第33話「乙女の風上にもおけない奴が何言ってんだ」
文字数 3,188文字
~前回までのあらすじ~
敵から情報を聞き出し、遺跡攻略の目処が立った一行。
しかし途中で師匠が帰ると言い出し、止めることが出来ず帰ってしまった。
なぜ帰ってしまったのか、師匠の思惑とは。
怒ってへん! 怒ってへんよ。全然怒ってへん。……はず
アレはな……要するに師匠は、ウチに成長してほしいんや
成長……師匠さんの力を借りずに自力で何とかしろって意味で?
言っちゃ悪いけど、それって師匠さんが身勝手じゃないか?
こっちはこれから、死ぬかもしれない危険に挑もうとしてるんだぜ
どういう意図があるかは知らないけど、
その状況で「お前に成長してほしいから帰る」って悠長すぎやしないか
ウチは……師匠はもう、報酬に見合うだけの仕事をしてもうたと思う
師匠が言うとったん聞いたと思うけどな。
「30分で到着」「敵2匹の確保」「敵を強制屈服させる」「敵から情報を引き出す」
こんだけやっとるワケや
特に敵を無力化してからの情報引き出し。これはデカいよ。
そのおかげで敵の数、敵全員の情報、遺跡の間取りなんかの情報が
ノーリスクで膨大に手に入ってんからさ
見張りをしてたと言いたいけど、3割くらい寝てたかも
果敢にボケてくれるのは嬉しいけど、今はそのタイミングちゃうわ。
……せやからな、情報を引き出せたのは師匠のおかげ。それに……
敵2匹を戦闘ナシで捕まえれたんは、これもデカい。
普通に戦ったら手強かったと思うで。余裕で勝ったとは思うけど
そうやろ。あの2匹を捕まえるために師匠が何やったか分かってる?
まず、えげつない量の魔力を飛ばして周辺一帯を捜索。
他の魔力とぶつかったら、生物がおる事と、その場所が分かる。
これはアホみたいに魔力を使う
コウモリの超音波みたいだな……そんなに魔力を使うのか?
めっちゃ使う。その範囲が広ければ広いほど使う。
んで敵を見つけたら、今度は超高速でこっちに引き寄せたやろ
アレもすごいレベル高いよ。
魔力って本来「認識できる範囲」までしか飛ばされへんねんけど、
じゃあどうやって地下の敵を判別して、かつ引き寄せたんやって話
……アレって、そんなに異常なのか? 俺の魔法レベルが低いだけかと
異常やろ。ずっと前にどうやってるんやって聞いたら、
「空中に一時的な目を作って、それを通して認識できる範囲を増やす」
とか言うとったわ
?? ……その目からどうやって自分の脳に情報を送るんだよ?
師匠にその解説してって言うてみ。めっちゃグッスリ寝れんで
その技術と、あと1匹が師匠に脳をいじくり倒されとったやろ。
あの辺は師匠が100年以上中心としてる脳科学研究の成果やな
なんか、俺なんか遠く及ばない領域だな。なんでそんな事が出来るんだ
ちなみに師匠、
この前「人は脳以外の場所で物を考えてる」みたいな事言うとったで
な! な! な! あの人頭おかしいって言うたやろ!?やっとこれに共感できる奴が現れた! ホンマおかしいねんあの人!
めっちゃ嬉しそうに師匠の事を「頭おかしい」って言うのもどうなんだ
そんだけ師匠がとんでもないって話や。
その師匠が、生きがいとしてる研究を投げ出して協力してくれてんで。
報酬がウチの7~8年では帰るのは止められへん
そもそもを言い出したら、このウチに魔法を教えてくれたんも師匠や。
その恩を持ち出されたらウチ「死ね」言われても「はい」言うしかない
……まぁそういうワケで、師匠が帰るのはちょっと止められへんかった
そうやな。ウチのMP量が少ないから、
そこをどうにかすんのを師匠は求めてるんや
……魔力とMP量は別モンや。クッソ雑に説明すると
魔力は「魔法自体のパワー」、MPは「魔法をどれだけ持続できるか」
っていうパラメータやな
師匠の研究によると、MP量を決めるんは「信じること」らしいねん
そう。ぜんっぜん科学的ちゃうやろ。
でも師匠は「99.9999%ですらない100%の事実」って言うてた
信じればMPの最大量が増えるとか、ちょっと信じられないな
ウチもちゃんと信じてへん。頭では納得しててもな。
魔法が使われへん人に「あなたは空が飛べます」言うて
パッと空が飛べるようになるか?
そやろ。でも出来るって信じてさえおったら理論上は出来るんやと。
生物は理論上みんな魔法を使えるんやで
その人は魔法を使われへんって思い込んでるだけや。
大抵の人間は、自分が経験を積んで出来る自信がある事しか出来へん
そう思い込んでしまうとMP最大量は0。
信じることで初めてMPが1以上になる……らしいで?
……ウチは出来ることは知ってるからMPは0とちゃう。
「どうすれば出来るか」も知ってるから魔力は高い。
ただ信じればMPが増えるってのを身体では信じてへんからMP量は並
つまり「強敵を倒したらその過程でMPの限界を超えるかも」って。
師匠は今回ウチにそれを期待してはる
師匠的にはまたとないチャンスなんやろ。
ウチは強敵に対しては98%以上の勝率やないと挑まん
今回も師匠がおるから勝率は98%越えの目算やった。
となると師匠は帰ることで勝率を下げて、攻略を難しくしてくる。
するとウチが頑張らざるを得んようになって、限界超える可能性が出る
「師匠がおらんかったら負ける!」っていう状況やったらともかく、
ウチが「余裕っす」って言うたのもアカンかった。
「じゃあ帰っても勝てそうかな」って思ったんやろうね
うん、そう。師匠が帰ったのは完全に調子ぶっこいたウチのせいや
はあ~~~今まで誰相手でも苦戦せんかったツケが回ってきたわ~……
そうそう~基本一瞬で終わる勝ち方を閃けるし、
それが出来てまうからそれ以上を模索する必要がなくてはぁ~~~
そう落ち込むなよ。そういうことなら師匠さんがいなくても仕方ない。
俺らでしっかり遺跡を攻略しようぜ
俺がいるって事も忘れんなよ。
ちょっとくらいミスしても俺がカバーしてやるって。な?
ウチより弱いくせに何をくっさいこと言うとるんやこいつ、ププッ
(ゴッ)
でぇっ……! 久しぶりに殴りおったな!乙女にゲンコツとか紳士の風上にもおけん奴や! 人でなし!
乙女の風上にもおけない奴が何言ってんだ。
あー優しくして損した。オラとっとと行くぞ!
っかームカつくわ! この恨み……全部敵にぶつけたるからな!!
そりゃ大いに助かるけど、八つ当たりにもほどがあるな……
師匠抜きでも遺跡を攻略する方向で一致した2人。
果たして師匠抜きでどうにかなるのか! 説明回はここで終了! ヤッター!!!!!
次回、いよいよ二章も佳境に入る。お楽しみに!
次回更新3/8(木)予定。気分で大幅に前後します。
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