7話 ✿ 保健室の二人

エピソード文字数 1,067文字

 天井に「義理だ」とチョコを渡した、あとのこと。

 家に帰り、課題をしながら、蘭々は心ここにあらずの様子だ。

はぁ……。やっぱり、天井は…憶えていないか…

(あれは……小学2年生のことだった…。憶えている方が、おかしいか…。

 しかし、私だけが憶えているとは……ちょっと、さみしいな。

 …い、いやっ、さみしくなんか、ないぞ……!!

  ✿  ❀  ✿  ❀  ✿  ❀


小学2年生の時、運動会の最中、蘭々は怪我をした。


蘭々は治療をしてもらったあと、保健室で本を読んでいた。


カーテンをしめきり、ベッドに腰掛けて。


親が、仕事先から迎えに来てくれるのを待っていた。



あいたたた!!
じっとしてなさい! ほら、これでよし

どうやら、怪我した男子生徒を、保険医が手当しているようだ。

すると、保健室の扉が、ガラッと開いた。

先生、ちょっといいですか。運動場に、遊具から落ちて動けない子が…。

すぐに来てもらえませんか?


 保険医が、慌ただしく保健室を出て行く。



 すると、蘭々のいるベッドのカーテンがゆれて、すきまから「」が顔を出した。

」は、怪我したところに大きな絆創膏を貼られていた。

そして、本を読む彼女を、じぃー…と見つめた。

きみ……どうして、こんなところ本を読んでいるの? 

あ!! 足を怪我したの…? 包帯巻いてる…。

そ……そうだ。

足を、ねんざした…。

だからもう出られない。これから親が迎えに来る…。病院に行くんだ。

(正直、このまま帰れるのはありがたいな。

 今日は特に暑いし、運動会なんて、めんどくさいと思っていたところだ。

 それに、この本の続きが気になる…。保険の先生は、良い本を貸してくれた…。

 運動会より読書の方が、自分のためだ…)

転んで、怪我したの?
……違う
えっ!?
……。足をひっかけられたんだ…。
ええ!? 悪い子がいるんだね。それ、ちゃんと先生に言った?

言ったら、泣かれた

その子が言うには…わたしは嘘つきの怪我人なんだそーだ

そんなのひどい!
いいんだ…
 蘭々は、視線を本に伏せた。

友達のいるヤツは、泣くと「かわいそう」となぐさめられる。


友達がいなくても、女の涙は武器だ。


女の世界では、泣いたヤツは被害者になれる…。

人前で泣くヤツはずるい。


私が本当のことを言っても「あの子を泣かせたヤツ」だと指差されて、加害者だ。


わたしのように、友達のいない強がりで泣かない女は、いつの世も孤独なものだ。

きみ……む…むずかしいお話するんだね…。

そうか?
ぼくが、かわりに言ってあげようか? 足をひっかけたのって、だれ?
私の話を……信じてくれるのか?
次回につづく!
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登場人物紹介

天井 集 (あまい・しゅう)


人生初チョコをもらったのに、幸せでない少年。

花房 蘭々(はなぶさ・らら)


文武両道の優等生。天井にチョコを贈ったが…。

煮貝 杯(にがい・はい)


天井の友人。

バレンタインに、とんでもないチョコをもらう

近松 摩耶(ちかまつ・まや)


野球部のマネージャー。

天井くんたちの同級生

多々良 哲也(たたら・てつや)


煮貝の友人。野球部員。

天井くんたちの同級生

松茸 鶴弥(まつたけ・つるや)


天井くんの同級生。

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