文字数 1,091文字




*

 出会いは中学三年、六月。

 当時も吹奏楽部でチューバを吹いていたのだが、私は一学期図書委員になり、昼休みを図書館で過ごしていた。

 男女一名ずつペアになって、昼休みカウンターで本の貸し出しを行う。

「返却は一週間後になります」

 私がバーコードリーダーを通した本を差し出すと、同じく隣に座っていた男子生徒も、頭を下げる。

「正直、委員って二人もいらないですよね」

「本当だね」

 そう言って目を合わせるのは、一年年下の嶌梓君。

 私達はじゃんけんに負けて、一ヶ月ペアになって過ごしていた。

 正直、同じクラスでも同じ学年でもない、全く関わりのない生徒だから、最初は戸惑った。

 話し上手ではないため、よく沈黙を挟んでしまう。

 相手は下級生だが、異性だと思うと引っ張れない。

 でも、背が高くて、カッコ良くて、サラッとしている所も含めて、彼はモテそうだ、と思っていた。

 もし梓君に彼女がいたら、嫉妬されそうで、嫌だからと極力近付かないようにする。

 表面的な言葉を交わし、半月。

 季節は六月梅雨で、外はずっと雨が降っている。

 そんな中、司書の先生が出張で学校を出るから、と、先生の代わりに、放課後も図書館で貸し出しの係を頼まれた今日、私は終礼を終えると、再び図書館へ戻ってきた。

「環菜先輩、この後の授業何ですか」

「うちは数学だったかな」

「怠いですね、俺のクラスも数学」

 ね、と顔を合わせる梓君は、とても端正な顔立ちをしており、言葉に詰まる。

 いつもあまり目を合わせようとしない私のこと、梓君はよく思っていないかもしれない。

「環菜先輩、お疲れ様です」

「……あれ、梓君。部活は」

「一日くらい、サボッても大丈夫ですよ」

 事前に話し合い、私だけが残ることになっていたものの、梓君はバスケの部活には行かず、ここに来たらしいではないか。

「いいよ、部活行っておいでよ」

「あ、俺がいない方がいい、とか?」

「そういうんじゃないけれど」

 放課後の図書館に人は数えるくらいで、することは特にない。

 本を読む私の隣で、梓君は課題を終わらせている。

 チラリ横目で見ると、真剣な表情でプリントを見ていたかと思うと、梓君はうーん、と大きな伸びをした。

「何ですか」

「ううん、何も」

「環菜先輩って、頭良いですか? 教えてほしい所があって」

「いや、私、頭良くないし……」

 至近距離に行くのが怖くて、私はいつも梓君と一定の距離を保っていた。

 ──それなのに、この日は、違ったんだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
  • 『プロローグ』

  • 1
  • 第一章 『ふわり春風になびく髪』

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 第二章 『思い出には、目を伏せて』

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 第三章 『胸を駆け巡る恵風』

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 第四章 『二人だけの、音楽室』

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み