第106話  絆で結ばれた家族 1

エピソード文字数 2,987文字

聖奈……? 平八さん?
かれん。楓蓮っ!
 助手席から飛び出した聖奈は、一気に俺の元に寄ってくると、俺の顔を見て目開き、そして青ざめていた。
なにこれ……ひどい! その顔どうしたのよっ!
聖奈っ! ま、まて。なんでお前が……
お姉ちゃん……

 後部座席から出てきたのは華凛だった。すぐさま俺の腰に巻きついて離しやがらない。

 しかもすぐ泣き声を上げる始末だった。

どういうこと? 何があったの?

 こんな顔する聖奈は……久しぶりだ。

 まるで、昔のお前とだぶっちまう。 

答えなさい! 何があって……こんな……

 凄まじい怒りと共に悲痛とも言える表情。

 そんな顔が横を向き、その照準を変える。

あんたたち。教えなさい。全て正直に答えるのよ!
 そして夜中の静寂を打ち破るような、怒号が鳴り響く。
答えろぉっ!

 そう叫んだ聖奈に、白竹姉弟も怯まざるをえない。

 美優ちゃんも傘を落とし、魔樹にいたっては足元から崩れ去ってしまう。

待て聖奈。落ち着け。二人は……関係ない

俺の話を聞け!

その声に聖奈が振り返るが、何の効果も無く、再び白竹姉弟へと向き直った。


しかも……

ごめんなさい……楓蓮さんを傷つけてしまったのは私です
なっ……美優ちゃん!

 な、何でそんなこと言うんだよ!  


 聖奈の怒りは当然美優ちゃんへシフトした。

は? あんたがやったの?
待て! 聖奈っ! ってか華凛っ! 離せぇ!

 聖奈を止めないと! あいつは女でも容赦しない!


 ゆっくりと美優ちゃんに詰め寄る聖奈。

 その前に立ちはだかったのは、魔樹だった。

 

違う! 美優は関係ない……殴ったのは僕だ

 こんの……馬鹿野郎が!

 ここぞとばかりに出てきやがって、これ以上話をややこしくするな!

 

あんた分かってる? 女の子なのよっ!


女の子の顔に……なんて事すんのよぉっ! 

 思いっきりのグーパンチで吹き飛んだ魔樹は、びしょ濡れのアスファルトに転がった。
魔樹っ!
離せ! 華凛っ!  聖奈を止めろぉっ!
華凛ちゃん。頼んだわよ。私が楓蓮の仇を討つ
お前ら……おいっ! こらっ。ふっ、ふざけんな!

 俺が叫ぶ中、聖奈はそのまま美優ちゃんに詰め寄ると、彼女は後ろに尻餅を付いてしまっていた。

 それでも聖奈は彼女の目の前に来ると、拳を握り締める。

 

 ようやく凛を振りほどいた俺は、素早く聖奈に詰め寄るが、間に合わない! 

 そう諦めた瞬間――

僕がぼっこぼこにした。顔面も身体中全部、アザだらけにしたのは僕だ
馬鹿野郎! なに煽ってんだよてめー!

 そんな魔樹の言葉に、気を取られた聖奈。

 その間に背中から抱きしめる事に成功した。

 だが、暴れまくり叫びまくる聖奈を必死に押さえつけていた。
離せ! 離しなさい! この男……許さない!
やめろっつってんだ! いいから落ち着いて話を聞けぇ!

うるさいっ! 

あんたを……あんたを傷つける奴は絶対に許せない!

 必死に聖奈を押さえつけている最中だった。

 俺は――信じられない光景を目の当たりにした。

お姉ちゃんは。絶対に悪い事はしない

それなのに、何で……こんなこと。するの? なんで?

……ゆるさない!
 そんな声を上げながら、華凛が魔樹に向かっていくのだ。
華凛っ? や、やめろぉ!
 くそったれ! 聖奈も暴れてどうしようもねぇ!
お姉ちゃんを虐める奴は……やっつけてやる!
待てっつってんだろ! 馬鹿野郎がっ!

 華凛が詰め寄ろうとした瞬間――


 美優ちゃんが咄嗟に魔樹に抱きつくと、彼女らしからぬ低い声で「ごめんなさい」と叫んだのだ。 

わたしのせいです! わたしがちゃんとお話できなかったから、楓蓮さんも魔樹も……全部私が悪いのっ! ご、ごめ。ごめんなさい!

 何度も叫ぶ美優ちゃんは魔樹を抱きながら。

 漆黒の空を見上げながら、繰り返し何度も……謝罪の言葉を叫び続けた。

わたしのせい。全部私が……

わたしのせいでみんなが……う、うぇ~~~~~~!

美優ちゃん……
美優……
 これには華凛も、それ以上二人に近づけなかった。

 そして聖奈も次第に抵抗しなくなると、俺は聖奈の背中をギュっと抱きしめていた。

ちゃんと話す。だから落ち着け

 聖奈は何も言わなかった。

 まだ興奮冷めやらぬ感じで、荒々しい吐息が聞こえていた。

もういいでしょう聖奈お嬢様。まずは場所を変えましょうか。みなさん風邪を引きますぞ
平八さん……

 平八さんはいつの間にか横に立っており、俺と聖奈の頭上に傘を差してくれる。

 とりあえず乱闘騒ぎが落ち着いたと思った俺は、聖奈の身体を離すと、華凛に駆け寄ろうとした。



 すると聖奈は俺が離した途端、急にダッシュすると、一気に詰め寄ったかと思えば白竹姉弟に向け、美優ちゃんの背中から襲い掛かろうとしたのだ。

平八! どきなさい!
おやめくだされ。聖奈お嬢様

 聖奈の拳を手のひらで受ける平八さん。

 次のグーパンチまで、同じ手のひらで受け止めていた。

それ以上やると、楓蓮お嬢様が悲しみますぞ

聖奈。とにかく全部話すから。やめるんだ。


美優ちゃん。魔樹。俺を信じてくれ!

 この気持ちが二人に届くように、俺は最大級の叫びをあげていた。


 安心してくれ。俺は絶対、二人を悪いようにはしない! 

この二人も……俺達黒澤家と一緒。入れ替わり体質だ
えっ?

美優ちゃん。魔樹。


聖奈とこの平八さんはな……黒澤家の事も良く知ってるし、入れ替わり体質に理解ある人達だ。

今日のことは絶対喋らないし、絶対に信用できる!

 そうは言ったものの、二人とも怖がっているのが分かる。


 怖いよな。分かる。


 その気持ちが痛いほど分かりすぎて……つらくなる。


 それでも……分かってほしい。


 いや、ちがう!


 分かってもらわなきゃ……困るんだよ!

絶対大丈夫だから……頼む。俺を信じてくれっ!

 何としても分かってもらおうとした結果。蹲る二人を包むように抱きしめていた。


 何度も。何度も「大丈夫」と二人に声を掛けていると、美優ちゃんの声で、楓蓮さんと聞こえてくる。

同じ入れ替わり体質の人間なんだ。


だから俺は、二人を絶対に裏切ったりはしない!

 仲良くしたい! それだけなんだ。だから……信じて!

蓮くん……

楓蓮さん……

 しばらくして美優ちゃんの声がする。


 「うん」と一言だったが、俺は猛烈に感動して、二人を更にギュっと抱きしめていた。 





 その時、後ろから平八さんの声がした。

申し遅れましたな。私は平八と申します。


白竹麻莉奈さんのご子息ですな? なるほど良く似ておられる

 その場にいた全員が平八さんに向き直っていた。


 美優ちゃんや、魔樹まで顔を上げると、聖奈まで「どういう事? 知り合いなの?」と詰め寄った。

麻莉奈さんには平八が連絡しておきますゆえ。ご心配なさらず
母さんを知ってるのですか?

いかにも。

平八めの昔からの親友でしてな。よ~く存じ上げておりますぞ。

 なんだと? 平八さん。昔からの親友?


 あんた……一体何者なんだよ。

平八……説明しなさい
後で説明します。まずは……場所を変えましょうか。全員ずぶ濡れでございます
……分かったわ。みんな。私の車に乗って
 とは言うものの、美優ちゃんも魔樹も動かない。

美優ちゃん。魔樹。大丈夫。

全部正直に喋れば誤解なんてすぐ解けるし、みんな分かってくれるから。


俺を信じて、ついてきて欲しい。

 二人を説得し聖奈ご用達の高級車に乗り込む。

 平八さんはもの凄いスピードを出し、あっという間に喫茶店が視界から消えるのであった。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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