第12話

文字数 1,873文字

 佳亜が指をポキッと鳴らした。健ははっとした。
 そうだ、とにかくそのために来たんだから。予想とちょっと違うものを見て固まってしまったけど、目的は変わらないんだ。
「多分、あの中のどれかが本物なんだと思う。でもどれがそうなのかわかんないし、みんな同じに見える。だから……」
「だから、やってみるしかないってことか」
 大和が頷いた。
「何か、作戦とかあるの?」
 佳亜の言葉に、健と大和が顔を見合わせて、それから一緒に首を振った。作戦なんかない。木刀とエアガンとナイフと、初詣に行ったときの破魔矢。家にあった武器らしいものありったけで、とりあえず攻撃してみる。その中で効果のある武器が見つかったら、それでひたすらやる。
「首に反撃されるとしたら、どんな風にくるんだろうな……」佳亜が言った。
「目からビーム。口から火炎」健が言った。
「それはないだろう」
 冷静に否定された。
「多分首が反撃するときは、飛んできてこっちに噛みつくとかだと思うんだ。実際中国に、そういう妖怪がいるんだよ。飛頭蛮っていう、夜中に首が飛び回るの」
 眼鏡の位置を直しながら、大和がとんでもないことを言った。自由に飛び回ってこっちに齧りつく生首なんて、絶対、夜道で会いたくないタイプだ。
「それとか髪の毛が伸びて、俺たちの首を絞めたりしてね。ははは」
「あはは。それが八人分だったら、髪の量もすごいだろうね」
 しーん。三人は、思わずぞっとして顔を見合わせた。それから三人揃って首を見た。首たちが、今にも自分たちに喰らいつこうとしているところだったらどうしよう、と思いながら。
 しかし八つの将門はさっきと同じように、まるでこちらの存在を無視しているかのように、ただ浮かんでいる。
 健は腰のフォルダーからエアガンを抜いた。かちゃりと音を鳴らして、弾が装填されているのを確認する。
「かっこいい」
 佳亜が言った。
「かっこいい?」
 まともに褒められて、ちょっと嬉しい。
「じゃ僕は、とりあえずこれを……」
 大和が背中のリュックから、白木の矢を取り出した。
「そのナイフじゃないの。胸ポケットの」
「だって、ナイフだと近寄らないといけないもん。投げたら勿体無いし。お父さんのドイツ土産なんだよ」
「……そうか」
「俺は、この木刀を借りるよ」と言って、佳亜が健の木刀を取った。
「あれ、手じゃないの。空手やってるって噂だけど」
「だって、あれ殴るの気持ち悪いもん。しかもたくさんあるし」
 言ってることはわかる。あれを素手で殴るのは、殴打という行為に慣れている人間でも気持ち悪いだろう。
「でも、いざとなったらやるけど」
 と佳亜は、整った顔で面白くもなさそうに言った。
「よしっ、いこう‼」覚悟を決めて、健が叫んだ。
「うわああああっっ」
 佳亜と大和が同時に雄叫びを上げる。と同時に、首たちの周囲から凄まじい豪風が吹きつけてきて、激しく身体を打ち据えた。まるで生きているかのような風の猛攻を正面で受けながら、健は見た。見てしまった。
 首の瞼が、ゆっくり開かれていくのを。
「わああああっ」
「ひるむなっ! そのままいけ!!」
 佳亜の声が聞こえなかったら、逃げ出していたかもしれない。見えない何かに引っ張られるようにして健はエアガンを構え、一番近い首を撃った。
射撃の腕には自信があった。玉も通販で威力のあるものを購入しておいた。玉は額に命中、のはずだった、が。
「嘘だろ……」
 やった! と思ったのも束の間、弾は首のすぐ鼻先で、首を包むオーラに弾き飛ばされてしまった。
 大和は、手に持った白木の矢を…………持て余し、立っていた。考えてみれば、矢はあるけど弓はない。武器っぽいから持ってきたけど、一体これでどうしたらいいのか。
「止まるな、大和っ! 力いっぱい投げろ!」佳亜が叫んだ。
「わ、わあああっ」
 大和は、手の中の白木の矢を、首の一つを目がけて放った。たとえ大和がソフトボール投げが不得意で、女子の失笑を買うものだったとしても、この至近距離でこの的の大きさ。矢は少なくとも顔のどこかには命中するはず、だったが。
 ポキという音を、吹き荒れる豪風の中で確かに聞いた。
「うわああぁ………」
 細く美しい白木の矢は、首の手前でぽっきり折れた。大和には一瞬、首が矢をボリボリと噛み砕いたように見えた。
 矢を砕いた首は、放ったものの正体を見極めようとするかのように、瞼を開くスピードを速めた。
 二人を鼓舞しながら、佳亜は木刀を握り締めた。前方から凄まじい勢いで吹きつけてくる風を睨んで受け止め、その風を切り裂くかのように、刀を正面に向けた。
「おおおおっ」
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