ルブルム適合試験

文字数 884文字

大部屋の壁や床には生々しく血が付着している。

部屋の中央には1人の男、その目の前には1本の注射器が置かれている。

少し離れた位置では男を囲うように十数人の黒衣を着た者達が黒いフードで顔を隠し、武器を構えている。

…………
ヴェルスの目の前には1本の注射器。

黒い液体の入ったそれを手に取る。

それを打てばその瞬間、害物の細胞が君の血液に混ざり体内の侵食を始める。止めるなら今の内だが、どうする?

部屋の上部、ガラス越しにコートの男がヴェルスに問いかける。

部屋に備え付けられたスピーカーから男の声が部屋に響く。

俺は害物を殺す為にここに来てる、今更な事を言わないでくれ……
そうか、無事を祈る
口から出た言葉とは反対に、手首に針が近づけていくとヴェルスの心臓の鼓動は早くなった。

男の言葉は脅しではない、血の匂いが漂う部屋が証明している。

失敗した場合、この場に集められているフードを被った黒衣の者達によって、人ではなく、害物として処理される。

ヴェルスの左手首に針が触れる。

針が皮膚を貫く。

右手を僅かに震わせながら、血管に液体を注入した。

ぐっ……!!ゔぁぁぁ……っ!……ゔぅ……!!

数秒も立たない内に皮膚の中で痛みが広がっていく。

ヴェルスは思わず持っていた注射器を投げ捨て、腕を抑えた。

外側から、内側から、内部の肉や皮膚をゆっくりと削ぎ落とされているような感覚。

思考は破壊衝動に襲われ、視界も徐々に霞んでいく。

っぐ……!!ぐぁぁぁッ!!
目眩、頭痛、吐き気。

何かが中から体中を引き裂こうとしているような錯覚にすら陥る痛み。

ヴェルスは、ただ呻き、耐えるしかなかった。

短いようで長かった数十秒が過ぎた。

ヴェルスを襲っていた激痛は嘘のように引いていき、次第に落ち着きを取り戻していった。

っはぁ……はぁ……はぁ……
……適合おめでとう、これで君はルブルムとなった。アレクトの希望が誕生した事を祝福しよう
男の言葉によって、周りの者達が武器を納める。
ヴェルス·ヴルード。準備が出来次第、君の所属する支部へ送らせよう
ヴェルスは黒衣の兵士に付いて行き、場を後にした。
対害物兵士ルブルム……活躍を期待させてもらおうか
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