第49話:東北への石油輸送作戦6

文字数 1,139文字

 車輪はレールと激しくこすれあう様な甲高い金属音がこだました。動かない。後退する前に再びブレーキをかけた。これ以上は車体が傷む。同乗していた指導員が首を横に振った。ノッチを戻し、顔を上げた遠藤さん。辺りを見回すと谷のような地形に雪が積もり、急カーブが迫る景色が見えた。昔、停車したあの場所だった。悪夢が再来した格好だ。同乗していたJR東日本の会津若松運輸区長が線路に降り、現場を確認する。車輪周辺の雪がさびを含み茶色い。「レールの上に5センチも雪が積もってる。他の列車が走っていないから錆まで浮いて…」。

「こりゃ石油積んで走れる状況じゃないよ。しようがないって」雪まみれで運転席に戻ってきた運輸区長の明るい口調に、遠藤さんは少しだけ救われた気がした。石油列車の運行の前に、レールは磨き上げられているが、震災以降ほかの列車が走っていないだけに予想以上にさびが発生し、ただでさえ乏しい摩擦係数を引き下げたのかもしれない。遠藤さんは無線を取り、会津若松駅司令室を呼び出した。空転しつつ運転を継続するしたが、ついに止まってしまい、救援要請します。できるだけ冷静に告げたが、悔しさが込み上げてきていた。

 会津若松駅の指令室には、駅長の渡辺光浩さんらJR東の職員数人が集まり、運行情報表示装置で石油列車の運行を見守っていた。同装置は列車が信号機などを通過するたびに画面に表示されるもの。なにごともなければ一定のテンポで画面が動いていく。
「磐梯町付近で動きが遅くなると頑張れ、登れ、止まるなーと職員から声が上がった」
「しかし翁島近くの信号所を列車が通過したデータは受信されなかった」
「止まったか? 雪だな、たぶん、間もなく無線で救援要請が寄せられた」

「了解しました。救援車両を派遣しますので、待っていてください」
「駅長の渡辺さんが指示を出し、DE10、準備いいな」
「オーケー、いつでもいけますよ、部下の声が、心なしか弾んでいた」

 鉄道による歴史的な石油輸送を目撃すべく猪苗代湖畔で列車到着を待っていた日本石油輸送・JOT石油部の渡辺圭介さんも異常を察知。過去に何度も冬場の停車事案が発生している地点は調査済みだ。同行の友人とともに翁島手前のポイントに車を走らせた。現場は激しく吹雪が舞う。

 驚いたことに、そこには既に5、6人の鉄道ファンが先着していた。
「視線の先にはDD51を先頭にした石油列車が立ち往生していた」
「脱出を試みたが、無理っぽい!渡辺さんに気付いた先着者が心配そうに話しかけた」
「雪の磐越西線、やはり甘くないな」
 用意してきたカメラを向けるのも忘れ、呆然と石油列車を見つめるしかなかった。会津若松駅で待機していたディーゼル機関車DE10が、排気音を響かせながら力強く動き始めた。
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