第３６話：招かざる客

「――やっと着いたか」
　度重なる宇宙船（？）の故障により、目的地への到着が大分遅れていた獣耳ロボット達。地球時間にすると約一ヶ月程度の遅れだ。彼らは目標物がいるであろう地域の上空に船を停め、モニターに映る街並みを感無量といった様子で見つめていた。
「よくやったぞ、カロナ」
　狼ロボに褒められた狐ロボ改めカロナは、へへっと照れ笑いをする。
「ブロン兄貴が手伝ってくれたからな」
　カロナは狼ロボ改めブロンに尊敬の眼差しを向けた。
「俺も手伝っただろうが」
「バンテ兄貴は手伝いどころか正直邪魔だった」
「んだとぉ！？」
　長男ブロンに対する態度とは真逆の塩対応をされた虎ロボ改めバンテは、末弟カロナへ怒りを露わにする。
「止めないか二人とも。兄弟で争ってる暇は無いぞ」
「そりゃそうだ。このイライラはあいつらにブチかましてやるぜ！　カロナ、あいつらはどこにいるんだ？」
　ブロンに諭されたバンテは当初の目的を思い出し、ギラギラした笑みを浮かべた。バンテに言われるまでもなく、既にカロナは追跡装置の微調整をし始めており、モニターには上空から地上の標的にズームしていく様子が映し出されていた。

「――いた！　間違いねぇ、こいつらだ！」
　ピコンとモニターいっぱいにクローズアップされたのは、ガスター、ボルタ、ロキソの姿。三人はあれ程苦手だといっていたガンドムのような決めポーズを各々とっていた。
「なに格好つけてんだ、こいつら――！？」
　嘲笑したカロナであったが、その嘲りを遮るようにピコンピコンとモニターへガスター達の姿がいくつも映し出されると、余裕の表情から焦りの顔へ転じた。
「な、なんでこんないろんな場所に！？」
「こいつら複製できんのか？！」
「よく見ろ、二人とも」
　地上のそこかしこに現れたガスター達。それに動揺を隠せないカロナとバンテだが、ブロンだけは冷静にモニターを見つめていた。
「全て本体じゃない」
「あ？　……マジかよ、これ全部看板か液晶ビジョンだ」
　しかめっ面をモニターに近づけ、全てガスター達本体ではないと分かったバンテが呆れたような声を漏らした。
「なんか文字も書いてあるぜ」
「カロナ、翻訳頼む」
「おうよ、任せろ」
　看板や液晶ビジョンそれぞれに書かれた見慣れぬ文字を、カロナは翻訳機に次々読み込ませていく。

『謎だらけのロボット軍団　今宵神秘のベールが剥がされる　薬師寺財閥代表対談２時間スペシャル』
『社会現象を巻き起こす！　『歴女？　いいえ、ロボ女(じょ)です』　鋼鉄イケメンに骨抜き女子達』
『“あの時、私は救われた”　ロボット達の初レスキューをドラマで完全再現！　今夜９時』
『ロボット達の素顔に迫る！　薬師寺研究所監修写真集、精鋭製作中！』
『三体同時発売決定！　薬師寺研究所監修アクションフィギュア！』
　翻訳機が一つひとつ読み上げていくごとに、三兄弟の顔はどんどん歪んでいった。
「だああっ！　聞いてんだけでイライラするぜ！　あいつら何でこんな世間に広まってんだよ！？」
　カロナは翻訳機の停止キーをドンと乱暴に押した。
「なんか無性に腹立つぜぇ！　あの看板全部ぶっ壊す！」
「止めろバンテ。無駄な騒動を起こすな」
　ブロンはモニターに鋭い視線を向けたまま、苛立つ次男を制した。
「カロナ、追跡装置の精度をあげて、もう一度できるか？」
「お、おう！」
　冷静なブロンの指示に、カロナは慌てて装置を再調整し始めた。

「――いた！　今度こそ間違いねぇ！」
「おっ？　確かに動いて……って、めちゃくちゃいんぞ！　どれだ！？」
　モニターに映し出されたのは、どこかのイベント会場。そこでは様々なキャラクターの衣装を纏った集団がおり、その中にガスター達の格好を模した三人組が数十と集っていた。あまりにお粗末な出来栄えのコスチュームから、特撮映画で使われるような完璧な出来栄えの物まであり、ぱっと見では本物のガスター達を判別出来ない。
「とりあえずアレ全部ブチのめしてくるぜ！」
「止めろバンテ」
　拳をバシンと叩き鳴らすバンテを制したブロンは、呆気に取られたままモニターを凝視するカロナの肩へポンと右手を置いた。
「カロナ、追跡装置にビジュアルで判断させず“コア”を追うよう調整してくれ」
「その手があったか！　さすがブロン兄貴！」
　遠い目をしたブロンに的確な指示をされたカロナは、今度こそはと意気込んで装置の調整を始めた。

　＊　＊　＊　＊　＊

「――来ちゃったね、地球外生命体」
「あら～……」
「なんと……」
「……………」
　ケモ耳三兄弟ロボが右往左往している頃、薬師寺研究所では、大型モニターに映る宇宙船の姿を茉莉とロボット達が茫然と眺めていた。