第10話:与えられた人生、何せねば、福祉の芽生え

文字数 2,345文字

 この事件を機に七郎は自分の歩んできた道が本当に良かったのか、また正しかったのか振り返る時間がもてた。2011年で58歳を迎え普通は、あと2年で定年を迎える。確かに金銭的にも、対人関係でも、今まで、恵まれた人生だった。お金もでき地位も仕事も名誉も手に入れた。しかし自分で勝ち取ったものは何一つなく全部、家族、友人のお陰だったことに気づいた。

 つまり、与えられた人生であり自分の手で切り開いたとはいえない事に気づいて、七郎は数日間は呆然とした。自分の手で何かしたい何かしなければいけない。そうでなければ生きてきた意味がどこにあるのだと悩みはじめた。数日後、いつもの様に運動のため散歩をしていた時、とある寺の前で足を止めた。入り口に毎週日曜日、無料座禅教室を開催してますので、お気軽にご参加下さいと書いてあった。

 これだと思い寺の座禅教室に入会した。翌週の日曜、最初の座禅に参加した。日頃、座る生活をしていないので、うまく座禅が組めない。見かねて、お坊さんが座布団を持ってきて何とか座禅を開始できた。座禅し始めてすぐ頭の中から何かが抜けていく様な不思議な感じがした。しかし嫌な感じと言うよりも爽快感さえ感じた。座禅終了後、お坊さんが座禅の第一歩は雑念を捨て無の境地を感じることですと教えてくれた。

 静かな感じ爽快な感じを体感して下さいと言った。その後、参加者から、いろんな質問と、お坊さんからの話があり1時間ほどで終了。七郎は、座禅は苦しかったり痛かったりするんだろうなと予想していたが反対に爽快感を感じ何か奥深ささえ感じた。その後、毎週、座禅に通い、3ヶ月後には、お坊さんの言う「無我の境地」をぼんやりとだが感じることができるようになった。

 そして、日頃の悩み自分は一体何をしてきたんだろう、今後何をしていったら良いんだろうか、という質問をした所、与えられた人生を過ごしてきたと思うおもうなら、今度は人に与える人生をすべきであり、その方法は自分自身で考えなさいと、お坊さんに言われた。新聞で東日本大震災で親をなくした子供の数1698人と言う記事を見て木下七郎は心が痛んだ。

 自分も飛行機事故で一瞬にして家族4人をなくした事が思い出され東北大震災で親を亡くした孤児達を自分の稼いできたお金で助けようと思いついた。ロスチャイルド時代に知り合いになった芸能人のチャリティー・ショーなどを年に4回企画し、収益金を全部、東北大震災の孤児のために送った。2008年に金、3千キロを63億円で購入したが2012年、年末に金価格が、急上昇した。

 5千円/グラムを越えそうな勢いだったので金地金を1グラム・5千円、3000キロを全部売却して150億円を得た。その時の総資産が154億円1840万円となった。この時点で2013年七郎基金に10億円寄付したので約144億円となり1人ではとても使い切れない。増やす事は終了して、うまく使う方法を考え始めた。この頃から老人の生活保護増加、子供の保育園、幼稚園不足、子供の貧困が取り上げられた。

 特にシングルマザーの貧困と、その子供の教育の機会が奪われるという事が社会問題化してきた。そこで七郎は自分のお金で大きなビルを建てて1階を保育施設と調理室にして2階から4階を小学生、中学生、高校生の学習室にして5階をお金はないが元気なお年寄りの集会場にしようと考えた。そのため東北大震災の募金活動から一旦、身を引いた。早速、七郎の父ので友人の山下真一さんの息子さんの山下洋一さんを思い出し相談にのってもらった。

 話を始めて十分の資産ができたので金銭的に恵まれないシングルマザー、学生、高齢者を助ける社会福祉をしたいと打ち明けた。そこで関東で都心まで1時間以内の所に5階建てのビルを建てたいと思っているんだが土地、建物に詳しい人を紹介して欲しいとお願いした。すると山下洋一さんが三保太郎と言う学生時代の友人が三井住友建設でマンション施設をしているので紹介してくれると言ってくれた。

 彼と連絡して都合の良い日時と場所が決まったら七郎に電話してくれることを約束してくれた。数日後の電話で来週の火曜日に池袋駅近くの喫茶店で午後17時に会うことになった。大きな喫茶店で隅の方に山下洋一さんが、こっちと合図してくれた。七郎は三保さんから三井住友建設、建設1課、課長の名刺をもらった。三保さんが、関東一円で、マンション、事業用のビルを建設していますと言った。

 そこで七郎が社会福祉的な目的で5階建てのビルを都心から電車で、1時間以内の場所を考えていると伝えた。三保さんが社会福祉とは具体的に、どんな事ですかと聞いた。すると七郎が貧困のシングルマザーの子供を預かり働き易くして上げる事、金銭的に恵まれない学生のための寮、高齢者の集会場を考えていると答えた。すると三保さんが3つの事を1人でやるのですか?

 パートナーや共同事業者はいないのですかと聞いた。1人ですと言うと笑いながら、はっきり言って無茶です。多分できないし、あなた自身が、まいってしいますよと言った。
「失礼ながら福祉関係の仕事の経験ないのでしょ」
「ええ、ないですと答えると、それなら、なおのこと無理です」

「失礼な言い方かも知れませんが、お金持ちの慈善事業ごっこなら」
「悪い事は言わないから、やめた方がいい」と真剣な顔で言った。
それを聞き七郎は驚いた。

 三保さんが七郎に一番やりたい事は何ですかと聞いた。
「苦学生のための寮ですと答えると、それだけなら可能」ですと言った。
「シングルマザーは女性であり個性が強い人が多い」
「第一、子供を預かって何かあった時の責任とれるの?」 
「高齢者の集会場なんて、彼らの手で勝手に探しますよと笑った」
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