35.公開処刑場での戦闘

文字数 3,155文字

「ガンダムでアムロのお母さんがさ」
 沖田が頭の後で手を組んだまま、誰ともなしに話をし出した。
「部室のテレビデオでみてたやつ?」
 吉川が応えると、
「見回りに来たパトロールをアムロが撃つんだよ。そうすると、アムロの母親が、
『なんてことするんだい!あの人達だって家族や親もあろうに…』
って言うんだよ」
「『これは戦争なんだよ!母さんは僕が殺されてもいいの!』
ってやつだな」
「戦争がやっかいなのは前戦で殺し合ってない奴らはいくらでも正論が言えるんだよ。その正論は人間としては正しい。けど、実際の戦場ではそんなこと言ってらんないじゃん」
「そうだな」
「どうしたらいいんだよ」
「はっ、俺たちは生き残ることだけ考えようぜ」
 小坂が吐き捨てるように言う。
「それが戦争を助長しているとしても?」
「降りかかる火の粉を払いのけているだけだ。この戦争は俺たちのせいじゃねぇし。むしろ、トラディッチとか言うバカを殺せばおわるんじゃねえの?」
「次のトラディッチがでてくるだけさ」
 吉川が冷たく言い放つ。
「だから早いところエリサちゃん救出して、日本に帰ろうぜ。戦争放棄、非核三原則、平和憲法、PKO最高」
 竹藤の目が笑ったようだった。
 沖田達は、途中、空き部屋に投げ込まれていたそれぞれの装備を取り返して外に出てみると、そこは森の中に見捨てられた廃墟だった。
 三階建ての建物はすでにボロボロで、その地下のみが使われていたらしい。
「どこなんだよ、ここは?」
 周囲を警戒しつつ、木々に囲まれた小道を四人は進んでいった。
 途中、うろ覚えのエメトリア語とロシア語で看板を読んでみると、
「エメトリアだ。国境付近だが、どうやらエメトリア国内にいるぞ」
 同じように周囲を観察していた竹藤が言った。
「果報は寝て待てだな」
「ガスで失神してちゃ、わけないぜ」
 沖田のボケに小坂が突っ込む。
 しばらく森の中の小道を進んでいくと、唐突として視界が開け、道路に面した広い空間に出た。
 噴水を中心とした大きめの広場は公園のようだったが、そこには先の方まで幾つもの柱影が見える。
 すると、柱の一つが呻いた。
 沖田が近づくとまだ若い女性が、血だらけの半裸の身を、太めのワイヤーで柱にくくり付けられている。
 ワイヤーが食い込み破けた皮膚から出た血はすでに赤黒く固まっていた。
 険しい目で沖田が隣の柱を見る。柱にこびりつくようにして固まっている死体から無数の蛆が落ちてきている。
 広場に建てられた見渡す限りの柱に、半死半生のエメトリア人達がくくり付けられ、うめき声と腐敗臭を発していた。
 広場に掲げられた大きめの看板には、
『魔女と関わりのある者達。他の魔女達の場所を知らせれば、その家族は解放する。革命軍議長 トラディッチ大佐』
 と書かれたいた。 
「やろう…」
 沖田が誰とも無く呻いた。
 竹藤もあまりに光景に呆然としていたが、思い出したようにパシャリと重いシャッターを切った。
 沖田が腰からサバイバルナイフを取り出し、背に付いたのこぎりの部分でワイヤーを外しかかる。
「やべぇ、隠れろ!」
 少し先にいた吉川が慌てて引き返してきた。
 四人がそれぞれに木々の間に身を隠してしばらくすると、広場の向こうから人々が行列を作って歩いてきた。
 違和感を感じてよく見てみると、重武装の兵士と、数台の装甲車が周りを囲みつつ、民間人の集団を威圧するように歩かせている。
 小さな子どもから年寄りまで、女性男性を問わず、多くの人達が連行されていた。
 中にはひどく痛めつけられたのか、顔や頭から血を流している者も多いい。一人で歩けず両脇から抱えられ、足を引きずるようにして歩いている人もいる。
「アウシュビッツかよ」
 吉川が舌打ちする。
「魔女狩りか…」
 竹藤が小声でつぶやいた。
 親に連れられて歩く五歳くらいの女の子が暫く進んだところでよろけて転び、列から出てしまった。
 慌てて駆け寄る母親に対して、アサルトライフルを構えた兵士が取り囲んだ。
 泣きながら女の子を守る母親を、兵士の一人がアーミーブーツで蹴り上げた。
「革命とか戦争とか、本当に心の底からうんざりだぜ」
 沖田が吐き捨てるようにして言った時、遠く銃声が響いた。
 母親を蹴り上げた兵士の脳症が側頭部から赤く飛び散った。
 すると次々と銃声が鳴り響き、兵士達に着弾していく。
 高性能なボディーアーマーを着ているのか、革命軍の兵士は胴に弾丸が着弾しても一瞬動きを鈍らせるものの、すぐに行動を開始する。
 混乱した民間人達の悲鳴と怒号。現場は大混乱となった。
 人々は我先へと四方へと一斉に逃げ出していく。
 狙撃場所を特定した革命軍の重武装兵士が、慣れた動きでフォーメーションを組みながら、複数の発砲地点へと近づいていった。
「やべえ、やつらこっちにも来るぞ」
 一部隊がこちらの森へと近づいてくるのを見て吉川が言った。
「仕方ない。やるか」
 やる気満々の沖田が立ち上がろうとするのを吉川と小坂が押さえ込む。
「バカヤロウ。今度こそ戻れなくなるぞ」
 沖田を羽交い締めにして森の奥へと後退しだす。
 市民を守るような形で公園の木々の中から、フードをかぶったレジスタンスとおぼしき集団が、たくみな連携で革命軍に攻撃を開始した。
 よく見るとそのレジスタンスのほとんどが子どものようだった。
 武装している物もいるが、味方の前に片膝をついて座り込み、両手を前方に広げている子どもは無手だった。
 革命軍が的確にその子どもに銃弾を撃ち込む。が、フルメタルジャケットのその銃弾はレズスタン兵の前で急激に勢いを失って地面に次々と落ちていく。
 魔法で銃弾を防いでいる間に、後の物が銃撃で兵を倒すか、魔法で失神させていった。
「やるしかないか」
 いつも冷静な小坂が袴の股立ちを取ると、編み笠を脇差しの柄にくくり付ける。着物の上から革紐をたすき掛けにする動作が一瞬だった。
 白鞘の日本刀をすらりと抜く。水面のように澄んだ刀身が、エメトリアのくすんだ太陽を受けてキラリと光った。と、次の瞬、風を捲いて小坂が革命軍へ突っ込んでいった。
 刀身の光が敵兵の目に入らないよう背中に隠して接近すると、あっという間に四人ほどが血煙をあげて切り倒された。
 気がついた別の兵が発砲するが、すでにそこに小坂の姿は無く、発砲した兵はアサルトライフルごと両腕を切り落とされて倒れ込んだ。
「また、夢に見るな」
 片手を頭にやって天を仰ぐも、吉川がバックパックからライフルを取り出して組み立てる。1分もかからずに組み上げると、その場に片膝を立てて座り込み銃撃を開始する。
 沖田はといえば、たくみに森の中を動き回り、こちらはサイレンサー付きのベレッタで静かに敵兵を倒していった。
 竹藤はそんな様子を、必死でカメラに収めていく。青ざめた顔にねっとりとした汗が浮かぶ。
 援護とはいえ、こちらを警戒するレジスタンスに、小坂の見事な大音声が響いた。
「エメトリア第一皇女のエリサ殿の学友だ!助太刀いたす!!」
 吉川が片眉をあげて、
「なに、はりきってんだあいつ」
 口元だけで少し笑った。
 思わぬ援軍に、エメトリア革命軍の精鋭達も浮き足だった。
 しかし訓練された彼らの体は反射的に、銃で狙い、銃剣を突き込み、ナイフで切りつける。
 しかし、いっこうに小坂の動きを止めることができない。
 するすると水面を歩くようにして接近するとユラユラと体を揺らしながら、刀を二閃、三閃。すると、おもしろいように敵兵が倒れていった。
 森の中に逃げ込んでくる兵士達は、沖田がそれこそ木々の影の様に近づき、ナイフとベレッタで倒していく。
 遮蔽物越しに遠距離からスナイピングを行ってくる的に対しては、吉川が的確に貫通弾を撃ち込んでいった。

To be continued.
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