【ディストーション】自首
文字数 1,291文字
【ご案内】こちらは「ディストーション」に付随するお話です。本編に対し時間軸の設定はございません(本編の前・中・後、どこかで見えた彼らの日常です)
*
綿密に窃盗の計画を練りその通りに進んでいたのに。いざ行方をくらまそうとした瞬間、偶然近くに居合わせたガーディアンに見つかり俺はいま必死に逃走中。ついてない。だがそれごときで諦める俺じゃない。何を隠そう俺は兎の獣人で、自慢の脚力と聴力を最大限に活かし逃げ切る自信がある。絶対に逃げ切って、この苦しい生活から這い出してみせる。
敵は二人組で、どうやらうち一人は聴力と視覚に優れた獣人のようだ。であれば足音も姿も感知できぬよう撹乱してやればいい。そう思って入り組んだ工場地帯に逃げ込んだ。ある程度の距離を置いたところで物陰に身を潜め様子をうかがうことに。近くまで追跡して来ているようだが、やはり工場特有の騒音に阻害されこちらの居場所特定に難航している模様。息を殺して、ただひたすらに全ての成功を願った。
索敵のために耳を澄ますと二人の会話が聞こえてきた。
「ダメですね、犯人の呼吸音も足音もかき消されちゃってます。近くにはいるはずなんですが」
「了解。近くにいることがわかっただけでも十分だ。ちなみにライ、耳大丈夫か?」
「どういう意味です?」
「ほら、これだけ騒がしい場所だろ。その精度のいい耳にはこたえるんじゃないかと思って」
「ある程度調整効くので問題ないですが、それはつまり自分の聴力および獣能力が使い物にならなくなったら今後捜査の支障になることを危惧してます?」
「いやなんでそうなるかな。純粋に耳の心配しただけだよ」
「耳の?自分のではなく?」
「……随分と揚げ足取りモードだな」
「論点逸らしましたね」
「……ごめん、俺何か悪いことした?」
「悪いこと、ですって?先輩って予想通り鈍感なんですね」
「若干、いや大いに聞き捨てならないがそこまで言うなら詳しく聞いてやるよ。俺の何が気に障るわけ?」
「先輩、今日は何の日ですか?」
「何の日?ああ、そうだな、今日は……月曜の日?」
「そうですけど違います。今日は待ちに待ったお給料日です」
「言われてみれば。……それが?」
「ああもうやっぱり忘れてるー!約束したじゃないですか、次のお給料日にホットチョコレート五杯分奢ってくれるって! 」
「覚えてるよ、この前のライの大手柄を称えてお祝いするって約束だろ?」
「ええええええ?覚えてるなら何で言ってくれないんですかー!」
「いや、ライのタイミングで飲みたいだろうなと思って。それと、今日は残業がないように調整しろって言っただろ」
「それとこれとはどんな関係が?」
「ライの好きなもの食べに行くぞ。もちろん俺の奢りで」
「え……?」
「おいおい、ライのあの努力と功績がホットチョコ五杯と釣り合うと思うか?まあイヤなら無理にとは言わないけど」
「全然イヤじゃないですむしろ大歓迎です宇宙一のご褒美です謹んでご一緒させていただきます!!」
「ハハハッ。大袈裟」
ああ、自首しよう。俺はその会話を聞いて腹が決まった。あの二人なら、悪を悪と決めつけずに俺の話を聞いてくれる気がする。確かにそう思えた。
*
綿密に窃盗の計画を練りその通りに進んでいたのに。いざ行方をくらまそうとした瞬間、偶然近くに居合わせたガーディアンに見つかり俺はいま必死に逃走中。ついてない。だがそれごときで諦める俺じゃない。何を隠そう俺は兎の獣人で、自慢の脚力と聴力を最大限に活かし逃げ切る自信がある。絶対に逃げ切って、この苦しい生活から這い出してみせる。
敵は二人組で、どうやらうち一人は聴力と視覚に優れた獣人のようだ。であれば足音も姿も感知できぬよう撹乱してやればいい。そう思って入り組んだ工場地帯に逃げ込んだ。ある程度の距離を置いたところで物陰に身を潜め様子をうかがうことに。近くまで追跡して来ているようだが、やはり工場特有の騒音に阻害されこちらの居場所特定に難航している模様。息を殺して、ただひたすらに全ての成功を願った。
索敵のために耳を澄ますと二人の会話が聞こえてきた。
「ダメですね、犯人の呼吸音も足音もかき消されちゃってます。近くにはいるはずなんですが」
「了解。近くにいることがわかっただけでも十分だ。ちなみにライ、耳大丈夫か?」
「どういう意味です?」
「ほら、これだけ騒がしい場所だろ。その精度のいい耳にはこたえるんじゃないかと思って」
「ある程度調整効くので問題ないですが、それはつまり自分の聴力および獣能力が使い物にならなくなったら今後捜査の支障になることを危惧してます?」
「いやなんでそうなるかな。純粋に耳の心配しただけだよ」
「耳の?自分のではなく?」
「……随分と揚げ足取りモードだな」
「論点逸らしましたね」
「……ごめん、俺何か悪いことした?」
「悪いこと、ですって?先輩って予想通り鈍感なんですね」
「若干、いや大いに聞き捨てならないがそこまで言うなら詳しく聞いてやるよ。俺の何が気に障るわけ?」
「先輩、今日は何の日ですか?」
「何の日?ああ、そうだな、今日は……月曜の日?」
「そうですけど違います。今日は待ちに待ったお給料日です」
「言われてみれば。……それが?」
「ああもうやっぱり忘れてるー!約束したじゃないですか、次のお給料日にホットチョコレート五杯分奢ってくれるって! 」
「覚えてるよ、この前のライの大手柄を称えてお祝いするって約束だろ?」
「ええええええ?覚えてるなら何で言ってくれないんですかー!」
「いや、ライのタイミングで飲みたいだろうなと思って。それと、今日は残業がないように調整しろって言っただろ」
「それとこれとはどんな関係が?」
「ライの好きなもの食べに行くぞ。もちろん俺の奢りで」
「え……?」
「おいおい、ライのあの努力と功績がホットチョコ五杯と釣り合うと思うか?まあイヤなら無理にとは言わないけど」
「全然イヤじゃないですむしろ大歓迎です宇宙一のご褒美です謹んでご一緒させていただきます!!」
「ハハハッ。大袈裟」
ああ、自首しよう。俺はその会話を聞いて腹が決まった。あの二人なら、悪を悪と決めつけずに俺の話を聞いてくれる気がする。確かにそう思えた。