第1話 モンスターが産まれる6月

文字数 513文字

神様は、居た。
彼は、まだそのへんてこな名を授かる前から、それと対峙していた。
いや、正確には、知っていた。
酔った父親が、「おれはとっておきを長男に使わなかったんだぜ、紫明だ。双葉、紫明。フタバシメイ、、くたばっちまえ」
妊娠中にも関わらず、煙草を燻らしながら、母親は大きく頷く。
その頃には父親は、いびきをかいていた。
ふたりとも、学がなかったのである。

一方、まだ巨大なプランクトンみたいな姿で羊水に浮かぶ彼は、神様と名乗る老人の話を一方的に聞かされていた。
「おお、汝は憐れなり。せめてその苦しみを、和らげてやろう。おまえは、暗い運命に産まれ出るその途中、頭だけ出た時母親の痙攣により首を挟まれて窒息する。なあに、苦しみは一瞬。その後は私の許に置いてやろう。全裸で、背中に鳥の羽根を付け、めったに吹かないラッパを口に加えたあの姿で。なんて幸せな事よ」
彼は、良く解らなかった。
こいつも信用出来ねえな。
どっちがいいのか、わからないや。
だから、しくじったのかもしれない。
いくつか質問したかったが、彼はまだ言葉を発するに至らなかった。
両親も神様も、彼の考えてる事は、わからないようだった。
いや、わかっていたかもしれぬ。
意に介さなかっただけで。
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