第33話:野獣の影

文字数 1,785文字

「――ここだ」
 様々な精密機器がひしめき合う一室に、人型ロボットの姿が一つ。王道RPGに出てくるシーフのような姿だが、特筆すべきはその頭に付いている大きな三角耳パーツ。まるで狐のようである。シーフ狐ロボ(仮)は巨大モニターの映像を切れ長の目で捉えたまま、薄い唇の口角をニヤリと歪めた。モニターに映る映像は、どこかの座標のように見え、とある一点が点滅していた。
「やっと見つけたか」
 メカメカしい室内に入ってきたのは、シーフ狐ロボ(仮)よりも一回り大きく、海賊の船長風な姿のロボットだった。やはりシーフ狐ロボ(仮)同様、海賊帽から狼のような耳パーツが生えていた。
「退屈すぎて錆びちまったぜ」
 ゴキゴキと首を鳴らしながらやってきたロボットは、筋骨隆々な上半身に腰布を巻いただけのバーサーカー風ビジュアルだ。このロボの頭にも虎のような丸いお耳が付いており、装飾パーツの少ない上半身や両腕には、ご丁寧に虎縞模様が施されている。体の大きさはパイレーツ狼ロボ(仮)よりも大きく、ボルタに引けを取らない屈強さだ。
「もう起動しているのか?」
 パイレーツ狼(仮)の問いに、シーフ狐(仮)は一つ頷いた。
「多分な。“永久登録”されてたら厄介だぜ」
「そんときゃあブチ壊しちまえばいいじゃねぇか」
 シーフ狐(仮)のボヤキに、バーサーカー虎(仮)は愉快そうに拳を鳴らした。
「侮るなよ。なんせ奴らは“ロストテクノロジー”だからな」
「へっ。んなの所詮古臭ぇ技術のことだろ?」
「そうだぜ。最新型の俺達に敵うわけねぇさ」
 狼(仮)の言葉に、狐と虎はククッと喉で笑う。
「噂では、腕の一振りで山を薙ぎ払い、両目から放たれる光線で海を干上がらせ、その手で触れるもの全てを一瞬で溶かし尽くすそうだ」
「嘘クセェ」
「しゃー! 燃えるぜぇ! バケモン相手の方が楽しめるってもんだ!」
 狼(仮)の噂話を鼻で笑った狐だが、逆にテンション爆上がりした虎を『え、信じたの?』というような顔で振り返った。
「何にせよ、さっさと回収しに行くぞ」
「おう」
 威勢よく返事をした狐は、モニターに映る座標を宇宙船(?)の自動追尾運転へ入力する。しかし複雑な精密機器からはビーッというエラー音が鳴ってしまう。入力ミスかと再度挑戦してみるものの、何度やっても返ってくるのはエラー音のみ。エラーの回数が増すごとに、狐の顔には焦りの色が濃くなっていった。
「どうした?」
 狼がカチャカチャと一心不乱に操作盤を叩きまくる狐に声をかけると、狐はピタリと動きを止め、ゆっくりと振り返る。

「……なんか壊れた」
「「なんか壊れたぁ!?」」
 ボソリ呟いた狐に、狼と虎が思わずハモった。
「なんかってなんだ!?」
「わかんねー」
「わかんねーじゃねぇだろぉ!? さっさと直せやぁ!」
「直そうとしたけどダメだった」
「ハァアッ?! アホかテメェは!」
「そんなギャンギャン言うなら兄貴が直せよ!」
「あぁ!? 俺が直せるわけねぇだろがぁ! こちとらビデオの録画もできねぇんだぞ!」
「ビデオっていつの時代だよ! つか自慢すんことじゃねーだろそれ!」
 怒髪天の虎に逆切れする狐。延々と罵り合う二人の様子を、狼は『またか』というような遠い目で見ていた。

 * * * * *

 一方その頃、茉莉宅では――
「さすがガスターさん、プロ並みの腕前だね」
「そんなことないわよ~、アタシなんてまだまだよ」
 夕食の準備をする中、色々な野菜を見事な飾り切りにしてみせるガスターへ茉莉が羨望のまなざしを向ける。
「ぎゃああああっ!」
「どうしたのボルタさん?」
「目が! 目があぁぁぁぁっ!!」
 リビングのソファーで寝ていたドンのモフ腹に顔を埋めようとしたボルタは、その両目をクリームパンのようなお手々に抑え込まれていた。ある意味ご褒美だが、眼球パーツに直接肉球を押し付けられると、それなりに痛みを伴うようであった。
「ドン、手が……穢れる」
 ボルタの顔からドンを引きはがしたロキソは、そのまま自分の膝に乗せ前足をタオルで拭う。ボルタに眠りを邪魔され不機嫌だったドンだが、ロキソに優しく全身を撫でられるとゴロゴロ喉を鳴らし始めた。終いにはロキソの膝の上でトロントロンに蕩けきってしまったドンを、茉莉達は微笑ましく見守っていた。
 こんな何気ない平和な日常に忍び寄る影の存在があることを、この時の茉莉達は知る由もなかった。
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