第14話 未来に

文字数 516文字

 あれから幾度か秋が過ぎ、次の春にはボクは中学校の制服を脱ぎ、高校へ行くことになる。
 かつてリトルは『いまのこの瞬間も一秒後には過去になる。そして過去は無数に積み重なって歴史になる。そして、それは未来へつながるんだ』と話してくれたことがあった。
 あの時はまったくわからなかったけど、いまなら少しわかる気がする。歴史とは、きっと記憶だ。そして記憶は生き物が生きていく中で受けつがれていくものだ。一番の友だちと過ごした、あの短い期間。ボクらは一瞬一瞬(いっしゅんいっしゅん)を生きて、2人で歴史を作ったんだ。
 そして次は未来の番。
               *
 ボクは今でも河の土手道を通ることがある。
 気がつけば、今でも頭の中のリトルに話しかけているボクがいる。
 もちろんリトルからの返事はない。でも諦めたわけじゃない。それどころかボクは将来、生物学の学者になろうと思っている。そして必ず方法を見つけるんだ。頭の中に目覚まし時計を作る方法を。
 どうしてだって?
 だって、今度こそボクの方が先に寝坊(ねぼう)の友だちに、こう言ってやりたいからさ。
「おはよう、リトル!」って。

               了
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登場人物紹介

リトル

モトヒコの頭の中に住んでいる、明るくて寂しがり屋のスゴく小さな鉱物生命体。

太平洋の底から発掘された地層の中で眠っていたところモトヒコと出会う。

人や動物に幻を見せる超能力を持っているが、その力を使いすぎると……。

モトヒコ

ふとしたきっかけで頭の中にリトルを住まわせることになった小学5年生。

リトルとの冒険を通して成長してゆく。クラスメイトのイクミちゃんが気になっている。

イクミ

モトヒコの同級生の学級委員。しっかりもので物語を通してモトヒコと仲良くなっていく。

叔父さん

モトヒコの叔父。地質学を研究している若い学者。モトヒコの担任教師ちえ子先生にぞっこんだが、告白できないでいる。

ちえ子先生

モトヒコやイクミの担任の女性教師。モトヒコの叔父に出前授業をしてもらうなど教育熱心だが、何か人に言えない秘密がありそう……。

黒眼鏡

陰気で嫌味たらしい、ある国の領事館の男。サングラス姿で、いつも白い頭痛薬をボリボリかじっている。その怪しい動きは、ちえ子先生と何か関係がありそう……。

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