そうとするが、馬鹿は何をされても勿体無いと返さない。生活保護を受けている彼女も徹底したケチである。それはシッカリしているというより全ては友達の少なさが物語っている。貧乏人とは経済的理由だけではなく、頭の良し悪しや育ち、精神的な貧乏からくるのは間違いない。
 
 又、例のごとく差別だ何だと批判はあるだろうが、彼らの自立を本気で支援するなら、玄関にでも「生活保護者」のラベルでも貼った方が良い。きっと今の状況から出なければ恥ずかしいって危機感は持つはずだ。もし本当に必要な人であれば、周囲の人間も慈悲の目で接するはず。日本人が本当の弱者を攻撃するとは思えない。元来、人間は何らかの仕事をして凌ぐのが普通であり、精神の有り様など他人からすればどうでもよいこと、だからみんな頑張っているのだ。年金も生活保護も一旦ご破算にして、知ったことか! 勝手に凌げよってのも有りかもしれぬ。甘えるんじゃねえよって。天は自ら助ける人間しか助けないって事実。
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