第230話 痴話喧嘩ほど、恥ずかしいものはない

文字数 1,678文字


「初めて、初めてって。別に私のあとで、センパイとマリンワールドに来ればいいじゃない!? どうしてそこまでこだわるのよ? だからって私とセンパイのデート……取材の邪魔する理由になってない!」
「タッくんの初めてはアンナが絶対なの! 今まで映画も遊園地もプールも温泉も花火大会も……全部、ぜ~んぶ! 初めてはアンナだもん! ひなたちゃんこそ、二番目にしてよ! 抜けがしてラブホに連れ込んだりしてぇ!」

 こんな低レベルの口喧嘩をかれこれ、30分近くも大声でやりあっているんです。
 しかも、入口の近くの売店で。
 たくさんのお客様が見世物のように集まり出しちゃって。
 もうね、公開処刑ですよ。俺は。

「ら、ラブホの件は……あれは仕方なくヤッちゃっだけよ! ていうか、なんでアンナちゃんがあの事を知っているのよ!?」
 なんかさ、二人してラブホの話題でも盛り上がってるけど、知らない人が聞くと、俺とひなたが関係持っちゃったカップルとして勘違いしちゃうよ。
「あのあと、タッくんから聞いたもん! だから、アンナも次の日連れて行ってもらったよ? スイートルームで可愛いハートのジャグジーで、タッくんと仲良く入ったもんね!」
 もう、やめてぇ!
 俺、どんだけヤリまくってる男なのよ?
 まだ童貞だよ……。

 人だかりが出来て、俺達を囲み、二人のケンカを見守る。

「おいおい、あのオタクっぽい奴があんな可愛い二人と……うらやま!」
「三角関係? 肉体関係? どっちにしてもあの野郎、マジ最高じゃんか!」
「女の敵ね。あんなに二人を困らせて、去勢するべきよ。ヤリ●ン野郎は」

 ほらぁ! 誤解されてるじゃんか!

 俺は一人、頭を抱え、もがいてはいるが、二人の口は止まらない。

「ハァ? そんなの聞いてない! ジャグジーで経験したの? なんてハレンチなの!」
「ひなたちゃんの方がエッチだよ。タオルだけで身体を隠してタッくんに馬乗りなんてさ」
「あれは……中に下着をちゃんと着てたし……アンナちゃんの方こそ、裸になってジャグジーでセンパイを誘惑したんでしょ?」
「し、してないもん! アンナはタッくんが決めたスク水を着てたし……」
 ぎゃあああ!
 もう穴があったら入りたい!

 ざわつく水族館。
 スタッフや警備員まで出てきた。
「君たち! 小さなお子さんもいるんだ! 痴話げんかなら外でやってくれないか!」
 青い制服を着た中年に注意されるが、二人は逆ギレする。

「「邪魔しないで! ハゲのおじさん!」」
 こういう時は息がピッタリ。
「うっ……」
 ハゲで落ち込むおじ様。

「私の方がセンパイと付き合い長いし! だって入学して間もない頃からの仲よ?」
「あ、アンナだって! ミーシャちゃんに紹介されて、初めてのデートしたもん!」
 いや、お前は入学式に出会っただろ。ミハイルとして。
「ふん! 出会いは私の方が先みたいね!」
「で、でも、アンナはタッくんの好みに合わせられるもん! ニンニクだってラーメンに入れられるし、タッくんの好みのコスプレだって出来るよ。メイドさんもスク水も……タッくんが望むなら、なんでもやれる自信がある!」

「ぐはっ……」
 なんだろ、どんどんHPが削られていく。

 一向におさまらない騒ぎを聞きつけたのか、一人の女性が仲裁に入ってきた。

「お~い、お前ら……な~にを公共の場で、『ヤッただヤラないだ』『掘った掘られた』卑猥な言葉で人様のお耳を汚してんだ? コノヤロー!」

 俺達の前に現れたのは、超のつくどビッチ。
 ウエスタンブーツ、股に食い込むぐらいローライズのデニムのショーパン、そしてプルプルと左右に揺れる巨乳を支えるのは、アメリカ合衆国の国旗が描かれた派手な水着。
 頭には、カウボーイハット。

「小便臭いガキ共がイチャつくのは、10年早いんだよ、コノヤロー! 新宮。お前、この前の単位全部はく奪するぞ!」
 そう言って俺の胸ぐらを掴む女。
 僕の担任教師、宗像 蘭さんです。
「いや、それは……」
「うるせぇ! お前ら、覚悟はいいな? 全員ついてこい!」
 完全に脅しだが、誰も抵抗する勇気はなかった。

「「「はい……」」」
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