第6話

文字数 949文字

早紀と歩いていた、いつもの帰り道。
だが、今日から“いつもの帰り道”では無くなるかもしれないと思った。

「おい、早紀」

道の物陰に隠れ、帰宅時間を狙って待ち伏せしていた聡は、目当ての人物が通りかかるとすぐさま声をかけた。

「……なんだ、聡一人か」

早紀はクルリと聡の方を振り返り、そこに聡しかいないことを確認すると、何事も無かったかのようにスタスタと歩き始める。

「いや、なんだじゃねぇだろ!ちょっと待てよ」
「やめて!触んないで!」

手首を握り、振り返させると、まるで変質者に絡まれたかのように嫌がる早紀。
だが、聡も祐輔のためにその手を離すことは出来なかった。

「お前、最近、祐輔に対してやりすぎだ、バカ!」
「バカって何よ!私だって辛いのよ、バカ!」

聡が掴んでいない反対の手を、泣きながら聡に向かって振りかざそうとする早紀。
聡は寸での所でかわると、自分の空いた手でそちらも押さえ込む。

「好きだからって何でもしていいわけじゃないだろ!」
「仕方ないじゃない!ミステリアスな黒髪女はね、何でも知ってて驚かせなきゃいけないの!」
「あ~~!!もういい、もういい!!やめろ、そういうの!!」
「簡単に言わないでよ!私がどれだけ苦労して……」
「無理して苦労して好きになってもらっても困るだけだろ!茶髪でも、ショートでも、単純でも、お前がお前らしくいられる形が一番いいに決まってるだろ!」

ライオンの縄張り争いのような言い合いが終わり、辺りに二人の息切れした呼吸音だけが響く。早紀の目からは祐輔以上の涙の滝が溢れ出し、聡はそっと拘束していた手を離す。
思わず力を入れて握り締めていた早紀の手首は赤く変色し、聡は今さら申し訳なくなって鞄から慌ててスポーツタオルを出す。

「……洗ってるから。ごめん」
「ん……」

顔の造形を拭い落とす勢いで、早紀はゴシゴシと容赦なくタオルで顔を拭く。
聡はそれを見ながら、少し落ち着きを取り戻した声で、諭すように早紀に話しかけた。

「無理しなくても、いつか自然体のお前をそのまま受け止めてくれる人がきっといるよ」
「……」
「泣き顔直るまで、家戻りたくないだろ?俺、先に帰ってるから、タオルはポストにでも突っ込んどいて」
「ん……」

早紀もだいぶ落ち着きを取り戻したのか、聡の問いかけに弱々しく返事をし、二人はそこで別れた。
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