第十話
文字数 1,003文字
しかし、休憩時間から狙われていたのだ。
質疑応答後に、間があった。そして連絡事項の前に、恵三郎がゆっくりと注意する。
「会員の皆様、規則は守りましょう」
規則があること自体を、俺は知らなかった。
「夢太郎くん、お聞きしたいことがあります」
「はい」
「えーとっ。ここはー、恋愛禁止です」
その途端、奥の方からヤジが飛んだ。
「女作って、滅茶苦茶にしやがって!」
青木という多浪生。あまり面識はないが、最近入会した奴だ。坊主頭で、背が高い。だが、ヒョロヒョロだ。金縁の眼鏡を掛けている。
「ここは、大学のサークルじゃない。それにさー。親に申し訳ないと、思わないのか?」
孝四郎さんも怒っている。
「すいません」
「いやいや『すいません』じゃなくて……」
恵三郎が突っ込んだ。
「お前、やる気はあるのか?」
「はい。あります」
「嘘つけー。あっちの『ヤル気』だろー」
大爆笑になる。
「違います。もう、やめてください」
「なあ。小学生のアソコでイッタとき、どうだった?」
「しつこい!」
「反省点を、教えてください」
「ありません」
「え? 無いの?」
恵三郎は、せせら笑いを浮かべた。嫌味は続く。
「散々奢ってやったのになー」
「別の話ですよ」
「生意気だぞ!」
恵三郎は、顔が真っ赤だった。
「これから受験する覚悟は、あるのか!」
何故か、青木もブチ切れている。
「あるから」
「じゃあ、なんで女を引っ掛ける?」
「関係ないし」
恵三郎が、張り裂けるような大声を出した。
「話にならんわ!」
「もう、やめよう」
八郎さんだった。
「まだ、終わっていませんから」
恵三郎はオドオドしたが、八郎さんは続ける。
「お前ら、羨ましいだけだろ! 童貞で、女に免疫ないからな」
その後には、忘年会が予定されている。しかし、俺は八郎さんからバーに誘われた。
入店後から沈黙になる。非常に気まずい。俺は何度も、ジントニックを注文した。八郎さんはモスコミュールを片手に、カウンターを見上げている。あまり飲んでいない。帰ろうとすると、慰めてくれた。
「気にするな。ただ、来年度までは来ないでくれ」
店を出ると、雪は雨になっていた。折り畳み傘を取り出し、自転車で自宅に向かう。
転んでしまった。右腕を骨折する。