詩小説『感情クリップ』3分の号泣。失った人へ。

エピソード文字数 1,142文字

感情クリップ

取り留めもない言葉たち。
溢れるままに、垂れ流される。

憎しみなのか、哀しみなのか、
自虐なのか、嫉妬なのか、
散らばるのは、
名前のもたない感情たち。

零れるままに言い放った、
起承転結も、句読点すらない言葉。

部屋のあちこち、
乱雑に散らかった。
ひとつずつ、拾い上げたなら、
表裏を揃えて、
ページ番号を揃えて、
最後に表紙をつけたなら、
題名を添えて、
まとめた言葉は、
感情クリップ。

カゴから溢れて零れる洗濯物。
山積みになった、
ハガキに便箋、それからチラシ。
ながしには、汚れたお皿、
濁った水に浸って。
手のつけようのない、
変わり果てた部屋。

私のことなにも知らないようなあなたに、
こうして話を聞いてもらうのは、

私は悪くないって言ってもらうため?
大丈夫だって励ましてもらうため?
次の恋へと導いてもらうため?
いや、違う。

返答も感想もいらないわ。
ただ黙って聞いておいてほしいだけ。

感情のままに言葉を放って、
この気持ちを知りたいだけ。

言ってみて初めて気づく、
そんなこと思ってたんだって。

一から百まで、洗いざらい、
整理をさせてほしいのだ。

特別な存在なんだと、誇らしく思った、
カウンターしかない居酒屋で。
あの壁に貼られたお品書きくらいに、
幸せな言葉に埋め尽くされた。

煙草の灰を落とす、
その細く長い指先に、
私は恋をした。

そして、
知らず知らずに、
気づいたら後をつけてた、路地裏で、
あなたの腕に掴まる若い女。

そこですべてを悟った。
近頃、そっけないことも、
会える回数は少なくなったことも、
仕草ひとつひとつが冷たいことも。

「最低だよね。若い女に乗り換えなんて。呆れて笑っちゃうでしょ? それでさ、彼、愛想がなくて、ぶきっちょで、無口でさ、気が利かないんだ」

「うん」

「どうでも良いよなことだって、一生懸命になって。ひとりでランチするにもいただきますって、独り言みたいに」

「うん、そっか」

「馬鹿だよね、ほんと」

取り留めもない言葉たち。
溢れるままに、垂れ流される。

部屋のあちこち、
乱雑に散らかった。
ひとつずつ、拾い上げたなら、
表裏を揃えて、
ページ番号を揃えて、
最後に表紙をつけたなら、
題名を添えて、
まとめた言葉は、
感情クリップ。

きちんと整理してみたら、
見える景色もあるんだと。

「好きなんだね。今でも」

「うん」

号泣するなんて、思って……。思ってた。

感情はまとめられ、
今綴じられたクリップを、
折り目をつけて、茶封筒に入れ、
封をしてなら。

やっと題名をつけられたわ、
まとめたからこそつけられた。
これで失恋と呼べるの。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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