第2話 ピアス

文字数 694文字

紺色だった空が桃色に染まっていく。
やがて、波が太陽に照らされ、真っ暗な闇だったものは、母なる海の姿に戻っていく。
いや、闇の方が本来の姿なのかもしれない。
幾人もの命を簡単に奪っていく海は、
暖かい太陽の下では、猫を被る。

「おはよう。」
もう返す存在もいないかもしれない廃墟から声を上げる。
この港町には、たくさんの死者がいる。
でも、俺は多くの彼等がどこにいるのかはわからない。成仏できない者、どうせ録なことにはなっていない。

「あれ、おはよう。静かだったじゃん。」
背後から呑気に返されて驚く。
「アミ!」
俺の顔を見てアミはケラケラと笑い出す。
「何、化け物見るような目で。いや、化け物なんだけどさ。」
赤い髪をかき上げてつまらないことで笑う。
それは、昨日までの、俺が見ていたアミだった。
少しほっとして座り込む。
昨夜の、「死ねばよかったのに」と言った冷たい声色を思い出す。
「なんで、死ねばいいと思ったの?」
昨日、アミは感情を喪ったのだと思った。
いや、そうなのだろうけど、
今見ているアミを見ても、昨日までと変わるところはないと思ってしまう。
アミは当然のように答える。
「え、だってさ、助けてあげたのに。」
全然気付いてくれなかったんだもん。
結構、好きな顔だから一生懸命助けたのにさ。
口を尖らせて不満そうに言うのを見ていると、
力の抜けた笑いが出た。
「格好よかったっけ?あの人。」
「私、ああいうちょっと悪そうな人好きなんだよね。ピアスとか沢山付けちゃうみたいな。」
そう言ってアミはクスクスと笑った。
「不幸な恋愛しそうだな。」
遠くの海にフェリーが蜃気楼のように揺れている。俺は弄っていたシケモクを海に向けて投げつけた。
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