勇者が魔王様討伐の旅に出たようです
文字数 1,862文字
(あー、暇だなあ……)
おいセバスチャン、何か変わったことはないか?
あ、そういえば……。
いや、わざわざ陛下のお耳に入れるほどのことでは……。
それでは申し上げます。勇者が旅に出たとのことです。
左様にございます。
なんでも、その……陛下を討伐すると息巻いているとか。
まことに傲岸不遜、無礼千万……。
ふん……面白い。
どこまで出来るか、見てみようではないか。
さすが陛下!
その大きなお心、正に王者の余裕。ご立派にございます。
ああ、勇者ですか。これが口ほどにもない弱っちいヤツでして。
出発地の村のそばのトロールが返り討ちにしたそうです。
い、いや。うむ、そうだな……。
トロールで一捻りにするのはもったいなかろう。トロールは撤収。いいな。
じわじわとなぶり殺しにしてやった方が楽しめるというもの。
村の周りはスライムで固めるように。
さすが陛下! 私めの想像をはるかに超える残忍な方法、勇者も恐ろしさに震え上がることでしょう。
さっそくそのように手配いたします。
セバスチャン、あれどうなった、あれ。あの……勇者とやらは。
ああ、勇者ですな。
これがとんだ間抜けなヤツで、地下迷宮の奥深くで迷子になって出られなくなっているそうです。
あーそういえば、セバスチャン。
あの地下迷宮は視察の時も迷いやすくて困っていた。矢印を書いた看板を設置して道を分かりやすくしておくように。
矢印を書いた看板、ですか……。
至急手配いたしましょう。
ああ、あと行き止まりには、強い装備を入れた宝箱を置いておくこと。
何の変哲も無いただの行き止まりでは殺風景だからな。
さすが陛下。
その美的センスと遊び心を両立した演出、敬服する以外にございません。
かしこまりました。
いえ、陛下のお好きな壺が大安売りになっていたので……。
壺か……まあ壺も好きだが……。
それより、あれだ。勇者のやつはどうなった?
それについては、ご心配には及びません。
先日、四天王のところに現れたものの、見事撃退したとの報告がありました。
四天王の中でも最強と謳われる鋼鉄魔人ゴリマッチョが相手をしてワンパンだったそうです。
い、いや。ゴリマッチョには褒美をとらせなくてはいかんな。そうだな……奴には遠方のリゾート地を与えよう。
後任は、カエル魔人ゲロゲーロで。
し、しかし陛下! ゲロゲーロは四天王の中でも最弱ですぞ……!?
分かっておらぬな。最弱だからこそ、経験を積ませてやることが必要であろう。
失礼いたしました! 陛下のご慧眼、まことに恐れ入りました。
早速仰せのとおりにいたします。
ゆ、勇者が……勇者が魔王城に攻め込んで参りました!!
すでに城門を突破し、大広間まであと少しのところまで迫っているとのことです。
分かった。セバスチャン、お前は下がってよい。
城の皆を引き連れて、逃げるのだ。
へ、陛下……。
私はどこまでも陛下にお供いたします!!
セバスチャン、お前には感謝している。
我には魔界の王としてやらねばならぬことがある。
一番大事なのは配下の魔物達の生命だ。皆のこと……頼んだぞ。
陛下……!!
素晴らしい王を持って、我等は本当に幸せです。
陛下のお慈悲の心、決して無駄にはいたしません。
陛下、なにとぞ……なにとぞ、ご武運を。
いやー、ついに待ちに待ったこの日が!
ほんと、待ちくたびれて死ぬかと思った。
髪型とか服とか整えておかなくちゃ。
大丈夫かな、乱れてないかな。
お茶とか淹れた方がいいかな……長旅だし、疲れてるよね。
たしか貰い物のお菓子があったような……。
あ、でもその前にセリフ、練習しとかなくちゃ。
ちゃんと噛まないようにしないと。
あーもう、めっちゃドキドキするぅ!
フハハハハハハ! よく来たな、勇者よ! ここまでたどり着くとは、褒めて使わすぞ!!
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