如月真琴

文字数 4,547文字

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他の人はだめですよ!

えっ、ライス小並一杯と同じ値段でステーキを!?
その日、夕食の下見にと思ってランチタイムにぶらぶらしていた私は思わず二度見した。

とある能力を手にしてから大小様々、色んな怪奇現象を目の当たりにしてきた私でも二度見した。


ごめん、三度見してた。

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『今日だけ! ライス小並一杯とステーキが同じ値段で食べられる!』

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(待て……考えるんだ私。ライス小並一杯の値段はいくらだ?

 こっちが異常に高いだけかもしれないじゃないか。小並一杯に500円要求する法外店舗の可能性もあるぞ。……しかし、ステーキの肉が大量に余って、安く提供できるからこんなサービスが始まったのでは?

 理由なくして奇怪現象は起こらず。何の理由もなくこんな異常……ううん、気になりすぎる)

普通の人ならソッコーで入店を決めることだろう。

目立つ場所にある店舗なら長蛇の列は覚悟だが、幸いランチタイムの終わり時だからなのか、ちょっと人気のない場所にある所為なのか、入ったときに名前だけ書かされて待たされる心配も無さそうだ。


しかし、私には自分ルールがあるのだ。夕食の時だけ外食にする、というルールが。

じゃあ夜に訪れればいい?

――ああ、なんということ! ランチタイムで営業を終了してしまう!

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…………。お腹空いたなぁ。
惣菜や弁当の入ったビニール袋を片手に提げていれば諦めの決心も容易だったかもしれないが、まだ買い物は済ませていない。


――ああ、これは、運命なのだ。

怪奇現象が呼んでいる。……私の能力で引き起こされた、悲しき現象――!!

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――ピロリロリロリロ。

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いらっしゃいませー! 一名様ですか?
店員さん、すみません。

表の張り紙を見たんですけど――

ああ、それですね。

ステーキを三食頼むと一食あたり、ライス小並一杯分の値段になるキャンペーン中です♪

解散。
期待して入った私が馬鹿だった。二食はともかく、三食って……。

まぁそれでも家族層にとってはお得なんだろうが……うん、賑わってない理由が付いた。


さて、一度入ってしまった手前、回れ右をしてしまうのは失礼かなぁー。

――なんて考えていると、同じく入り口で(たむろ)している高校生らしき男の子が居た。

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くそぅ……こんな嘘の叶いかたなんて……くそっ……くそっ……!

ライス小並一杯のお金しか持ってきてねぇよ……!!

(私と同じレベルの馬鹿が居た……)
まぁ、私は良い年した大人なのでステーキ三食分のお金は持ってますけどぉ?

――お金がたくさんあることと、自由に使えることは別なのだ。

とはいえ、年頃の高校生だ。

バイトしてなければ使えるお金は限られているが、少額でステーキが食べたかったのだろう。

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…………ざまぁ。
え?
いけねっ、心の声が。
――まぁせっかくだ。

財布を開き、ステーキ三食分の余裕があるかどうか確認する。

……あまり無いかも。夜食をパンに変えれば何とかなるか。

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もしもし、そこの高校生よ。

今、あなたの脳内に直接語りかけています……。

こいつ……さっきから俺の脳内に直接……!?
お客様ぁ?(怒)
◇ ◇ ◇

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ややあって、私は行きずりの男の子と会食することになった。

――なんて書くと留置場まっしぐらだが、疚しいつもりは一切無い。


私はずっと気になっていたのだ。

『嘘が叶った』とは、何か。

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それでは、ご注文をお伺いします♪
ステーキの150gをみっつください。
みっ……!? いえ、失礼しました。

ご飯などお付けいたしましょうか?

(結局ライス小並一杯付けたらステーキと同額ちゃうやん……)


結構です。

それでは、少々お待ちください♪
いや、本当、助かったッス……!

なんて感謝したらいいものか……!

あー、いいのいいの。気にしないで。

ただの奇妙な縁の巡り合わせってやつだから。

え? ……あ、はい。ありがとうございますッス。

それにしても酷いですよね、この店。

ステーキ三食も食べさせようとするなんて。


……しかもそれを店の前に書かないんですよ。騙されますって!

そうだねぇ……恣意的なものを感じるねぇ……。
恣意的……?
例えば、誰かが『ライス小並一杯でステーキが食べられる店がある』って吹聴したとか、ね。
…………!!
じ、実はそうなんですよ!!

昨日、僕がクラスメイトに「安いファミレス無い?」って聞かれたから、

そのときでっちあげちゃったんです!


それが……まさか、こんなことになるなんて。

……ああ、こんな落とし穴があったなんて聞いてないですよぉ……。

軽い気持ちで考えた推理だったが、まさか一発正解とは話が早い。

まぁ怪奇現象の一つだ、彼自身に能力があるとは考えにくい。


何かの気まぐれで少年の虚構が事実になってしまっただけなのだ。

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それは何とまぁ、興味深い話だネ。

もっと聞かせてくれないかな? ステーキおごるからさ。

ほ、本当ですか!? ありがとうございますッス!!



――それは本当に、つい最近の話なんですけど。

彼の名前は大神羊一。近所の高校に通う男子高校生だ。

もうすぐ受験が控えているため、今日は半ドンで昼食を探していたという。


彼にはひどい悪癖があった。それは笑顔で嘘を吐いてしまうことだ。

当然誰にも信用されなくなり、自嘲気味にぼっちだと笑った。

――しかし、これが数日前から奇妙な怪奇現象へと変貌を遂げた。

どうやら、吐いた嘘が真実になってしまう。そんな能力が身についたらしい。

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成る程ね。……たとえば、最近はどういう嘘をついたの?
近所の山に隕石が降るとか、町中に魔法少女が現れたとか――。

前者は最近ニュースになったので知ってますよね?

魔法少女の目撃情報も本当に出てきたんです。ただのでっちあげだったのに……!

(間違いない、全部私の能力だ……!!)
――とすれば、彼自身が私の能力によって生み出された怪奇現象の一つで間違いないだろう。

そう考えるとこの日、この場所で彼と巡り合ったこともただの偶然では無い。



――ああ、楽しくなってきた。

やっぱり"この能力"を手に入れてから、毎日が退屈しない。ネタ三昧だ。

……事実は小説より奇なり。

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ねぇねぇ、ステーキまだかな?
え? もう来ますよ。
お待たせしました。ステーキ150gを三食でお待ちのお客様~?
何でちょっぴり嫌味っぽいのさ。
軽くツッコむと会釈をしながら、バイトと思わしき店員はステーキを並べていく。

――しかし、どうやら彼の能力は間違いない。さっき立証されたのだ。

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あ、必ず本当になるわけじゃないですし、

今日みたいに変な叶い方もあるので、一概に便利とは言い切れませんね。

はいはい、どうせウチは変な店ですよ~~~だ。
…………ちょっと店長呼んでこい。

バイトにどういう教育させてんだ。

――店長は私ですよ?
…………。
慌てて店内を見回す。――私達以外に、お客なんて居なかった。

やけに空いた店、やけに気の利かない張り紙、変な店員、何より、聞き慣れない店名。



そうか、ここも……。

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……ごめんなさい。食べたらすぐ帰りますので。
ごゆっくりどうぞ~♪
◇ ◇ ◇

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……ところで、このステーキ三食、どうするんですか?

僕、少食なんで二つは難しそうッスけど。

私、こう見えて大食いだからね。少食でもイケるけど。

――まぁ、その気になれば三食だろうと胃袋に収めてやんよ。

だから安心して、育ち盛りの少年クンは食べたいだけ食べなさい。

大神羊一ッス。

……そういえば、お姉さんの名前聞いてなかったッスね。

雪見大往生。
か、かっけー……っていうか本名ッスか?
ペンネームだよ。

本名はあるけど、片方知られたらもう片方は伏せる決まりなの。

……っていうかやべ、ペンネーム名乗ったら身バレするじゃん。

やっちまいましたね……気にしないッスよ。すぐ忘れます。

――ペンネームっていうことは、小説家なんですか?

そう……かな。そうかも。シナリオライターやってるんだ。

色んなネタを仕込まないといけないから簡単じゃないけど、楽しいよ。

…………小説家、ッスか。
んー?
それ以降、彼は何かを考え込むように口数が少なくなってしまった。

ステーキが冷めてしまう前に、倍の早さで食事を掻き込んだ。



――150gという少なさもあってか、意外とあっさり食事は終わってしまった。

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◇ ◇ ◇

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――お会計は1500円になります♪
ライス小並一杯500円じゃねぇか……! 二度と来るかァ……!!
またのお越しをお待ちしてます♪
◇ ◇ ◇

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そして帰り道――駅前まで一緒に歩いて、そこで解散にしよう、ということになった。

場所はどこだっていい。ちょっと話して、キリ良く帰りたかったのだ。


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今日は、ごちそうさまでしたッス……!!

まさか本当に奢ってくれるとは思わなかったので、感謝しかありません!

あー、いいのいいの。ほんと全然気にしなくていいって。

面白い話も聞けたし、これがシナリオのネタになるんだから取材だと思ってよ。

…………。あの、大往生さん。
雪見さんにしてくれないかな? 字面的に。
……雪見さん。実はオレ、ずっと嘘をついてました。
――君の場合、ずっと嘘だと思ってたんだけど、まだ嘘があったの?
――ああそうか。確かに彼は嘘つきだが、私に対しても嘘をついていた……とは考えもしなかった。

真面目な好青年っぽい見た目もあっただろう。まんまと引っ掛けられていた部分もあったのだ。


――まさに、私が考えているより、よっぽど事態は複雑怪奇。

だからこそ、楽しい。面白いのだけれど。

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実は――今までの話、全部でっちあげなんです。

だから最初の推理も全部……大外れなんです。

…………ああ、そういう考え方もあるねぇ。

君の話全部、後出しだったもんね。


――だからどうしたっていうんだい? ステーキのお金、返してくれるの?

全然いいよ。気にしてないって。

昨日、友達と話したんです。

『小説家のお姉さんに明日の昼食を奢ってもらう』って――。
…………そう。
その話が真実かどうか、どうして今になって話そう思ったのか。

青年の真意は全く分からず――浮かない顔で返答せざるを得なかった。



――君の役目は、もうすぐ終わる。

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◇ ◇ ◇

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――それじゃあ、ここでお別れだね。羊一クン。

何度も言うけど、全然気にしなくて大丈夫だから。良い話聞けたよ。

あの……何から何まで、ありがとうございますッス!

オレ、やっと自分の能力に自信持てたんです。

偶然や奇跡なんかじゃない、嘘みたいな話が事実に変わったんです!

――やっぱりオレには、嘘を叶える力があったって、分かったんです!

そうか! それは実に素晴らしいことだ!

その力を使って楽しいことが起きるといいね。



――君の命は長くないんだ。

残り少ない命を、悔いないように過ごすがいい。

え? 何か言ったッスか?
うんにゃ、じゃあね。バイバイ。
踵を返し、駅のホームを後にする。

振り返ると、青年はその場に立ち尽くしていた。



――どうやら、私が作り出した怪奇現象は長く持たないらしい。

あの店が『本日限り』と書いていたように、明日になれば二度と会うことは無いだろう。

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怪奇現象は……私を楽しませるためだけに存在する。

それ以上あっても世間を狂わせるだけだし、合理的というものだ。


――ひょっとしたら、消えないかもしれない。

事実は小説より奇ならば、もう一度相見えることもあるかもしれない。

それは、今は、どうだっていい。

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――楽しい1日をありがとう。羊一クン。
おしまい。

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そこまでー!

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登場人物紹介

「本日はお日柄も良く、絶好の執筆日和と――」



好奇心から来る怪奇現象

○雪見 大往生(ゆきみ だいおうじょう)

性別:女




同人ADVサークル『病みつきアイスクリーム』のシナリオ担当。

フリーランス、シナリオライター。

笑いと恐怖を得意とする芸風から、「コミカルホラー作家」と呼ばれることが多い。

経歴から性別まで全く公表していないが、文体から知的な男性というイメージが定着しているとか。

仲間内からして『正体が掴めない奴』と言われる、謎多き女性作家。

成人済にも拘わらず小柄な体型が愛嬌でありコンプレックスでもある。



大人数に混ざることが苦手なので、単独行動を好む。

ひとりのときはよく笑い、泣き、誰にともなく怒り、よく食べてよく寝る。

一日に三冊の読書を欠かさず行い、休日には映画鑑賞と事務作業を並行して行う。

睡眠時間、起床時間ともに一分のズレも許さず、規則正しい生活を徹底している。

――そんな几帳面な変人だったので、当然作品も変態性を極めていた。



晴れたら散歩に出かけよう。雨が降ったら音楽を聴こう。

規則正しい生活に飽きてきた彼女は、一転してランダムを求めた。

はじめに引っ越しを行い、朝食を自炊、昼食を買い物、夕食を外食と定めた。

小説の代わりに雑誌を読み漁り、映画の代わりに落語を聞くことにした。

――やがて彼女は、何をやっても満足しないことに気付きはじめる。



月曜、魔法陣を描き。

火曜、神社へ。

水曜、飛行機に乗って海外へ。

木曜、ミステリーサークルを写真に収め。

金曜、帰国。そのまま爆睡。

土曜、サークル仲間と一緒に創作談義。

日曜、一日中グーグルを走らせ、満たされぬ知識欲を満たす。



次の月曜――――魔法陣は白く輝き、全ての願いが大成された。

彼女はただの作家であることを辞め、魔人作家へとジョブチェンジしたのだった。

もう二度と退屈しない日々が、彼女の前に現れる――。

全ては素晴らしき次作の為に。




能力名:"事実は小説より奇なりや?"

身の回りで『面白いこと』が次々と起こる能力。

彼女が望んだ能力の、最も正しく不規則な発症。

三軒向かいの末っ子が魔法少女になったり、近所の家が秘密組織のアジトに選ばれたりする。

自分自身を変化させることなく、身近な世界の色んな出来事が活発になる変わった力。


彼女自身の観測が無ければ意味が無いので、遠い場所まで変化させることは無い。

基本的に1日1事件ぐらいのペースで何かが起こるが、それ以上の何かが起こらないとも限らない。

この能力を動かしているのは彼女ではなく、尽きぬ好奇心なのだから。

どんな怪作にも負けない、世にも奇妙な不可思議をここに。



戦う動機:次作のネタ探し。





イラスト:らぬきの立ち絵保管庫

作者:如月真琴

「それは、本当に嘘かな?信じられないだけじゃなくて?」

名前:大神 羊一

性別:男

年齢:18

能力:虚実混淆(きょじつこんこう)

嘘を半分の確率で真実にする能力

例えば「そこに落とし穴がある」と言えば落とし穴ができる…かもしれない。

運が良ければ物凄く強いし、運が悪ければなにもできない能力。

制限として、同じ嘘を同じ場所で付くことができない。

また、その嘘が実現するときに相手の意識(視界)の外から発生すること(相手の視界内に百万円が落ちてると言っても実現しない)。この時、自分の意識(視界)は考慮しない。

また、影響を及ぼそうとしている相手に聞こえること(自分以外の一人に聞こえればよい)。ただし、周りに人がおらず聞く人がいない場合は呟くだけでいい。

更に、嘘を相手が認識すればよいので紙に書いた嘘を相手に見せて読んだ時点でも判定が行われる。

嘘が実現したかは何となく分かる。


設定:子供の頃から嘘を吐いていて誰にも信用されなくなった自業自得ボッチ。

それでも嘘を吐くことをやめず、開き直って笑顔で嘘を振り撒くようになった結果、こんな能力を手に入れた。

羊一自身は嘘の信憑性が高まったと喜んでいる。

一応、真面目な時に嘘を吐くことはないが、そんなことは周りが信じていないため意味がない。

常にニコニコ、よっぽどの事がない限り人好きのする笑顔を忘れることはない。

地味にメンタルオバケ。

ふざけているようで真面目、真面目なようでふざけてるようなやつ。

なお、演技力だけは異常に高いため、将来は嘘と演技力を行かして営業にでも行ってみたいと思っている。


作者:さんま定食

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