第33話「乙女の風上にもおけない奴が何言ってんだ」

文字数 3,188文字

~前回までのあらすじ~

敵から情報を聞き出し、遺跡攻略の目処が立った一行。

しかし途中で師匠が帰ると言い出し、止めることが出来ず帰ってしまった。

なぜ帰ってしまったのか、師匠の思惑とは。

えぇ……っと……
……
……
……
どっから説明しよっかな……
……まず、師匠さんは怒ってるのか?
怒ってへん! 怒ってへんよ。全然怒ってへん。……はず
じゃあ、MPがどうとか言ってたけど、アレは一体?
アレはな……要するに師匠は、ウチに成長してほしいんや
成長……師匠さんの力を借りずに自力で何とかしろって意味で?
そういうことやな
言っちゃ悪いけど、それって師匠さんが身勝手じゃないか?

こっちはこれから、死ぬかもしれない危険に挑もうとしてるんだぜ

それはある
どういう意図があるかは知らないけど、

その状況で「お前に成長してほしいから帰る」って悠長すぎやしないか

悠長やな
……じゃあなんで帰らせたんだ?
ウチは……師匠はもう、報酬に見合うだけの仕事をしてもうたと思う
もう仕事をした?
師匠が言うとったん聞いたと思うけどな。「30分で到着」

「敵2匹の確保」「敵を強制屈服させる」「敵から情報を引き出す」

こんだけやっとるワケや

そりゃ、すごいとは思うけど
特に敵を無力化してからの情報引き出し。これはデカいよ。

そのおかげで敵の数、敵全員の情報、遺跡の間取りなんかの情報が

ノーリスクで膨大に手に入ってんからさ

2時間の間、そんなにいろいろ聞き出してたのか
っていうかさ、聞き出してる時2人はなにしてたん?
見張りをしてたと言いたいけど、3割くらい寝てたかも
緊張感ゼロやんけ。お前が帰れって感じやわ
冗談だよ
果敢にボケてくれるのは嬉しいけど、今はそのタイミングちゃうわ。

……せやからな、情報を引き出せたのは師匠のおかげ。それに……

それに?
敵2匹を戦闘ナシで捕まえれたんは、これもデカい。

普通に戦ったら手強かったと思うで。余裕で勝ったとは思うけど

そうか?
そうやろ。あの2匹を捕まえるために師匠が何やったか分かってる?
何って……
まず、えげつない量の魔力を飛ばして周辺一帯を捜索。

他の魔力とぶつかったら、生物がおる事と、その場所が分かる。

これはアホみたいに魔力を使う

コウモリの超音波みたいだな……そんなに魔力を使うのか?
めっちゃ使う。その範囲が広ければ広いほど使う。

んで敵を見つけたら、今度は超高速でこっちに引き寄せたやろ

うん
アレもすごいレベル高いよ。

魔力って本来「認識できる範囲」までしか飛ばされへんねんけど、

じゃあどうやって地下の敵を判別して、かつ引き寄せたんやって話

……アレって、そんなに異常なのか? 俺の魔法レベルが低いだけかと
異常やろ。ずっと前にどうやってるんやって聞いたら、

「空中に一時的な目を作って、それを通して認識できる範囲を増やす」

とか言うとったわ

?? ……その目からどうやって自分の脳に情報を送るんだよ?
師匠にその解説してって言うてみ。めっちゃグッスリ寝れんで
便利だな
その技術と、あと1匹が師匠に脳をいじくり倒されとったやろ。

あの辺は師匠が100年以上中心としてる脳科学研究の成果やな

なんか、俺なんか遠く及ばない領域だな。なんでそんな事が出来るんだ
ちなみに師匠、

この前「人は脳以外の場所で物を考えてる」みたいな事言うとったで

ああ、頭がおかしいから出来るのか
な! な! な! あの人頭おかしいって言うたやろ!?

やっとこれに共感できる奴が現れた! ホンマおかしいねんあの人!

めっちゃ嬉しそうに師匠の事を「頭おかしい」って言うのもどうなんだ
そんだけ師匠がとんでもないって話や。

その師匠が、生きがいとしてる研究を投げ出して協力してくれてんで。

報酬がウチの7~8年では帰るのは止められへん

そうかなあ
そもそもを言い出したら、このウチに魔法を教えてくれたんも師匠や。

その恩を持ち出されたらウチ「死ね」言われても「はい」言うしかない

本当か?
いや、実際は泣いて許しを請うけど……
だろうな
……まぁそういうワケで、師匠が帰るのはちょっと止められへんかった





じゃあ、師匠さんが言ってた成長しろって言うのは?
ん……
……
……ウチのMPの話や
MP量が成長しないってことか?
そうやな。ウチのMP量が少ないから、

そこをどうにかすんのを師匠は求めてるんや

でも、MP量を増やすなんて故意に出来るもんか?
原理を分かってたらな
原理?
……魔力とMP量は別モンや。クッソ雑に説明すると

魔力は「魔法自体のパワー」MPは「魔法をどれだけ持続できるか」

っていうパラメータやな

それは分かってる
おお賢いやん。ご褒美に飴ちゃんあげよか?
いらんわ
師匠の研究によると、MP量を決めるんは「信じること」らしいねん
信じる……?
そう。ぜんっぜん科学的ちゃうやろ。

でも師匠は「99.9999%ですらない100%の事実」って言うてた

信じればMPの最大量が増えるとか、ちょっと信じられないな
そこや
え?
ウチもちゃんと信じてへん。頭では納得しててもな。

魔法が使われへん人に「あなたは空が飛べます」言うて

パッと空が飛べるようになるか?

ならないだろうな
そやろ。でも出来るって信じてさえおったら理論上は出来るんやと。

生物は理論上みんな魔法を使えるんやで

みんな? でも魔法を使えない人もいるよな
その人は魔法を使われへんって思い込んでるだけや。

大抵の人間は、自分が経験を積んで出来る自信がある事しか出来へん

そう……なのか
そう思い込んでしまうとMP最大量は0。

信じることで初めてMPが1以上になる……らしいで?

……それで、お前はなんでMPが少ないんだ?
……ウチは出来ることは知ってるからMPは0とちゃう。

「どうすれば出来るか」も知ってるから魔力は高い。

ただ信じればMPが増えるってのを身体では信じてへんからMP量は並

それと、師匠さんが帰ることにどう関係するんだ
つまり「強敵を倒したらその過程でMPの限界を超えるかも」って。

師匠は今回ウチにそれを期待してはる

何もそれだけのために帰ることないのに
師匠的にはまたとないチャンスなんやろ。

ウチは強敵に対しては98%以上の勝率やないと挑まん

きゅ、98%
今回も師匠がおるから勝率は98%越えの目算やった。

となると師匠は帰ることで勝率を下げて、攻略を難しくしてくる。

するとウチが頑張らざるを得んようになって、限界超える可能性が出る

そういう目的で……
「師匠がおらんかったら負ける!」っていう状況やったらともかく、

ウチが「余裕っす」って言うたのもアカンかった。

「じゃあ帰っても勝てそうかな」って思ったんやろうね

……
うん、そう。師匠が帰ったのは完全に調子ぶっこいたウチのせいや
何も言ってねえよ
はあ~~~今まで誰相手でも苦戦せんかったツケが回ってきたわ~……
ハイロさんも魔法1発だったもんな、お前
そうそう~基本一瞬で終わる勝ち方を閃けるし、

それが出来てまうからそれ以上を模索する必要がなくてはぁ~

そう落ち込むなよ。そういうことなら師匠さんがいなくても仕方ない。

俺らでしっかり遺跡を攻略しようぜ

ん~~~~~
俺がいるって事も忘れんなよ。

ちょっとくらいミスしても俺がカバーしてやるって。な?

……
いけそうか?
ウチより弱いくせに何をくっさいこと言うとるんやこいつ、ププッ
(ブンッ)
(ゴッ)でぇっ……! 久しぶりに殴りおったな!

乙女にゲンコツとか紳士の風上にもおけん奴や! 人でなし!

乙女の風上にもおけない奴が何言ってんだ。

あー優しくして損した。オラとっとと行くぞ!

っかームカつくわ! この恨み……全部敵にぶつけたるからな!!
そりゃ大いに助かるけど、八つ当たりにもほどがあるな……
師匠抜きでも遺跡を攻略する方向で一致した2人。

果たして師匠抜きでどうにかなるのか! 説明回はここで終了! ヤッター!!!!!

次回、いよいよ二章も佳境に入る。お楽しみに!


次回更新3/8(木)予定。気分で大幅に前後します。

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登場人物紹介

山田太郎

元道具屋の店主。高レベルな魔法の腕を持っているが、

なぜか関西弁の守銭奴とやけに現代的な性格。

「ドカベンって呼んでもええで」と言ったり、

偽名で岩鬼正美を名乗るなど、某野球漫画に謎のこだわりあり。

カイカ

冒険者の戦士。腕前に自信があったので難関ダンジョンに挑戦してみたものの、準備不足で傷薬がなくなりピンチに陥るちょっとしたマヌケ。腕は確からしいが、コミュ力がないと山田にディスられている。

ハイロ・アナグレタ

第3話より登場。酒場の看板娘らしい。

たちの悪い冒険者に絡まれていたところを山田たちに助けてもらう。

美人さんだが、なぜか「~っす」という語調で話す。

師匠(アネア・エアクオウ)

第9話より登場。凄腕の魔法使いで、山田の師匠。

100年以上生きているらしいが若々しく、「魔女」らしい風貌。

しかし魔法以外の事は99%忘れてしまうらしく、100年前どころか

昨日のことすら記憶が怪しい。山田いわく「後期高齢者」

ヨミド

第19話より登場。ギルドのリーダーで、魔法使い。

厳格な性格で、プライドが高いような発言が見受けられる。

第一章の山田とカイカはヨミドと会うために旅をしているが、

その役割を考えると、たぶん彼がメインヒロインなんだと思います。

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