(3) 川の犬

文字数 843文字

 犬はみるみる大きくなります。それとも、みおが小さくなったのでしょうか?
 犬の顔とみおの顔が、同じ高さになりました。

 みおがうれしくなって、犬の首に手をまわそうとすると、
「わあ!」
 バシャッ、と水のはねかえる音がして、みおの体が犬の体をつきぬけて、落ちる!
「力を入れちゃだめ! らくにして」
 つぎの瞬間、うつぶせになったみおの下から、すうっと何かがもりあがってきて――

 目をあけると、みおは、犬の広い背中に乗って、走っていました。

 あたりを見まわして、びっくり。みおたちが走っているのは、川の水面なのです。
 犬の足はかるがると水をけり、けっしてしずみません。まるでモーターボート。
 白いしぶきをあげながら、犬は川の流れにさからって、上流へ、上流へと、走りつづけているのでした。

 両側にならんだ町の建物が、みおたちの後ろへ、飛ぶように過ぎていきます。
「あっ」
 とつぜん土手から何かが飛んできて、みおはころげおちそうになりました。
 火?!
 犬の足にあたって、ジュッ!と音が。犬は、ううっと低くうなりましたが、そのまま走りつづけます。

「だいじょうぶ?!」みおはさけびました。心臓がばくばくして、のどまで上がってきたみたいな感じがします。
「みおちゃんこそだいじょうぶ? みおちゃんにあたらなくて、よかった」
 苦しそうな声。犬は、歯を食いしばっているようです。
「いまの何?」
「たばこの吸いがらよ。ああやって、川に投げ捨てる人がいるの」
「ひどい!!」
 みおは泣きそうになって、顔がまっ赤になりました。

「ひどいよね。ペットボトルやビニールぶくろを捨てる人もいるよ。でもね」
 顔は見えないのに、犬がふっと笑ったのがわかりました。
「そういうごみをひとつずつ拾って、川をきれいにしてくれる人たちもいるんだ。水道局に集まるお水は、きれいじゃないとこまるものね。だから、安心して」
「うん」

 みおは、犬の首にしっかりしがみつきました。
 犬の声はやさしくて、「安心して」と言われたら、ほんとうに安心できるのでした。
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